第272話

「フンッ!!」


「くっ!!」


 距離を詰め、刀を振る伸とバルタサール。

 上段から振り下ろした伸の刀と、斬り上げを放ったバルタサールの刀がぶつかり合う。

 ぶつかり合った衝撃で、両者とも少しの距離ノックバックする。

 しかし、その距離は微妙に違う。

 どちらかと言うと、伸の方が遠くまで戻されている。

 そのことからも分かるように、やはりパワーはバルタサールの方が上のようだ。


『でも、両手でこの差なら……』


 パワーで劣っていることが分かっても、伸は落ち込むことはない。

 それよりも、これまでは接近戦では片手で相手にされていたが、今回は両手で刀を持ったバルタサールとぶつかっても、この程度の差で済んでいるということに喜びを感じていた。


「ハーッ!!」


「っ!!」


 再度接近しあう2人。

 自分の間合いに入った瞬間、伸が連撃を放つ。

 その攻撃を、バルタサールは刀で弾いて防ぐ。

 真剣な表情をしていることから、バルタサールに余裕はないらしい。

 そのことから、スピードに関しては伸の方が有利のようだ。


「…………」「…………」


 攻防を繰り広げた2人は、距離を取り睨みあう。

 相手より勝っている部分を使い、どう攻めるべきかを無言で思案する。


「ハッ!!」


「っ!!」


 先に動いたのはバルタサール。

 掌サイズの魔力球を作り出し、伸に向かって放出する。

 速いが躱せない速度ではない。

 恐らく、攻撃を躱して少しでも体勢を崩すのが狙いだろう。

 それを分かっていながらも、躱す以外の選択肢はないため、伸は横に跳ぶことで攻撃を回避した。


「シッ!!」


「くっ!!」


 魔力球を躱した伸に向かって、接近したバルタサールが突きを放つ。

 それを刀で受け止めた伸は、後方へと少しの距離飛ばされる。


「ハッ!!」


「ぐっ!!」


 飛ばされて着地した伸に、バルタサールは刀を振り下ろす。

 どうやら、伸を吹き飛ばすと同時に追いかけてきたようだ。

 重い一撃が迫る。

 それを足に力を入れて思いっきり踏ん張ることで、伸は攻撃を受け止めることに成功した。

 

「ぐぅ、くそ重い……」


 魔力を消費し、身体強化が弱まったとはいっても、やはりバルタサールのパワーは半端ではない。

 そのまま鍔迫り合いの状態になったが、伸はジリジリを押されていた。


「フンッ!」


「おわっ!」


 バルタサールが力を込めて思いっきり押す。

 それによって、伸はまたも後方へと飛ばされた。


「シッ!」


「このっ!」


「くっ!?」


 このままでは、パワーに押されてどんどん後方へ飛ばされ続ける。

 そうなると壁に追いつめられて、逃げ場を失うことになる。

 バルタサールの狙いを阻止するために、伸は反撃に出た。

 追いかけてくるバルタサールが刀を振り上げた瞬間を狙って、薙ぎ払いを放つ。

 それを、バルタサールは攻撃から防御へと切り替えることで防いだ。


「ハアァー!!」


「くっ!!」


 攻撃を防いだことで、バルタサールの足が一旦止まる。

 吹き飛ばすことはできないが、後退させることは不可能ではない。

 足が止まったところに連撃を放って、伸はバルタサールを押し戻した。


「ハアァー!!」


「くっ!」


 こっちのターンと言わんばかりに、伸はバルタサールに連撃を放ち続ける。

 スピードで勝る伸の攻撃を、バルタサールはギリギリのところで防ぎ続ける。


「このっ!」


「ぐっ!」


 このままでは伸の攻撃を防ぎきれない。

 そう考えたバルタサールは、伸が放つ連撃の一つに合わせるように、力を込めて刀を弾く。

 防御をしつつ、バルタサールは伸の連撃を止めることに成功した。


「フンッ!」


「くっ!」


 攻撃を弾かれたことで一瞬無防備になったところを狙って、バルタサールは伸に斬り上げを放つ。

 仰け反りつつ後方へ跳ぶことで、伸はギリギリのところで回避した。


「ハッ!!」


「このっ!」


 またも攻守交替。

 後退した伸を追いかけ、バルタサールは突きを放ってきた。

 まともに受け止めれば、また後方へ吹き飛ばされる。

 そうならないために、伸は体を捻りながらバルタサールの攻撃を弾いて回避する。


「シッ!!」


「チッ!」


 またも伸の連撃が開始される。

 止めない限り止まらないため、バルタサールは舌打ちしつつ、力任せに止めに入る。

 そこから、何度も攻守が入れ替わる展開になった。

 伸が押せば、今度はバルタサールが押し返す。

 多少位置がズレたりするが、半径数mの円の範囲内で高度な攻防が繰り広げられた。 


「このっ!」


「ハアァー!」


““パキンッ!!””


「「っっっ!!」」


 両者共に力を込めた攻撃を放ち、刀がぶつかり合う。

 それと同時に、両者の刀がへし折れた。

 魔力を纏って強化しているとはいっても、両者の強力な攻撃に耐えきれなくなったようだ。


「くそっ!」


「チッ!」


 伸とバルタサールは、折れた刀を放り投げる。

 これ以上は、刀での戦闘では勝負がつかないと判断したためだ。


「仕方ない……」


「そうだな……」


「「肉弾戦で勝負だ!!」」


 刀での攻防で勝負が付かないなら、拳で決着をつけるしかない。

 同じ意見になった両者は、拳を握ってファイティングポーズを取った。


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