第17話 先見の姫君は知らされる

 これからコイバナが始まる、とわくわくしていた私にラスボスさんは問いました。


 「お主、自分の最初の記憶が何か覚えておるかの?」


 それがコイバナとどう関係するのか分かりませんが、私は正直に答えました。


 「母上のドレスを破いてめちゃくちゃ怒られました。父上が髭をジョリジョリしてきて母上にしがみついたら破れたんです。三歳くらいの時です」


 「……私はの、最初から知識と力と役割を持っておった。じゃが記憶がなかった。私は最初からラスボスじゃった……とお主に言っても通じんじゃろうが、こう書けばわかるかの」


 ラスボスさんは棚から学校の参考書にも使われていた紙を一枚取り出して。


 LAST BOSS.


 「ラストボス、最後の実力者。死闘の末に魔王をも倒した数多の強者たちがその最後に挑んだ存在。それが私じゃ」


 ユーリさんにも明かしていないラスボスさんの正体、それ自体衝撃の告白です。

 ですが、私にとってより重要な事実がラスボスさんの言葉に含まれていました。

 『魔術言語を音読した』と言う事実です。


 「……ラスボスさんは魔術言語の音を、知っているのですか……?」


 「知ってはおるが、私の過去とは大して関係ないのう。最初から知っていただけじゃ」


 この世界に残された最も大きな謎の一つを、ラスボスさんは『最初から知っていた』の一言で片づけました。『みすてりあす訳が分からない』です。


 そしてここから、ラスボスさんとユーリさんの『ぷろろーぐ』が始まりました。


 「そんな私の記憶は身に覚えのない敵意を私に向ける目の前の人間を滅ぼす光景から始まった。そ奴らは使命がどうだの未来がどうだのと声高に叫んでおった。その頃の私は誰もいない部屋をずっと眺めておった。たまに誰かがやってきても、私が手を振るえば誰も動かなくなり、跡形もなく消える。元の景色に戻り、やがて私は眠る。その繰り返しじゃ。そんな私の前に時間魔法の使い手が現れた。時を超えるたびに髪を少しずつ白髪に変える、銀髪の男じゃった」


 「……髪を少しずつ……ユーリさんと同じ……」


 「名前は知らん。というか、私はそいつについて何も知らんのじゃ。ともあれ私はそいつに倒された後、強引に連れ出された。そして短いながらも共に旅をした。ほどなくしてそいつは消え去った。そいつが何者だったのかを私が知るより先にの」

 「消え去った?」


 「時間魔法で過去や未来に飛んだのやもしれん。ユーリとは違ってそいつは意識だけじゃなく、自分の身体ごと時間を渡ることが出来るようじゃったしの。じゃが、その時私の旅に初めて目的ができた。そいつが誰だったのかを知るために、私は再び旅を始めたのじゃ」


 「行く当てはあったのですか?」


 「何も。とはいえ希望のない旅でもなくての、時間魔法使いなんて極めつけに希少な存在が世界にそうそういるはずもないのじゃ。手掛かりを見つければこちらのものじゃと気楽に考えておった」


 そうそういるはずもない、というのはラスボスさんの言う通りです。時を渡る魔法使いなど、私の知る限り魔法研究の歴史上に一度も登場したことがありません。


 ただ、希望がない旅ではない、というのは納得できませんでした。


 広い世界の中から、記録にも残っていないたった一人の人間を探す。この世界には戸籍や情報網が整っていない土地も多いのです。手掛かりを探すというのは、星空の中から新しい星を探し出すような荒唐無稽な話です。


 そしてその手掛かりを指して『希望』だというのなら、ラスボスさんの旅はやはり『希望のない旅』だったのだと、どうしても考えてしまうのです。


 「そうして世界中を旅してはみたが、得られた手掛かりなどたかが知れていた……せいぜいが遺跡がどうとか、古くからの言い伝えだとか、そんなものじゃった。それでも私は偶然、ささやかな手がかりを手に入れた」


 「……ささやかな手がかり?」


 「うむ。予知能力を持つ人間が国を追われ、この王国に逃げ込んだとな」


 未来を知った状態で現在に戻ってくるというユーリさんの能力は、傍から見れば『予知能力』と表現することができます。


 時間魔法使いと戦ったラスボスさんは『予知能力』という言葉が持つ類似性に気づいたのでしょう。


 確かにそれはささやかでこそあれ、手掛かりであり、希望だったはずでした。


 ですがラスボスさんの表情が不意に影を帯び始めます。


 「そして私は八年前、まだ幼い頃のユーリと出会った……村の外れの森の中で、あ奴は両親を殺しておった」


 「……え?」


 「その手に血まみれの石を持っておった。両親の手には凶器が握られていて、あ奴の髪は白かった」


 その状況から考えられることは一つでした。


 年端もゆかない男の子が両親に危害を加えられ、たった一人で試行錯誤を繰り返し、その果てに体格的にも心情的にも絶対に不可能だったはずの、自分を殺そうとする実の両親を逆に殺すという未来にたどり着いた。


 言葉を失った私は、自分の認識が正しいかどうかを問う事すらもできないでいました。


 「あ奴は泣きながら笑っておった。私はその表情の意味を知っておった。取り返しのつかないことを為してしまう自分と自分自身の力を、どう扱えばいいのか分からない。私の記憶が始まった時と同じ景色をあ奴も見ていたのじゃろう……それは子供が見ていいものではない」


 「……」


 「私はユーリと話をし、そして助けた。あ奴とあ奴の両親をそこまで追い詰めた奴らとも話をした……ここの村人全員じゃ」


 「村人総出でユーリさんたちを殺そうとしたのですか!?」


 ラスボスさんは小さくうなずくだけでした。


 「奴らの言い分はこうじゃった。刺殺、絞殺、焼殺、毒殺、どう殺そうとしても上手くいかない。気味が悪いくらい勘のいい悪魔ガキ。あんな化け物は死んだほうが村の平和のためになる。あの両親は化け物を生んだ者の責任と使命を果たそうとしただけ。全ては村の人々の為。誰も悪くはない」


 ラスボスさんの言葉の中に散らばる、いくつかの単語が私の中に強い印象を残しました。


 悪魔、平和、責任、使命、人々の為……もしかして、と私の中で唐突にピンとくるものがありました。


 この瞬間、普段は温厚なユーリさんが私たちとの初対面の時になぜあれほど怒り狂っていたのかという問いの真相に私はたどり着いたのです。


 私の考えを見抜いたかのようにラスボスさんが言葉を続けます。


 「私もユーリも美しいだけの文句を信じておらんし興味もない。善悪も平和も責任も使命も他人も、見方を変えればただのゴミじゃ。それを声高に押し付けてくる奴など邪魔でしかないと身をもって知っておるのでな」


 私たちがこの村に到着した日、グレゴールさんが崇高な大義で飾られた台詞の数々をユーリさんに告げた。


 それは本人が意図したものではないにせよユーリさんの暗い過去に触れ、強い敵愾心を抱かせたに違いありませんでした。


 「……ともあれ、私はあ奴の魔法について説明した上でユーリを追い詰めた落とし前をつけさせた。命は取っておらん。最も信頼していた人間に裏切られ、何度も殺されては元に戻り、最後にはその信頼していた人間を自分の手で殺す……あ奴と同じ目に遭う幻覚を見せ続けただけじゃ」


 落とし前。一週間前に私も聞かされた言葉です。


 あの時は何故か宴が催されたのですが、本来はやはり『やられたらやり返す』とか、『相応の報いを受けさせる』とか、そういう意味合いの言葉です。


 「とはいえ、それがきっかけでまともに言葉も話せなくなって自ら死を願った奴も少なくなかった。今回の件を忘れたいといった奴らについては、私とユーリに手を出せばひどい目に遭うという恐怖だけを残し、ユーリを追い詰めた一連の記憶を消してやった。今村にいる奴ら全員じゃの。そうでない奴らは今頃村の外やら墓の中やらじゃ。という訳じゃから、今のこの村には私とユーリ以外にその過去を知る者はおらん」


 私はユーリさんが語った言葉を思い出していました。


 『敬遠って言うんだ……お互い様だけどな』


 村人たちとユーリさんは良き隣人同士ではあるけれど、同時に再び自分を殺しにかかる存在でもあったのです。


 その一方で、私はラスボスさんが使ったであろう魔法についても意識を傾けていました。


 人に思い通りの幻覚を見せ、特定の記憶だけを消す。


 幻覚だけならば神狼種も使っていましたが、記憶を自在に操作する魔法など聞いたことも想像したこともありません。


 人類に偽りの記憶を植え付け容易に支配下におくことも出来る、それは魔王を倒した人間が挑むに足る凶悪な力でした。


 「……ただの、この一件で私は行き場を失ったのじゃ」


 不意にラスボスさんが力なく呟きました。


 「行き場?」


 「ユーリは不完全ながらも時間魔法を扱える。おそらくは奴の両親こそが噂で聞いた人物だったのじゃろうが、死んでしまった。その親類や祖先を辿り、時間魔法使いの正体を探るという私の目的を果たすことはできなくなったのじゃ。そうして私の旅は終わった。そして気が付いたのじゃ。旅を終えた私には、することもなければ居場所もないということにの」


 元居た場所に戻る、と敢えて聞いたりはしませんでした。

 可能ではあったのでしょうが、したくなかったのでしょう。


 そして私は考えてしまいます。


 城を追放され戻る場所を失った私も、いつか同じ結末を辿るのではないかと。


 「そして私は、ユーリと契約することにした」


 「契約?」


 「ユーリが自分から生きることを諦めない限りお前を養ってやる、その代わり私の衣食住の世話は全て任せると私は提案したのじゃ。ユーリからは『今後は迂闊に力を使うな』と逆に条件を突きつけられもしたがの」


 私の中で、私がユーリさんに抱いた恐怖とラスボスさんの言葉とが少しずつ繋がっていきます。


 「……天涯孤独になったユーリを放ってはおけんかったといえば聞こえはいいが、本当はここに居つく理由が欲しかっただけかも知れん。じゃがそれから私たちは魔王軍のちょっかいを受けながらも共に仲睦まじく過ごしてきた」


 来ました。ついにコイバナのお時間です。


 握る拳に力を込め、二人の仲をもっとつまびらかに聞かせて欲しいと喜び勇んで口を開きかけたのですが、先にラスボスさんの言葉が続きました。


 「……そしてそれがきっと、ユーリの命を危険にさらしたのじゃろう」


 「……え? あれ……?」


 「……幼い身空で両親を殺して生き延び、私に力を使わせないために魔王軍と戦い続けたあ奴は、どんな状況でも生き抜く道があるという経験則を信じ込んでしまった。だからお主を助けることをも最後まで諦めなかった。今回も死なないとでも考えておったのじゃろうな」


 ラスボスさんは言っていました。


 一連の記憶を消した、覚えているのはユーリさんとラスボスさんだけと。


 であれば、ラスボスさんが魔王すらも問題にならない凶悪な力を備えていると知っているのも二人だけのはずです。


 ラスボスさんの力を知るユーリさんもまた、ラスボスさんが自分と同じ目に遭う可能性があると気付いたのでしょう。


 まだ子供だったはずのユーリさんがラスボスさんに突きつけた条件とは、つまりラスボスさんを守るためのものだったはずです。


 そしてそれはユーリさんがラスボスさんの身代わりになること、もっと言えば自分から命の危険に身を晒すことを意味します。


 子供が見てはいけない景色を見た結果、ユーリさんの中できっと何かが壊れてしまったのです。


 敢えて言うのなら、それはユーリさんから見た自分自身の価値なのです。


 自分と言う存在は扱いに困る、だからぞんざいに扱っても構わない。


 でも、誰かが同じ目に遭う事には耐えられない。それがたとえラスボスさんと言う自分自身と似た境遇の人であっても。


 ユーリさんは自分が抱えている矛盾に気づいているのでしょうか。それに――


 「……そうして私は助かった……? 契約のせいで……」


 ――契約のせいで私を助けて死にかけた、って何ですか。


 死ぬ覚悟を決めていた私を助けて、その代わりに自分が死にかけた。

 必死になって助けたら今度は私も死にかけた。

 更には目覚めてから半日間。

 その間ずっと私を悶々とさせた問いの答えがこれですか。


 私は生まれて初めて感じる、昏くドロドロとした苦しさが胸の奥からこみ上げてくるのを感じていました。


 苛立ちでした。私は何故か自分に対して苛立っていました。


 契約なんてどうでもよかったのです。

 私はただユーリさんが苦しむのが嫌だったのです。

 そしてユーリさんを苦しませる原因に自分がなっていたことが悔しくて仕方がない。

 こんなことなら私はやはりあの時……と考えたところで気づいてしまいました。


 自分をぞんざいに扱っても構わないと、私も考えているのだということに。


 「……私が言いたいのは、それでもお主が約束を果たしてくれたということじゃ」


 「えっ?」


 「お主は生きて帰ってきた。お主はユーリを連れ帰ってきた。お主の懸命の治療のおかげでユーリは今も生きておる。悔やむべきことはあれど、それが一番大事なことで、私にとって絶対になおざりにしてはならないことなのじゃ。じゃから……ありがとう。これで私たちのなれそめの話は終わりじゃ」


 頭を下げるラスボスさんは顔を真っ赤にしていました。


 自分の恋のきっかけを語るのは気恥ずかしいものなのだと姉上が言っていたのを思い出しました。


 一方で、私はうまく言葉を紡げないでいました。


 噂で聞いていたコイバナとはどれもこんなに深刻な話だったのでしょうか。


 私はコイバナを甘く見ていたのかも知れません。


 「それでまあ……そのお礼と言うわけでもないのじゃが……」


 ラスボスさんを見ると、何故でしょうか、身体を微かにねじり、しなを作って上目遣いで私を見ています。しかもその顔は仄かに赤みを残してもいました。


 この可愛らしい仕草……今度こそコイバナが来ると期待した私は好奇心に目を輝かせつつ、ごくりと息を呑みました。


 「……お主には一つ、魔術について教えてやろうと思うてな」


 ……期待を外されました。人に悪夢を見せて自在に操る手練手管でも伝える気でしょうか。


 けれども私の目の輝きは更に強さを増します。


 「魔……ですって?」


 私は『魔術』という単語について何も知りません。ですがそれは『魔』なのです。知りたいと考えてしまうのは『魔』に魅入られた者の習性なのです。


 どうにも色気のない話ですが、私にはどうしようもありませんでした。


 「うむ。人は想像力を媒介として魔法を操る。魔法を使う人間なら誰でも知っておるじゃろう。じゃが人の想像は十人十色。ゆえに同じ炎の剣フィレスウォルドという魔法でも、巨大な剣を生み出す奴もおればフライパンを温めるだけの奴もおる。同じ魔法でも使い手が違えばその効果も規模も異なる。これもまた魔法を扱う者なら知っておろう?」


 「……はい。私の魔法も、別の人が使えばずっと……」


 「じゃがお主は想像力ではなく論理を媒介として生物の仕組みを暴走させる術、器官爆発オルガンブルストとやらを編み出した」


 論理、と言われれば確かにそうです。想像ではありません。ある手順を踏めば一定の結果が発生する。ただの行為とその結果です。そして幾度も失敗を重ねながらその機序を考察し、様々な手法を試し続けた結果として生まれたのが器官爆発。それは確かに実践と論理の積み重ねであり、他の何かに例えるのなら、むしろ職人の伝統技能と近しいものでした。


 「お主の得意な魔法は治癒と強化だったかの。治癒の根幹とは傷を癒すことではない、そして強化の本質もまた単純な強化ではない。それが何かと言えば、システム……仕組みの復元と操作じゃ。例えばその二つの魔力をうまく扱えば……」


 そう言ってたまたま床を張っていたアリを摘まみ上げたラスボスさんがその手に魔力を集中させました。その全てを受け止める形になったアリが徐々にその姿を別のものへと変えていきます。


 「え、カマキリ……!」


 「アリを同じ大きさのカマキリに作り変えることが出来るのじゃ。そして……爆発させることも出来る」


 再びラスボスさんがその手に魔力を注ぐ様子を眼鏡が映し出していました。

 その後の光景は見慣れたものでした。

 ラスボスさんが摘まんでいた箇所が異常に膨れ上がり、ぱちゅん、と湿り気を帯びた小さな音を立てて爆ぜます。

 器官爆発オルガンブルストでした。


 「……今のは……私の……!」


 「私のしたこととお主の術の違いとはの、同じ魔力を使って仕組みを暴走させ爆破するか、仕組み自体を別物に改変するか、それだけなんじゃ」


 生き物を別の生き物に変える芸当と私の器官爆発が同じ類のものと言われても簡単に頷くことはできませんでした。


 ラスボスさんが事も無げに成したのは『生けとし生けるもの』を生み出す所業、創世の伝承で語られる出来事です。


 「もちろん、アリとカマキリの身体構造もそれを操作する方法も知らぬ今のお主に私と同じ真似は出来ん。じゃがそれを知りさえすればお主にも同じことができるじゃろう。私がお主の術を真似たようにの」


 「……何を言って……」


 「共振という技術を編み出したシエンセとやら、そして器官爆発を扱うお主は、同じことをすれば誰でも同じ結果を再現できる方法、論理によって『魔法』の本質を扱う術、つまり『魔術』を心得た」


 「……それが、魔術」


 「私を除けば世界でまだお主たちしか知らん力じゃ。そして独力でユーリの力を見抜き、魔法の根幹に触れ、魔術を編み出した……先見の姫君のその瞳と思考は、まだ誰にも見えない何かをいつかその目に映すのじゃろう」


 優しく言い聞かせるようなラスボスさんの言葉に、私はなぜか泣きたくなっていました。


 けれど何に泣きたくなっていたのか分からなくて、脳裏にその原因と思しき言葉を幾つも思い浮かべていました。


 ライバルと同じ場所に立てたことでしょうか。


 私を見てくれていたことでしょうか。


 私のしてきたことを認めてくれたことでしょうか。


 あるいはそのどれでもなくて、期待させてくれたことなのかもしれません


 先見の姫君として、ユーリさんに並び立つ資格があるのではないのかと。


 私は再び顔を赤く染め始めたラスボスさんの言葉を待っていました。


 「お主の魔術は初見であれば私の命すら脅かしたじゃろう代物じゃ。死んでもやり直せるユーリ相手では分が悪かったが、存分に誇ってよい。先を見るその技能スキル、上手く使うとよいのじゃ……それじゃあの、私はもう寝るのじゃ!」

 『すきる』という謎の単語を発して急に話を締めたラスボスさんは『はんもっく』によじ登り、こちらに背を向けて横になりました。


 ラスボスさんは人に感謝したり褒めたりするのが照れくさくて仕方ない質なのだと、私は何となく察しました。結局この人、恋愛がらみで表情を一度も変えなかったのでは、と私はため息をつきます。


 それと同時に、照れくさくてもちゃんと言葉を口にするラスボスさんに、一つだけ思いを伝えておこうと思いました。


 「ありがとうございます。最後に一つだけいいですか?」


 「……何じゃ?」


 「ラスボスさん、とても可愛いです」


 「かっ!? ーーーーーーっ!」


 途端にラスボスさんが顔を真っ赤にしながら手近にあるものを片っ端から投げつけてきたので、私はたまらずユーリさんの部屋に逃げ込みました。

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