第265話
「…………」「…………」
勝利のポーを取るピモを、無言で見つめる柊親子。
自分たちが勝てそうにないような魔人を、弱小魔物で有名なピグミーモンキーが仕留めてしまったのだから、そうなる気持ちも分からなくはない。
「ったく、倒しちまったよ……」
「そうだね……」
信じられないが、この結果からピモは自分よりも認めざるを得ない。
まさかピグミーモンキーよりも下なんて、落ち込みたくなるような出来事だ。
しかし、ピモは伸の従魔。
これだけ心強い味方はいない。
そのことを考えると、あまり落ち込まない自分がいるから不思議だ。
そんな風に思い呟く俊夫と同じ思いなのか、綾愛は同意するような呟きを返した。
「キキッ!!」
「んっ?」
決めポーズを終えたピモは、俊夫の方に向き、手招きをする。
それに気づいた俊夫は、ピモの方へ向かていく。
「何だ?」
何のために自分を呼んだのか、俊夫はピモの側に立ち問いかけた。
「キキッ! キーッ!」
「……あぁ、魔石か……」
俊夫の質問に、ピモがオレガリオの死体を指さしたりしてジェスチャーをする。
最初は何が言いたいのか分からなかった俊夫だが、少ししてピモが何を言いたいのか分かった。
他の魔人の魔石を体内に取り込むと、魔人はパワーアップを計ることができる。
上位種ともいうべきオレガリオの魔石だ。
下位の魔人からしたら、成功すれば相当なパワーアップをすることができると考えるかもしれない。
そうなると、他の魔人はオレガリオの魔石を手に入れてパワーアップを計ろうとするはずだ。
それを阻止するために、他の魔闘師たちが戦っているうちに魔石を取ってしまえとピモは言いたいのだろう。
「分かった!」
ピグミーモンキーのピモでは、魔石を取り出すことは難しい。
だから、代わりに自分がやるしかないとピモの頼みを受け入れ、俊夫は刀を使用してオレガリオの胸を斬り裂いて魔石を取り出した。
「キキッ!!」
「んっ? この刀?」
魔石を取り出して懐に入れた俊夫に、ピモは今度は別の方向を指さす。
何かと思ってその方向を見つめると、オレガリオが使用していた刀が転がっている。
その刀が何かあるのかと、俊夫は鞘と共に拾い上げた。
「……う~ん、なかなかの業物のようだな……」
オレガリオの刀を見ると、刃こぼれ1つ付いていない。
魔力を纏っていたとはいってもここまで頑丈なのは、相当な業物なのだろう。
それに反し、自分の刀は所々刃こぼれしている。
強力な魔力を纏ったオレガリオの攻撃を防いだことの代償だろう。
「キーッ! キキッ!」
「……もしかして、こいつを使えってことか?」
「キーッ!」
まだ魔人は他にもいる。
刃こぼれしている刀では仕留めそこなう可能性がある。
そうならないように、ピモはオレガリオの刀を使うようジェスチャーで進言しているのかもしれない。
正解を求めるように俊夫が問いかけると、ピモは親指を立てて喜んだ。
思った通り正解だったようだ。
「……分かった」『細かいところまで見えているんだな……』
懸命だったこともあり俊夫自身が気付いていなかった刃こぼれに気付いていたなんて、とても冷静で視野が広い。
素早い動きだけでなく、そういった部分までピグミーモンキーらしからぬところだが、ピモの指摘は正しいので、俊夫は自分の刀を放って、オレガリオの刀を腰に差した。
「……ピモだったか? 綾愛たちを護衛して医療班のところに連れて行っててくれるか?」
「キキッ!!」
浅いとはいっても、綾愛は怪我をしている。
自分では回復魔術を掛けることはできないため、俊夫はピモに会場の近くに待機しているであろう医療班の所まで綾愛たちを連れて行ってくれるように頼む。
それを受けたピモは、敬礼をするようにして了承し、綾愛の方へと向かって行った。
「大丈夫? 奈津希……」
「うん。綾愛ちゃんは?」
「とりあえず大丈夫」
多少回復したのか、綾愛は自分の足で奈津希のいるところへと向かって行く。
足取り重くたどり着いた綾愛は、奈津希と体調確認し合う。
「金井君は……ちょっと深いわね。急ぎましょう!」
「うんっ!」
奈津希には大した傷はない。
それも了が庇ってくれたおかげだ。
呼吸は安定しているので、気を失っているだけでのようだ。
奈津希が自分の服を使って処置したからか、了の背中の出血は治まっているように見える。
しかし、出血量から背中の傷は深いように思えるため、すぐに医療班の所へ向かうことを提案する。
「護衛よろしくね。ピモちゃん」
「キキーッ!!」
魔人が他にどこにいるか分からない。
その魔人から自分たちを守ってもらうため、綾愛はピモに護衛をお願いする。
それを、任しとけとでも言わんばかりに、ピモは先頭を歩き始めた。
「……さて、俺は残りの魔人を倒すか……」
ピモを先頭にした綾愛たちの姿が見えなくなっていく。
オレガリオほどの魔人を倒すようなあの護衛なら、心配する必要はないだろう。
ひとまず安堵した俊夫は、他の魔闘師たちが戦っている魔人たちを倒すために動くことにした。
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