第118話
「つまり、新田君に操作されろってこと?」
「その通りだ」
土日の休みを利用して規制していた綾愛は、自室にいる所を父の俊夫に訓練所に呼び出された。
そして、綾愛が訓練所に着くと、俊夫は単刀直入に呼び出した理由を説明をした。
「操作してもらうと魔力操作が上手くなるかもしれないって事は分かっていたけど……」
1年の時の夏休みに、伸が操作魔術を使用したことにより、了は苦手だった魔力操作の技術が上達した。
そして、伸の従魔であるミモは、操作魔術によって魔力操作ができるようになった。
その話を聞いていたため、伸に操作されることで多少上達することは想像できたが、それは魔力操作が苦手な者が操作された場合だけだと思っていた。
しかし、父である俊夫まで上達したと聞くと、自分も操作されてみたいと思える。
「……でも、あなたの魔力を受け入れないといけないのよね?」
「あぁ……、なんか嫌そうだな?」
「ちょっとね……」
伸の魔力操作を体験できることで、魔力操作技術が手っ取り早く上達できるというのは分かった。
ただ、操作されるということは、伸の魔力を体内に受け入れないとならない。
綾愛はそのことが気になっていた。
その表情から、伸は綾愛がためらっているのを感じた。
「他人の魔力を体内に入れるのって、何だか嫌な感じがして……」
「……エロいことしている訳でもないぞ?」
「それは分かってる。分かっているんだけど……」
よく考えたら、これまで伸が操作魔術を使用したのは男と魔物だけ。
女性に使用するのは初めてのことだ。
そのため特に考えもしなかったが、よく考えたら体を操作するのだから、体のサイズなどの情報が伸に知られるということを示している。
別に、それ目的でできるようになった魔術ではない。
なので、そんなに嫌がられるとは思いもしなかった。
「……正直に言うわ! 私は心に決めた人がいるの。だから嫌だわ!」
「へぇ~、そうなんだ? どんな相手なんだ?」
綾愛が嫌がる理由。
それは、心に決めた男性以外に体の情報を知られるのが嫌だからだ。
学園では、伸が交際相手だという体にしているため、他に噂が全く上がらない。
綾愛にそんな人間がいるなんて考えもしなかったため、伸は面白そうに相手のことを尋ねた。
「私、昔誘拐されかけたの……」
「へ、へぇ~……」
心に決めた人間の話だというのに、この入り。
それを聞いて、伸は何だか嫌な予感がした。
「誘拐犯に連れ去られ、洞窟を通って官林地区に向かう所を助けてくれた人がいたの」
「……ふう~ん」
その助けた張本人が伸だということに、綾愛は気付いていないようだ。
照れくさそうに話す綾愛の話を聞いていて、伸は完全に名乗り出にくくなった。
仕方がないので、伸は目を泳がしつつ相槌を打つしかなかった。
「名前も顔も分からないけど、必ず見つけ出して、あの時のお礼をするの!」
「あれっ? それって新田君のことじゃないの?」
「……えっ?」
不意に放った奈津希の言葉に、訓練場にいる者たちの時が止まったような感覚に陥った。
特に綾愛の反応は顕著だった。
奈津希が何を言っているのか分からないと言っているかのような反応だ。
「たしか、モグラの魔人と戦った場所が綾愛ちゃんが救出された場所で、そこにモグラの魔人が隠れている可能性があるって言い出したのが新田君だって当主様が言っていて、私それを聞いて気付いたんだけど……」
「…………」
どうやら、モグラの魔人との戦いの時に奈津希に気付かれてしまったようだ。
たしかに、あの時モグラが潜んでいる可能性があると、あの洞窟の場所を教えたのは自分だ。
しかし、それだけでバレるなんて思ってもいなかった。
奈津希がこんなに鋭いなんて予想外だ。
奈津希の説明を受けた綾愛は、無言でゆっくりと伸の方へ顔を向けた。
「…………本当…なの?」
「……え~と、まぁ……」
信じられないけれど、奈津希が言っていることが本当なら、ずっと探していた人物が目の前にいるということだ。
それを確認するため、綾愛は躊躇いがちに伸に問いかける。
この空気では言い難いが、いつまでも隠しておくようなことでもないため、伸は何か申し訳ないといった感じで問いに返答した。
「………………」
伸の返答を受けた綾愛は無表情になり、無言でゆっくりと後退る。
“ダッ!!”
「……えっ!?」
後退り、訓練所の出入り口に回れ右すると、綾愛はいきなり走り出した。
“ダッダッダッダ……”
「あっ! 綾愛ちゃん!」
走り始めた綾愛は、そのまま一目散に出入り口から出ていってしまった。
それを見て、奈津希はあわてて止める。
しかし、奈津希の言葉が聞こえていないのか、綾愛はそのまま遠ざかっていってしまった。
「……言わない方が良かったですかね?」
「タイミングが悪かったのはたしかだな……」
綾愛からすると、完全に不意撃ちを受けたのと同じだ。
心構えができていない状況で、待ち望んだ人物に会ってしまい、パニックになってしまったのだろう。
あんな反応をする綾愛を見たことが無かった奈津希は、ようやく自分が大きなミスを犯したことに気付き、バツの悪い表情で俊夫に問いかける。
俊夫も娘のあんな反応を見たことが無かったため、内心驚いている。
いつか綾愛自身が気付くように持って行こうとしていただけに、奈津希の言葉はフライングとしか言いようがない。
「柊殿も気付いていたのですね?」
「あぁ……、あの洞窟のことを言い出した時、君が綾愛の言っていた人物なのではないかと気付いたんだ」
綾愛と同じ年くらいの少年で、誘拐犯たちをあっさり倒す強さ。
しかも、あの洞窟を知っている。
それだけの条件が揃った人間なんて、そういない。
可能性があるとすれば鷹藤家の文康くらいだったが、彼でないことは調べがついていた。
そこで現れたのが伸だ。
すぐにその可能性に気付くのも、必然と言って良いかもしれない。
「わ、私、綾愛ちゃんを追いかけますね」
「あぁ」
真実を教えるにしても、今ではなかった。
責任を感じた奈津希は、出ていった綾愛が心配になって追いかけていった。
「教えないでいた方が良かったですかね?」
「遅かれ早かれ、いつか気付いていた。タイミングが悪かっただけだろ」
気付いていないままにしておいた方が良かったのではないかと思えた伸が尋ねると、俊夫は仕方がないことと首を振った。
「操作どころじゃなくなったな……」
「キッ?」
操作魔術を試すだけのはずだったのに、何だか顔を合わせづらくなってしまった。
俊夫と2人だけになってしまった伸は、肩に乗って静かにしていたミモを撫でることで気持ちを落ち着かせたのだった。
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