第12話 落ち込む義弟
夜中に何か騒がしい物音で何事かと起きて侍女が入ってくると事の起こりを説明されて私は急いで夜着の上にコートを羽織り薬草園へと向かう。
消火隊の活動は既に終えて火は薬草園を全焼して焼けた煤の匂いがしていた。
その側のベンチに項垂れているラファエルがいた。従者は頭を下げて侍女と共に下がる。
「ラファエル!!大丈夫!?」
まるで空を見ている様にラファエルは呆然と放心したままだ。ラファエルが大切にしていた薬草園が全て焼けてしまったのだから仕方ない。
「ラファエル…」
ソッと手を握り背中をさすってやるとラファエルは気が付いて私を見た。
「あ…あ…アマーリアさん…」
「そうよ…私よ?しっかりして?」
「薬草園が…薬が…」
ラファエルはショックを受けている。
今にも死にそうだ。
するとお父様がかけてきた。
「ラファエル!アマーリア!!大丈夫かね?怪我は?」
ラファエルはビクリとした。
「お父様。私達は大丈夫です。今し方駆けつけたので。でもラファエルがショックを受けて…」
お父様も薬草園の酷い有様やラファエルの顔色を見て
「…薬草園の警備の者達の夕食に眠り薬が仕込まれていたようでな…」
ラファエルは顔を上げ
「眠り薬?何で…それはやはり…あの愚かな父の仕業?でも今は牢獄にいるはずなのに…」
「…恐らく…クレンペラー伯爵夫人の仕業だろうな。夫と息子を牢獄に入れられて怒ったのだろうな。足がつかぬよう念入りに計画していたんだろう。呆れた家族だ」
ラファエルは思い詰めたように
「何処までも…僕を苦しめて…」
「ラファエル…薬草園も薬草もまた取り寄せよう。復讐心に駆られてはいけないよ…」
「お義父さま…また僕のせいで…」
「自分を責めないでラファエル…」
「そうだよラファエル、王子にも早馬でこの事は知らせた。必ず伯爵夫人の罪も明らかになるだろう。焦らずともいい。伯爵家は没落したも同然だよ。もうこれで終わりさ…私はちょっと聞き込みをしてくるからアマーリアはラファエルと部屋に戻りなさい」
「はい、お父様…」
お父様は任せたぞと言い、足早に消防隊や現場の調査に乗り出した。
「行きましょうラファエル…」
ラファエルはフラフラと私と共に歩き出した。
こんなラファエルは初めてかも。余程ショックだったのね。明日お医者様を呼んだ方がいいかも。ラファエルの方が倒れてしまうわ。
ラファエルの部屋を開けて座らせる。ホットミルクを侍女から受け取り下がらせた。
「大丈夫?」
ラファエルは暗い顔のままだ。
そしておもむろに立ち上がり棚を調べ出した。
「………これだけか」
積んでおいた薬草の予備を確認したようだ。夕方に積んだものだろう。数日分しかない。薬草を取り寄せるにしても2週間はかかるのでそれよりは王宮へ貰いに行くのが早いだろう。
「明日すぐに王宮に行かなければ…」
ラファエルは思い詰めた。
そしてなんと引き出しから短剣を取り出した。
「ラファエル!?何をしようと言うの!?」
「………アマーリアさん…。僕…許せない…。何故こんなっ!!憎しみが湧いてくるんだ!母を殺されサーラが残した薬草だってあの薬草園には有ったのに!サーラの思い出も奪われてアマーリアさんは息子に犯されそうになったしお義父さまには毒を盛り…何故だ!直接僕に手を出さず周りばかり苦しめて!
…ううっ!!」
ラファエルは私に抱きつき震えて泣いた。
「お父様が言ったでしょ?もう終わったのよ…。大丈夫だから…貴方まで愚かにはならないのでしょ?」
「………」
ガシャンと短剣が床に落ちた。
「僕は今…激しい怒りでどうにかなってしまいそうだった…。ごめんなさいアマーリアさん。……部屋に戻っていいよ。ああ、送るよ」
と立ち上がりかけたが私は
「こんな状態の貴方を1人にしちゃいられないわよ!今日は一緒にいるわ!明日王宮に行くのでしょう?」
「………」
何も言わないラファエルの手を握りベッドへと移動した。
「あ、朝まで一緒にいるから。もちろん何もしないで眠りましょう?」
と言うとラファエルはコクリとうなづいた。ソッと抱き寄せるとラファエルも私を抱きしめただけで震えていた。
涙が寝巻きに染みている。
「この家に来るときに持ってきたサーラの薬草も一緒に燃えちゃった…。僕にとっては形見みたいなものなのに…。酷い。酷いよ」
「ラファエル…薬草は燃えたけど私達は生きてるわ。大丈夫。未来はあるから」
「本当に…終わった?あの息子の息子や娘がまた復讐に来たら?僕がいる限り狙われたら?僕は…生きてちゃダメなんじゃないかな?」
「ラファエル!何を言うの!?生きててもらわないと誰が私を幸せにしてくれるのよ!」
「うううっ!」
ラファエルのギュッと抱きしめる力が強まる。
私は落ち着かせようとラファエルにキスをする。ラファエルも受け止める。
ラファエルは
「ごめん…少し眠るよ…」
と私を抱きしめたまま青い顔で気絶するように眠った。
可哀想に。ラファエルの頭を撫でつつ私も眠りに落ちた。
*
起きるとラファエルがコリコリと薬を作ってる音で目覚めた。
「ラファエル…」
目を擦りながら近寄ると
「おはようアマーリアさん…」
チュッとおはようのキスをされ、残り少ない薬で数日分のお母様の薬を作っていた。
「これから王宮へ行くね。薬を持ってまた戻るよ」
「私も行っていい?」
何かとても心配だった。
「心配しなくてもあのクズ達には何もしないよ…」
「それでも貴方が倒れたら困るから。自分で気付いてないの?酷い顔色よ?薬草なら誰かに頼んで取ってきてもらいましょう?医者を呼ぶわ」
「こんなの…大丈夫…。僕が行かなきゃ!僕が!僕…が…」
そこでラファエルはクラリとしたのか慌てて私は彼を支えた。
「ほら!こんな調子ではダメよ!!休んで!」
と強く言う。
ラファエルは涙目になり
「判った…お義母さまの薬だけでも作らせて…」
と作業に戻る。心身共に弱りつつ、薬を完成させ、侍女に渡して医者を呼んだ。
「……少しだけ熱がありますが、やはりショックだったのでしょう。しばらく休んだ方がいいですね。安定剤と熱冷ましを渡します」
「自分で作れます…」
「おやおやとりあえずは医者にも仕事をさせてくださいよ」
と医者は笑いとにかくゆっくり休ませるよう伝えて出て行く。入れ替わりにお父様が入ってきてお母様も心配していたが、元気だから安心しなさいと言われラファエルは少しホッとしたようだ。
「ラファエル、食欲はあるかい?君の好きなものをシェフに頼もうか?」
「ラファエル何か本でも読む?気が紛れるわよ?」
とお父様と私は交互に慰める。
お父様は私を見て
「ああ、私はお邪魔かな?ラファエルすまない、気が利かなかったね。アマーリア、ラファエルと子作りギリ手前までして慰めてもいいんだぞ?」
「ちょっと!ギリ手前とかやめてよ!恥ずかしい!結婚までラファエルは私に手を出さないんだからっ!紳士なんだから!」
と言うとお父様が
「ふーむ…じゃあ、男の夢の胸に顔埋めるやつとかしてあげなさい」
と言うお父様に呆れる。
父親の癖とか聞きたくないわ。
ラファエルはそれでも笑うことなく落ち込んでいるから相当なショックだった。
「お父様下品なこと言って!全然ダメじゃない!」
「なにぃ?じゃあラファエルはどこに萌えるのだ?」
「知らないわよ!しいて言えば膝かもしれないわ」
「なるほど!それもまた男の夢だな、膝枕最高!」
「うるさいわねぇ、男の夢いくつあるのよっ!」
と言い合っていると横から
「俺も胸に顔埋め派ですよ!オリヴァー公爵!しかしラファエルは膝枕派かー。膝枕は長時間だと疲れさせますからね…そこは膝枕派とは揉めるんですが」
と無駄に綺麗な顔してボケたアルフォンス王子がやってきた。
「アルフォンス王子…」
ラファエルは顔上げた。
「どうしたそんなメソメソな顔で!薬草をたくさん持ってきてやったぞ!」
「ありがとうございます…」
「お前が望むなら今すぐあのクズ男や息子を死刑にしてやってもいいんだが。夫人についても薬草園を焼いた男を捕まえて今拷問にかけている。調べたらどうも夫人の愛人の1人らしくてね。そいつがさらに無関係なゴロツキに頼んだらしいね。当人同士は違うと言ってるけど口を割るのも時間の問題だな。
全く夫婦家族揃ってどうしようもない奴等だ。夫人はどうせ没落するならと最後に弟くんの大切にしてるものを壊そうと考えたんだろう。流石に公爵殺しでは自分にも容疑はかかるからね」
「…………僕は…あのクズ家族と関わりたくもないです。本当は殺してやりたいとさっきまで思っていました。でも…もう嫌なんです。僕は僕の幸せを守りたいだけです!…処罰は王子の好きにしてください」
とラファエルは言った。
「そうか…俺の好きにしていいなら…奴等をうんと遠くの監獄島に送り一生逃げれないように収容し絶望を与えよう。お前が味わった絶望の何倍もの苦しみを死ぬまで味わせてやろう」
ハッハッハー!と笑いながら王子は帰って行った。
公爵家の警備体制も暫く厳しくなり薬草園も直ぐに新しい着工が始まった。完成まで王宮から定期的に支給や取り寄せをすることになった。
ラファエルも少しずつ元気を取り戻していく。
今朝もお母様に薬を渡した後ラファエルの部屋に寄る。
「アマーリアさん…もう大丈夫です…」
だいぶ顔色は良くなってきた。お父様もお母様も私も屋敷の皆も心配していたからラファエルはとても愛されている。
「本当、無理じゃない?いいのよ、甘えて…。ええと。ほら胸に顔を埋めても……ってそんなに私無いのだけれどね…」
自分で言って自分で落ち込んだわ。膝枕にしときゃ良かったわ。
するとラファエルの鋼の糸がモジモジしてるのが判った。
「じゃ、じゃあいいの?」
と言うから、胸に顔埋めるやつもしたかったんかーい!!ってツッコミそうになった。
「ええ、も、もちろんよ?」
と焦りつつ無い胸を突き出す羽目になった。
それでもラファエルは久しぶりに夢心地に
「アマーリアさんの胸に顔を埋めてもいい日が来るなんて僕は幸せ者だよ……」
「いや…ごめんなさい…そんなに無くて」
「……………♡」
しかし無言で顔を埋めているので仕方なく私は髪を撫でてあげた。その日からこっそりバストアップ体操を始めた私でした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます