二年目 一月上旬 生物学者・矢野沙織
「あ……」
矢野は研究室の暖房を入れ忘れていた事に気付いた。
一日半以上、食事とトイレ以外は研究室に居て、ようやく寒さの原因に思い至った。
いや……正確には、一段落ついて、仮眠を取ろうとしても何故か眠れない事の原因を1つ1つ潰していく内に、部屋の温度が快適には程遠いほど低い事を認識した。
「でも……何が……どうなってんの?」
そう独り言を言ってはみたものの……いつもより頭が働いていない状態では考えても答が出ない事は矢野自身が判っていた。
矢野自身も年末の正月も返上して追試を行なった結果、そのレポートに書かれていた事は正しかった。
少なくとも、正しい可能性は五〇%より遥かに大きかった。
「特異型男性」特有のY染色体上の遺伝子変異を調べていた研究者から送られてきたものだ。
あまりに奇妙な結果であり、論文にする前に他の研究者に追試を依頼してきたのだ。
『こちらでも追試に成功。そちらとは、やや方法を変えていますが(詳細は添付ファイルを参照)それでも同じ結論に至りました。論文にしても査読を通る可能性は高いと思います』
先方にメールで、そう返信する。
『すいません。研究者としてではなく調査委員会の座長として立場でお答え下さい。これが正しかったとしても、論文として公表して良いのでしょうか?』
先方も年末・正月関係なしに研究室に籠っているらしく、二〇分後には返信が来た。
『やって下さい。我々は、この件に関して、まだ何も判ってはいない。これが最初の一歩になるでしょう』
そうは書いてみたモノの……まだ、釈然とはしない。
たしかに、あの遺伝子変異が無意味なモノならば、あんな事は起きないだろう。
同時に、その遺伝子変異にどんな意味が有れば、あんな事が起きるか見当も付かない。
一部は意味が有るが大半がノイズからなる画像に更にノイズをかけたら……ノイズでない部分は無事なまま、その画像の各部に意味の有る「何か」が出現した……。
そのような事が複数の「一部は意味が有るが大半がノイズからなる画像」で起きた。
そんな偶然が起きる確率は……どれだけ小さいのだろうか?
そして……そんな偶然が本当に起きた時、一体、その現象をどう解釈すればいいのか?
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