皇子に転生して魔法研究者してたらみんながリスペクトしてくるんだが?
大野半兵衛(旧:なんじゃもんじゃ)
001_転生したと思ったら刺客かよ!
気がつくと見たこともない部屋に寝ていた。ここがどこなのかと体を動かそうとしたが、体が思うように動かない。
俺はいったいどうしてしまったのだろうか?
「あうぅふ……」
誰かを呼ぼうと思って声を出したが、言葉にならない。これではまるで赤ん坊のようだと思っていたら、誰かが部屋に入ってきた。
質のよさそうなドレスを着た金髪の十代後半に見える美しい女性と、メイド服を着た三人の女性だ。
「坊や、起きたのね」
そう言うと美しい女性は俺を抱き上げた。
おかしい、俺はこんな非力そうで美しい女性が簡単に抱き上げられるほど軽くないはずだ。
よく見ると、俺の手はまるで赤ん坊のように小さく、マシュマロのように柔らかそうだ。
そんな俺を抱いている美しい女性は、俺のことを「坊や」と言った……。
これはまさか、俺は赤ん坊になってしまったのだろうか?
俺はたしか……そうだ、戦場で魔法の集中砲火を受けて……俺は死んでしまったはずなのに、なんで赤子の体になっているんだ? 分からない……。
そこでまた誰かが部屋に入ってきた。今度は五〇歳くらいの渋い顔の男性だ。
「アーマル、男の子だそうだな」
「はい、陛下。坊やに名をつけてあげてください」
陛下だと? すると、このロマンスグレーの髪の毛がよく似合う五十代くらいの人物が国王か皇帝なのか?
この陛下と呼ばれた人物は俺の祖父なのか?
「我が子の顔を見せてくれ」
我が子ってことは、この美しい女性が母親でこの男性が父親というわけか。
随分と年が離れている。まあ、若い女性が国王や皇帝の妃や側妃になることはよくあることだから何も珍しいことはない。
「うむ、賢そうな顔をしている。ゼノキアと名づけよう。ゼノキア・フォンステルトだ」
「陛下、ありがとうございます」
今、フォンステルトと言ったのか? ……そうか、フォンステルトか。俺は自分の子孫の子として生まれたようだ。
ここで俺は眠たくなり眠りについた。
▽▽▽
寝てばかりの生活なので時間経過を正確に把握していないが、俺が生まれ変わってから数日がたったと思う。
今の俺はゼノキア・フォンステルトという赤ん坊で、寝て、母乳を飲んで、垂れ流しての繰り返しだ。
まさかこの俺が母乳を飲む羽目になるとは思ってもいなかった。
「はぅ……あうあう……(はぁ……暇だな……)」
この数日で分かったことだが、俺は皇帝の息子だった。
あのロマンスグレーの男性が俺の父親で、綺麗な少女が母親で確定だ。
父親にはあの日以来会っていないが、母親も毎日会うわけではない。
皇帝の子の面倒は執事と乳母と侍女が見るので、俺の生活に不便はない。
んなわけないだろ! 体が動かせないんだから不便だらけだよ!
▽▽▽
三カ月ほど月日が過ぎ、俺もやっと今の状況を受けいられるようになった。
母親はあれから五、六回ほど会いにきたが、父親である皇帝とは会っていない。
俺は主に乳母のカルミナ子爵夫人と侍女たちと過ごしていて、そこに執事がいる感じだ。
そんなある日、何か背筋がぞわぞわして目を覚ましたんだが……。
夜中、暗い中なのではっきりとは見えないが、ベッドの横に誰かが立っていて俺を見下ろしているのが分かった。
こんな夜中に誰かなと思った。
寝ていたこともあってすぐに暗闇に慣れた俺の目は、明らかに怪しい人物がいるのを認識したのだ。
その人物は暗闇に溶け込むような真っ黒な服に黒い頭巾を被っていて、目だけが鋭く光っている。
俺はすぐにこの人物が俺を殺すか、誘拐するために現れたのだと考えついた。
「ふぎゃぁぁぁっ!」
俺にできることは大きな泣き声で使用人たちを呼ぶことだ。腹の底から大きな声を出した。
「ちっ!?」
黒装束の人物が舌打ちしたように聞こえたが、構わず泣き続ける。
「ゼノキア様、どうかされましたか? つっ!?」
俺の声で起きてきた侍女の喉に短剣が突き刺さった!
「ふぎゃぁぁぁっ!? (何しやがるんだ!?)」
侍女の目から生気が失せていき、その場にへたり込むように倒れるのが見えた。
黒装束の人物は俺にも短剣を向けた。
「ふぎゃぁぁぁっ! (おい、誰か助けろっ!)」
短剣が俺に振り下ろされる。
俺はここで死ぬのか? 俺が何をしたっていうのだ!? 死ぬなんて嫌だ、せっかくこの体に転生したのに、また死ぬなんてごめんだっ!
目の前に短剣の切っ先が迫る。
嫌だ! 死にたくないっ!?
その時、何が起きたか分からなかったが、黒装束の人物が吹き飛び暴風のようなすさまじい力が吹き荒れた。
部屋の中に嵐が巻き起こったかのように、家具や調度品、そして黒装束の人物が部屋の中をぐるぐると回り、床に叩きつけられる。
「ふぎゃ? (どうしたんだ?)」
だだだと足音がして扉が開かれた。
「「「ゼノキア様!?」」」
寝間着姿のカルミナ子爵夫人や執事、それに侍女たちが現れた。
今の大きな音で飛び起きてやってきたのだろう。
「「「っ!?」」」
三人は部屋の中の荒れように一瞬顔を強張らせたが、すぐにカルミナ子爵夫人が俺のほうに走り寄ってきて、俺の姿を確認して抱き上げた。
「よかった。ゼノキア様はご無事です!」
執事が気絶している黒装束の人物を取り押さえ、侍女が倒れている侍女を確認して首を左右に振った。
その後、騎士たちがやってきて騒々しくなった。
しかし、あの暴風のような現象はなんだったのだろうか?
俺自身は特に何もなかったが、黒装束の人物は吹き飛び部屋はめちゃくちゃだ。
もしかして、あれは俺がやったのか?
でも、俺は何かをしたという意識はないんだが……。
あの黒装束の人物が忍び込んできた日から数日がたった。
あの人物が刺客なのは間違いないが、捕縛された刺客がどうなったのか分からない。
赤ん坊の俺にことの顛末を話して聞かせる大人はいないからな。
あの日以来、昼夜を問わず俺の部屋の中には常に二人の騎士がいるようになった。
俺に会いにこない皇帝も、さすがに俺が殺されるのは目覚めが悪いようだ。
「ふわぁ……」
眠たくなってきた。
意識が遠のいていく……。
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