第283話 一旦集合からの散開

 車と合体した蚊は電気も通りやすく非常に狩りやすい。巨大な蚊として襲って来るものは比較的柔らかい体と関節部分が弱いため切りやすく、進化する前に畳みかければさほど苦労せずに討伐に至る。

 問題は数の多さだが、それは上でパタパタと飛ぶヘリコプターに乗って寛いでいらっしゃるであろうお嬢様に任せるとしよう。


 私に向かって突進してきた一台のバイクを上に飛び避けると、すれ違い様に直尺を投げチェーンを切る。

 エンジンからの力を伝えるチェーンを失いタイヤを回せず、推進力を失った本体はあっけないほど簡単に倒れ道路を滑ってガードレールに衝突する。


 宙に『火』『弾』を描き順に朧で撫で斬ると火の弾をバイクに撃ち込む。

 転倒した衝撃で漏れ出していたガソリンに火弾が引火し爆発。そして炎に包まれるバイク型に蚊を討伐した私は次なるターゲットを探そうとビルの壁を駆け上がり屋上から下を見る。


「なんじゃあれ」


 車を中心にして手足の位置にバイクが生えた物体はロボットのようである。


「パパとか宮西君あたりが喜びそうな形してるなぁ。それも気になるけどあっちの方が気にあるなぁー。質の変化した魔力感じてたけどやっぱりスーだったわけだ」


 車とバイクが合体したロボット型の蚊も気になるが、それ次以上に四匹のぬいぐるみと共に戦うスーの方が気になってしまう。


 ロボットが腕を振り上げると手であるバイクの車輪を高速回転させスーに向かって振り降ろすがアルマジロが腕でガードする。火花が散るなか、大きく跳ねたウサギがスーを抱え腕の上に立つと同時に、地面を猛スピードで走ってきたシャチとイヌコロが同時に足に体当たりをする。

 足をすくわれ、ロボットが大きくバランスを崩すと同時に腕に乗っていたうさぎが飛び上がり、抱えていたスーを倒れるロボットへ向け投げる。

 背中から倒れるロボットの顔面にスーの蹴りがきまると、ロボットは勢いよく地面に叩きつけられる。


 大きな音を立て倒れたロボットを襲うのはそれぞれに青白い光を宿したぬいぐるみたちとスー。アルマジロが爪を、シャチがひれを、ウサギが足を、スーが手を同時にロボットの四肢に打ち込み手足を無効化したと思ったら、同時に飛び上がって順番に胴体に魔力を打ち込んでいく。

 一撃では壊れない胴体も怒涛の四連撃に粉砕され内部に魔力を撃たれあえなく機能停止する。

 そしてイヌコロは攻撃のタイミングを見失ったのか耳と尻尾をペタンとしてウロウロしている。


「むちゃくちゃだ。スーが一番やばくなったかも」


 一次的な弱体化を心配していた私がバカみたいに思えるスーのでたらめな攻撃に、前世であんな敵がいなくて良かったと思ってしまう。


「ちょっと見ないうちに凄いことになってるじゃん」


 ビルからスーのもとに飛び降りた私が声を掛けると、キリリとした目をまん丸に変えて私を見たスーが駆け寄ってくる。


「うた! スー強くなったのです! 今の『玉兎 ボコボコの型』見たですか? 凄かったのですか!」


「うん、凄かった! それにしてもボコボコの型かぁ……可愛い感じが逆に恐怖を感じさせる技名だね。あれ? その頭にいるのは」


 スーの髪の間からぴょこっと体を出して私に手を振る小さなウサギを指さすと、スーが嬉しそうに頭に手を伸ばす。


「お母さんなのです」


【うたちゃ~ん! 私こんなに小さくなっちゃったの】


 髪の毛に住む小さな母親と娘の姿は、どっかの下駄とちゃんちゃんこを着た妖怪親子みたいだなと思いながら、スーの頭にいる白雪に顔を近付ける。


「こんなに可愛らしくなっちゃって、スーの頭に住んでるんだ」


【可愛いって言われちゃった!】


「お母さんは可愛いのです!」


【そんな可愛いお母さんの娘のスーも可愛いのよ!】


「わーい! スーも可愛いのです!」


 私の言葉に二人が手を叩いてキャッキャッと喜び出す。


 なんかスー白雪に近くなったというか、戦闘面では大きく向上したけど生活面でポンコツになってきたような……。

 そんな思いは胸にしまえる大人な私はぬいぐるみたちを見るとその視線に気づいたスーが、私の手を取りぴょこぴょこ跳ねる。


「スーが二体、お母さんが一体操ることが出来るのです! みんなで宇宙獣をボコボコなのです!」


 どうだ! 誉めてくれ! と胸を張るスーの頭を撫でると自ら頭を擦りつけてなでなでを加速させてくる。小動物みたいな動きに思わず笑ってしまう。本来のスーはこういう性格なのだろうと思いながらもう一度ぬいぐるみたちを見る。


「ところで、あんたはいつまでぬいぐるみと一緒に並んでんの?」


 左からアルマジロ→ウサギ→イヌコロ→シャチの順で並んでいるぬいぐるみたちのなかのイヌコロに声を掛けると嬉しかったのか尻尾をパタパタと振りだす。


「オレは待てが出来る犬だ」


「あぁ、なるほど。つまり攻撃のタイミングを見失った言い訳してるってこと?」


「きゅぅ」


 変な声を出して耳を倒すシュナイダーを見て、私はため息をつく。


「あんたさ、今更だけど仮にも転生前はおっさんなわけじゃん。人としてのプライドとかないの?」


「ないな」


 即答される。しかもキリっとした表情で堂々とした態度でだ。


「犬として生きていくと決めたときからプライドは捨てた。おかげで今は楽しい犬生を歩んでる。詩には飼ってくれてありがとうの言葉しかない」


「あんたのその良くも悪くも吹っ切れたとこ尊敬するわ」


 犬生を謳歌する我が家の飼い犬に感心してしまう。


「さて、次から次に湧いてくる蚊どもを殲滅させないといけないわけだけど、私らは暴れ回ってれば上を飛んでるヤツがどうにかしてくれるはずだから。頑張って暴れようか」


 私が上を指さすと、スーと白雪にシュナイダーそしてぬいぐるみたちも上を見る。

 私の言葉の意味を理解してくれたようでスーが大きく頷き、シュナイダーがお座りをやめ立ち上がる。


「食べ歩きデートをやり直したいし、とっとと倒して帰ろうか」


 私の言葉にスーが嬉しさ全開と言った感じで何度も頷く。それを見た私も頷きそれを合図に私たち三人はそれぞれ別の方へ向かって散開する。

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