八、知恵の実
真っ赤な林檎をたわわに実らす木の下で
少女が独り、
懸命に手を伸ばしている。
茶色い巻き毛が陽に透けて、
ふわふわ揺れるそばかすの頬。
小さな背丈を少しでも高くしようと
小さな両足で爪先立って、
小さな手の平を天に向けている。
「そんなにこの実が欲しいのかい」
親切な男がやって来て、
少女に一つ、赤い林檎をもいでやった。
途端に少女は泣きじゃくる。
真っ赤な色した風船が
青い空へと消えてった。
*
どうして林檎が丸いか知ってるかい?
それは知恵が詰まっているからだよ。
知恵というのは魂のことさ。
生きる知恵が本能で、暮らす知恵が理性なのさ。
人の魂はその半分ずつでできている。
だけどね、お前の知恵が林檎に詰まっているかは分からない。
かつてはそこにあったのだけどね。
アダムとイブの頃の話さ。
今ではいろんなものに知恵が詰まっている。
なぜって、人は何度も死んで、生まれているだろう?
そのたんびに知恵の入れ物が変わるのさ。
お前の知恵はどこにあるのだろうね?
まあるいものなら、なんにだって知恵は宿るんだ。
そう、例えば目玉とかね。
生きている人間の魂は、大抵そこに宿っているねえ。
ところでどうして風船が軽いか知っているかい?
そうさ、天へと昇る死者の魂が詰まっているのさ。
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