幻海百景

刎ネ魚

一、月

それは満月だったのです。


季節は秋頃でしたでしょうか。

風はぬるい涼しさで、暑くもなければ寒くもない。

広々とした公園に、月が浮かんでおりました。


せらせらと水音が鼓膜をくすぐります。

そよ風に舞う髪の毛も頬を撫でます。

更けきった夜の静かの淵に居たのでした。


どうにもこうにもあっけらかんとしたものですから、

つい歌なども忘れてしまって

カラカラと嬌声が喉の奥から木魂こだまします。


浮足立って軽やかに、嗚呼きっと、少しは浮いていたのでしょう。

踊りながらめぐりました。


くるくる、くるくる、

くるくると。


ひらいた胸に顎を上げれば、

天の高くに月が見えます。

まぁるいまぁるい月がありました。


白か、銀か、金色か、

ともかく丸く発光する、天の穴があいておりました。

そうして、くるりとまた巡りますと、少し低くにもう一つ。


黄色い、ほの白い、銀よりやわい、

まぁるいまぁるいお月様が。


仲良く並んで浮かんでおります。

双子の月が笑っております。

夜の底の底の底、澄み渡った広場の静かの闇のぬるい涼しい風を浴び、

時詠む月が浮かんでいました。


永く尾を引く彗星が死んだ。

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