第92話:響く音

 エーヴァがオフィス街の開けた道路の真ん中に仁王立ちしシュナイダーは宙を駆け空中に留まる。


「ふん、あたしが止まったらこっちの様子をうかがい始めるか。いいなそのやる気のある感じ」


 ニヤリと笑うエーヴァの足元から鋭く太い針が飛び出してくる。それをくるりと回転しながら避けると針は地中へ帰っていく。


 エーヴァが走ると先程まで足があった場所に針が飛び出してくる。


「西から1体向かってきている!」


 空中で耳を澄ますシュナイダーが叫ぶ。

 エーヴァが2回ステップを踏むと2本の針が飛び出てくる。

 それらを避けたエーヴァにシュナイダーが近くのビルの塗装用の足場をバラして鉄の棒を咥えエーヴァに投げる。


 受け取ったエーヴァが魔力を込め先端に集中させると地面に突き立てる。

 空気の振動によりアスファルトを砕き刺さる棒は下に大土鼠が掘った穴に先端が飛び出す。


「このアスファルトってのは固くて面倒だな。砕き甲斐はあるがな」


 避けては鉄の棒を地面へ突き刺していくエーヴァにシュナイダーが再び叫ぶ。


「もう1体くるぞ!」


「おうよ、ったくどんだけ分裂しやがる」


 文句を言いながら地中の音を探る。姿形までは分からないが音の大きさと足音の幅、掘り進むスピードでおおよその大きさは把握出来る


(新しくきた1体は他の2体に比べると小さいな。あんまり小さくなっては攻撃力も下がることを考えると……ん? 更に小さな音が複数)


 エーヴァが飛び宙を蹴ると空気の波紋が広がり空中で向きを変え飛び退くと同時に地面の下から触手が4本地面を突き破り飛び出してくる。

 着地したエーヴァに向け向きを変え襲ってくる触手を避けて1本掴むと引っ張りあげる。

 地面を割りながら引きずりだされる50センチぐらいの顔に似合わない大きなもぐらの手を2本持った生物、それをそのまま地面に振り下ろし叩きつける。


 エーヴァのスカートは一般的な女子高生と比べると長く膝下まである。見た目通りお嬢様っぽくて皆がエーヴァには似合っていると思っているが等の本人は、そんな為に長くしているわけではない。


 スカートの右側を摘まむと右の太ももまで捲りあげる。上から「おぉ!」なんて声が聞こえてくる。

 右の太ももには薄皮で作られたベルトが巻かれておりそこにぶら下がるホルダーから数本の鉄板が顔を覗かせている。

 そのうちの一本取り出すと、その鉄板の先端は鋭く尖っており、それを叩きつけた大土鼠の分身体に突き刺す。


「散れ!!」


 内部からの振動による破裂で分身体が沈黙する。この攻撃の振動と体の一部が消えたことに警戒してか攻撃の頻度が下がる。特に舌は出てこなくなる。


「小せえのならあたしの直の音撃でもいけるか。だがなかなかに慎重なやつだな。おいイヌコロ! 範囲は?」


「これで分身体は全部範囲に入ったはずだ」


「そうかなら仕上げだな。全力で頼むぜ!」


 エーヴァの言葉を受けシュナイダーが降りてくるとエーヴァは飛び乗り背中に抱きつくようにしがみつく。

 空気の抵抗を考えての行動だがそれ以上に色々と嬉しいことのあるシュナイダーはいつもより凛々しい顔をして全力で宙を駆ける。


 オフィス街の一角にあるお寺までシュナイダーが走るとエーヴァが飛び降り鐘楼しょうろうにある橦木しゅもくの持ち手を持ち魔力を込め振るい鐘をつく。


 ごおおぉぉぉぉぉんんん──


 鳴り響く鐘の音に周囲の空気が激しく振動する。空気の振動に乗った魔力はオフィス街に響きエーヴァが攻撃を避けながら突き刺していた鉄の棒に伝わる。棒は低い音を拾い振動すると円を描くように設置された棒が共鳴を始めお互いがお互いの音で震え始める。

 そしてその間に大きな亀裂が走るとオフィス街の開けた道路に円を描く。

 大土鼠が掘った穴と地表の亀裂にエーヴァの放つ鐘の音撃で道路は崩壊し陥没する。その周囲を風の渦が囲い始めると陥没した円の中心に向かって大きな渦を描きながら上空へ舞い上がる。

 直後上空から一直線に炎が赤い軌跡を残しながら落下すると地面へと突き刺さる。風の渦は炎を取り込み炎の渦と化する。

 その熱量は凄まじく内側にいるもの全てを燃やし尽くしてしまう。


 炎の渦がほどけるようにその形を一瞬で崩すと火の粉が舞い落ちてその中心に堂々と立つシュナイダー。


「跡形もなく聞こえていないだろうがオレはただ上で耳を立てエーヴァの太ももを必死に見ていたわけではないぞ! 魔力を練り上げ広範囲に渦を生み出す為に魔力の痕跡を残しこの大技に備えていたのだ!

 慈悲深きオレが凄いのだということを解説してやるのだ。よく覚えて逝くがいい!!」


 陥没し周囲が真っ黒に焦げた円に立つシュナイダーの叫びを背にモゾモゾと逃げる丸く長い筒のような生き物に太い毛が生えた毛虫のような物体に先端の尖った鉄板が次々と刺さっていく。


「1体だけ動きの悪い奴がいてジッと身を潜めてやがる。あたしの作った円の外へ向かって這いずるように逃げる音。シュナイダーがあそこにいるやつらを燃やしても動くお前が本体で間違いないな。大土鼠の尻尾さんよ」


 エーヴァが演奏するフルートの音色で鉄の板が振動し大土鼠の尻尾は内部から破裂する。


「これで全部か。ほぅ~、やっぱ日頃から魔力を込めていると威力が上がるな」


 鉄板を回収しながらちょっぴり嬉しそうにするエーヴァ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る