第69話
「突然呼び出してすいません」
「いや、君が気にする事じゃない」
文化祭でテロのようなことを計画していた犯人を捕まえた伸は、柊家当主の俊夫に連絡を取った。
娘の綾愛に会いに来ているということを聞いていたので、学園に来ているのを知っていたからだ。
スマホで一部始終を説明を受けた俊夫は、柊家の者たちを連れて伸の下へと来てくれた。
彼の部下たちによって、犯人たちは魔力封じの手錠をかけられて拘束されて連れていかれた。
伸は文化祭の途中で呼び出してしまったことを謝罪し、俊夫はその謝罪に首を振った。
「いくら学園生でも場合によっちゃ死ぬかもしれなかったんだ。未然に防いでくれて感謝する」
捕まえた3人は、液体爆弾なんてものを用意していた。
もしもこの爆弾が生徒の多くいる場所で爆発していたら、死人が出ていた可能性もある。
怪我で済んだなら、回復魔術をかけることで完治を見込めるが、死んでしまったらどうすることもできない。
最悪な結果になるどころか誰も怪我をさせずに済んだのだから、俊夫は逆に伸へ感謝を述べた。
「赤烏を名乗っちゃいるが、どうせただの馬鹿どもだろ」
3人組の犯人たちは赤烏の一員を名乗り、胸に組織のバッジを付けているが、赤烏は幹部が捕まってバラバラの状態。
勝手に名乗っているというのが関の山だろう。
「ご当主!」
「んっ?」
伸と話していた俊夫に、柊家の人が話しかけてきてタブレットを渡す。
そのタブレットを見て、俊夫はため息を吐いた。
「どうやら奴ら魔闘組合の試験に落ちて、卒業さえすれば入れる学生に目を付けたみたいだな」
「うわっ! ……完全な八つ当たりっすね」
俊夫がタブレットを見つつ説明をしてくれる。
どうやら、あの3人のことを調べてくれたらしい。
俊夫の説明によると、あの3人は私立の魔術学校の出らしい。
魔術学校は伸たちの通う国立以外にも、私立の魔術学校がある。
しかし、私立は国立とは違い、卒業しても魔闘組合に登録されるわけではなく、魔闘組合が開催している半年に1回の試験に合格することが条件になっている。
毎回その試験に合格する私立学校出身の魔術師は、10%といわれている。
試験資格は25歳未満までとなっていて、今回捕まえた3人は年齢的に最後の試験を落ちたそうだ。
そこで、彼らは試験もなく卒業すれば魔闘組合に登録される学園生のことを僻み、今回のようなことを起こしたと俊夫は判断した。
それを聞いて、伸は表情を歪める。
俊夫の言うことが当たっているとしたら、見当違いも甚だしいとしか言いようがない。
「まぁ、何もなくて良かったです」
「あぁ」
この学園の卒業生でも、魔物と戦うには微妙な戦力の人もいる。
そのため、彼らが国立の生徒だけ優遇しているのは不公平だと思うのも分からなくはない。
しかし、そう言った人は支援系の魔術が得意だったりする。
魔物を倒すには、そういった支援系の人の協力も重要になってくるため、魔闘組合の試験でもちゃんと評価されているはずだ。
つまり、合格できなかったのは、単純に彼らの能力と実力が足りなかったに過ぎない。
八つ当たりの爆弾で誰も怪我をせずにすみ、伸は俊夫と共に安堵した。
「それにしてもよく見つけたな」
「なんか探知に引っかかったもので……」
「……えっ?」
今日は文化祭で、いつもよりも多くの人間が学園内を出入りしている。
そんな中、犯人たちを見つけ出すのはかなり難しいだろう。
なのに、伸は見つけることに成功した。
それを不思議に思った俊夫は問いかけ、その返答に驚くことになった。
「……ということは、もしかしてこの校内全域を常に探知してるのか?」
「えぇ、まぁ……」
「……やっぱり規格外だな」
魔力を広げて、それに触れた物を探知するのが探知魔術だ。
探知魔術の特性として、触れた生物の感情がある程度知ることができるため、探知で見つけたということは分かる。
しかし、この広い学園の敷地全域を常に探知しているなんて、いくら探知魔術は魔力消費が少ない魔術だといっても、かなりの量を消費しているということになる。
それをさも当然と言うかのように答えた伸に、俊夫は呆れたように呟いた。
「今回のことは私から校長に言っておこう」
「お願いします」
捕まえたのが伸だとバレると色々と面倒なことになるため、今回も柊家の人間による解決という形でことを収めることになった。
面倒事を任せることになり、伸は感謝の言葉と共に頭を下げた。
「話は終わったかしら?」
「あぁ」「はい」
伸と俊夫が話しているのを側で見ていた静奈が、会話の終わりを見越して声をかけてきた。
彼女も俊夫と共に、文化祭を利用して娘の綾愛に会いに来ていたのだろう。
綾愛は伸と同様に寮暮らしだ。
しかし、土日や祝日には帰れる距離なので、そんなに懐かしいという感じでもないはずだ。
柊家の仕事を手伝うため、伸も休みの日には顔を合わせている。
優しいお母さんという印象だ。
「伸くんはこれからどうするの?」
「え~と、屋台まわりっすかね……」
爆弾事件を未然に防ぐという思わぬことになってしまったが、文化祭はまだ続いている。
昨日の選考会で魔力切れを起こしたため体を休めている了に、伸は屋台料理を買って帰ることを約束していた。
そのため、一通り屋台を巡ってみて、美味いのだけ買って帰るつもりでいた。
「そう、じゃあ彩愛と奈津希ちゃんをつけるわね」
「……はっ? 何でっすか?」
好きなように動くため、屋台まわりは1人でおこなうつもりでいた。
なのに、静奈は当然と言うかのように綾愛たちをつけることを提案してきた。
静奈は毎回のように自分と綾愛の行動を一緒にさせたがる。
どういった考えなのか分からないが、いつも理由を付けて断れないようにしてくるので、がなんとなく苦手だ。
それがまたも発動したことに、伸はすぐに理由を尋ねた。
「今回も手柄を譲ってくれたんだから、支払いは
「いや、別に今回のは……」
「よろしくね」
「……はい」
今回は未遂で済ませることができたため、大袈裟に感謝される必要はない。
それよりも、自分が関わっていないということにしてもらう方が手間だと言える。
だから伸は綾愛たちの同行を断ろうとしたのだが、静奈はそれよりも早く笑顔で念を押してきた。
この笑顔がよく分からない圧を放っているようで、何となく断りにくい。
そのため、伸は何故か頷くことしかできなかった。
「あの顔のお母さんには逆らえないでしょ?」
「……あぁ、なんでだろ?」
静奈によって電話で呼び出され、綾愛と奈津希はすぐにこの場へと来た。
そして、伸と同様に圧をかけられ、同行することに頷かされていた。
仕方がないので、屋台巡りを開始した3人だったが、綾愛は伸に静奈のよく分からない圧のことを話してきた。
伸としても、魔術でもないのにいつも静奈に従わされることが腑に落ちなく思っていたため、綾愛の言葉に頷く。
「母は強しってことよ」
「……なるほどね」
女性は妻になり母になると、魔術ではない不思議な力を使うようになるという話だ。
だから、自分が静奈のいうことを断れないのも、その訳も分からない力のせいなのだと、伸は何だか納得できてしまったのだった。
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