第254話:最初はウキウキでも沢山あるとウンザリするものです

 空気を踏みしめ、火の粉を帯びた熱風を残しシュナイダーが宙を駆ける。

 タコサシの攻撃をすれすれで避け、体を回転させたなら、炎の刃がタコサシの放つ針の間に火花を散らしながら進む。


 大きな火花を一つ散らし、タコサシの足から弾かれた炎の刃は空中で起動を変え、赤い線となって再びタコサシの足に一撃加える。

 その際、電柱にある電線を支え繋ぐ部分を切り裂くと、支えを失った電線が下へと落ちていく。


「なるほど、電力ってこのことか」


 シュナイダーの意図を察した私が飛び出すと同時に、エーヴァとスーも別の方向から飛び出て来る。


 タコサシの攻撃を受け流しながら、電柱から電線を外し落下させていく。

 電柱にある電線には、通信用や高圧低圧電流なんか種類があるらしいが、見分けの付かない私たちは手当たり次第に電線を落としタコサシの足に絡ませていく。


 シュナイダーは火の玉を口から吐き、回転しながら尻尾で叩いて上空へ打ち上げる。弾け散り散りになった炎は、太陽の光の光量を上回り周囲に光を届ける。

 宙に引かれた炎の残光が消える前に、タコサシに絡み地面を這う電線が白く光り溢れた光が空気を切り裂く。

 眩い光を放つ電流は時間にして数秒、だがタコサシの表面を焼き動きを鈍くするには十分な威力を放ち消える。


 一番最初に動いたのはエーヴァ。ミローディアを掲げ向かって来るエーヴァに、焦げて皮膚のめくれた釘バットな足を振るうタコサシの一撃は、左腕に装備されたバックラーによって受け流される。

 体の回転を上手に使いバックラーの曲面に針先を這わせ、そのままミローディアで弧を描く。表面しか切れないが、身をくねらせ大きく宙へなげられた足の下を真っ直ぐ炎が走る。


 炎の塊となったシュナイダーは宙に足を付きタコサシの足に背中を向けた状態で回転し、炎の輪で足を囲む。火の輪は勢いよく炎を上げ縮まるとタコサシの足を締め付け切り裂く。

 切り裂かれタコサシの足から吹きあがる赤い炎は血のように見える。


 その間にエーヴァが、左腕に装備していたバックラーを右手で掴み腕からはがすと上へ投げる。投げられたバックラーは本体の下に重なっていた板がスライドし開く。

 桜の花びら見たいな形をしていたバックラーは、宙に漆黒の桜の花を咲かせる。


 ミローディアの柄の頭を地面で叩き、ハルバードの形状に変形させ桜の花びらの背に沿わせ振るうとミローディア本体と繋がり一体化する。

 振るったままの勢いそのまま、両手で握ったミローディアをタコサシの傷口へを振り下す。


 傷口へ入る瞬間、耳をつんざくキーンと高い音と共に漆黒の桜の花びらは高速で回転を始める。


「魔力によって生み出された音を動力に変換し動く『ツヴィチエーニイ開花』による振動と回転の共演による切断を味わってくださいなっ!」


 シュナイダーが先に放った炎を散らし甲高い音を立て切り進むツヴィチエーニイと、無駄に丁寧な言葉と共にタコサシの足が切断される。


 大きなタコサシの足が本体から離れ地面に落ち跳ねた瞬間元の体に戻ろうと触手が伸びるが、届く前に足の左右から現れたスーと白雪が足を挟み掌底を打ち込む。青白い炎が走り足は力なく地面に転がる。

 タコサシの足に止めが刺されている間、足に炎を纏ったシュナイダーの背中にエーヴァが飛び乗り、開花したミローディアを構える。


 シュナイダーの高速移動と、風と炎の斬撃による初撃に合わせエーヴァの漆黒の桜がタコサシの増えすぎた足を切断していく。


「っとこっちは私がやろっと」


 私が投げた牡丹一華ぼたんいちげの蕾をタコサシの足の断面に食い込ませると、奥へと食い込ませ電流を一気に流すと煙を上げ下へ落ちていく。


 エーヴァとシュナイダーの攻撃で、次々と切り落とされていくタコサシの足に私とスーが止めを刺していくのだが、これが意外に大変なのだ。


 エーヴァが漆黒の回転ノコギリでタコサシの足を深く切り裂くと、シュナイダーが炎の刃で追従し間髪いれずにエーヴァが再び回転する花びらで完全に切断する。

 二人が織り成す、黒い桜と炎の共演は残酷ながらも美しさすら感じる。


 そんな二人を鉄バットなタコサシの足による攻撃が襲うが、シュナイダーが風でいなし、エーヴァが回転を止めた花びらを盾にして受け流し、ハルバードの槍部分を足に突き立てるとそのまま花びらを回転させ切り裂く。

 そこからシュナイダーが追撃で傷を深く……


「あいつ使いこなすの早すぎじゃない……ってうわっ!? また来た!」


 タコサシの再生を防ぐため速くするのは分かるが、恐ろしい勢いで切っていくエーヴァとシュナイダーに対し、止めを刺す私とスーは次々と送られてくるタコサシの足にウンザリなわけである。

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