第269話
“ドーーーンッ!!”
「……くっ!!」
観客席に巨大な魔力弾が飛んでいき、大爆発を起こす。
その魔力弾を躱した伸は、爆発によっておこった爆風に耐える。
柊家とオレガリオ、鷹藤家と魔人と化した文康の戦いの決着する前、別の会場では伸とバルタサールの壮絶な戦いが繰り広げられていた。
「ハハッ!! いつの間にか隣の会場に繋がってしまったな」
『……笑い事じゃねえよ』
バルタサールから何度も放たれたバランスボールサイズの巨大魔力球。
伸は、それを懸命に躱し続けた。
それによって、巨大魔力球が着弾したことで観客席が吹き飛び、とうとう隣の会場にまで穴が開いてしまった。
それの何が面白いのか分からないが、バルタサールは笑い声をあげる。
まともに食らえば
どれだけの魔力量をしているだろうか。
そんな攻撃から逃げ回るしかなく全く好機が訪れないでいる伸からすると、内心で文句を言うことしかできないでいた。
「ん~…‥、泥だらけだな。伸よ……」
「全くだ。クリーニング代よこせよ」
前後左右と動き回り、時には地面を転がることでバルタサールの攻撃を躱していたせいで、伸の服は泥だらけになっている。
バルタサールは、そのことを上から目線で指摘してきた。
自分の状態は自分が分かっている。
そのため、伸はその指摘にイラっとしながら軽口を返すしかなかった。
「そうだな……」
伸の軽口を真面目に受け取るように、バルタサールは顎に手を当てて悩み始める。
そして、
「今後のことを考えると私はお前のような右腕が欲しい。お前が私の配下になるというのなら、クリーニング代なんていくらでも払ってやるぞ」
何かを思いついたらしく、バルタサールは伸にまさかの提案をしてきた。
「……それは俺に文康のように魔人になれって言っているのか?」
魔王であるバルタサールが出てきたということは、今回の襲撃は魔人の総攻撃ということだろう。
しかし、柊家をはじめとした名家たちが配下を近くに配備していたこともあり、恐らくオレガリオと文康以外の魔人は仕留められる可能性が高い。
いくらバルタサールが強いと言っても、たった3体の魔人で征服されるほどこの世界は弱くない。
数が減る分を補充するために、自分を配下にしたいのだろう。
つまり、殺さない代わりに魔人になれと言っているのだと、伸は判断した。
「ん~、人間が魔人になれるかどうかは、試してみないと分からないからな……。お前に死なれたらつまらないから、別に人間のままでも構わないぞ」
「……ずいぶん特別待遇だな」
「だろ?」
てっきり魔人になれと言っているのかと思ったが、違った。
どうやら、魔人になるのには危険が伴うらしく、場合によっては命を落とす可能性があるらしい。
魔人にならなくても良いなんて、どうやらバルタサールにかなり気に入られたようだ。
「しかし……」
「んっ?」
気に入られたなんてどうでもいい。
そんなことより言いたいことがあるため、伸は接続詞を呟く。
「クリーニング代だけのために魔人の配下になんてなるわけないだろ?」
「……ハハッ! それもそうだな」
柊家の仕事を手伝っていることもあり、別にクリーニング代くらい自分で払える。
人類の敵になるというのに、それだけのために配下になるなんてありえない。
もっともな伸の言葉に、バルタサールは笑みを浮かべた後、首肯した。
「じゃあ! この星の半分の支配をお前に任せよう!」
「……おいおい、ドラ〇エかよ……」
バルタサールが言ったのは、昔やったRPGゲームのボスの台詞だ。
まさか、自分が同じセリフを言われるなんて思ってもみなかったため、伸は思わずツッコミを入れた。
「どうだい?」
「そりゃ……」
「はい」か「いいえ」の2択。
その選択は決まっている。
「断るに決まっているだろ?」
「……何でだ? 了承すればお前は死なずに済むのに……」
これがゲームなら、「はい」と答えてどんな結果になるか試してみることができるが、これは現実の世界の話だ。
バルタサールの提案を受け入れて、人類の敵になってまで生き残る道を生きるなんて選択するわけがない。
死を恐れて人類の敵になり、恥を晒すような生き方をしたいとは思わない。
そのため、伸はバルタサールの提案をきっぱりと断った。
断られたバルタサールの方はと言うと、断られた理由が分からず首を傾げた。
「それは簡単な話だ。世界の半分もらったところで嬉しくない。それに……」
「それに……?」
そもそも、世界の半分と言われても漠然としすぎていて、使い道が分からない。
それに、面倒で管理もできない。
管理なんて他の者に任せれば良いのかもしれないが、そうなると好き勝手できるわけでもないため、あまりもらうメリットを感じない。
それ以外にも、伸にはバルタサールの提案を断る理由がある。
その答えを聞くために、バルタサールは話の続きを求めた。
「俺が勝つからだ!」
バルタサールの提案を断る最大の理由。
それを、伸は笑みを浮かべて返答した。
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