第50話

「おっす!」


「おぉ、帰ったか?」


 色々な人種の4人がいる城の一室へ、転移の魔術を使った1人の人間が姿を現す。

 どうやら知り合いらしく、それを見た者が声をかける。

 伸と同じ大和人で、中肉中背の取り立てて特徴も無いようなその人間は、そのままその人間に近付いて行った。


「実験はどうだった?」


「それは成功したが、問題が起きた」


「……何だ?」


 仲間からの問いかけに、大和人の男は表情暗く返答する。

 その様子に、仲間たちは訝し気な表情へと変わった。


「実験は成功したが、その魔人がやられちまった」


「何っ?」


 大和人の男の言葉に、仲間たちは驚きの声をあげる。

 魔物の魔人化の実験。

 それをおこなうために、この大和人の男は動いていたようだ。

 実験には成功したが、その成功した魔人たちがやられてしまい、その報告に戻ってきたのだ。


「大和なんて小さな島国でしょ? そんな強い人間なんていたの?」


 小さい男の子が大和人の男に問いかける。

 この場にそぐわないが、他の者も気にした様子はない。

 むしろ、円卓を囲むようにして座る彼らの中で、上座に座っている所を見ると、この少年が一番上の立場にいるようだ。


「魔人たちを倒したのは柊家とかいう一族です」


「大和は鷹藤とか言う一族が支配しているんじゃなかったか?」


 少年に問いかけられた大和人の男は、簡潔に返答する。

 その返答に対し、少年の隣に座る眼鏡をかけた男が異論を唱える。

 彼らの実験によって生み出された魔人は、生まれたばかりで力のコントロールがまだ完全ではなかった。

 そのため倒される可能性はあり得たが、倒されるなら鷹藤家の人間だと思っていたようだ。

 それが、あまり聞いたことのない一族にやられたというのだから、問いたくなるのも仕方がないことだろう。


「確かにあの国には昔から鷹藤という一族が魔術師界のトップに立っています。しかし、今回は柊家という一族によってやられました」


「……もしかして、僕たちが知らない間に、人間たちが強くなっているということかな?」


「それは違うと思われます」


 魔人たちが倒されるなら鷹藤家と思っていたが、それが違うということは、もしかしたら自分たちが動き出すまでの間に人間が成長していたということかもしれない。

 そう考えた少年だが、大和人の男はすぐさま否定する。


「確かに人間の魔術師のレベルは上がっているように思われますが、それは一部の人間だけだと思われます」


 魔人を生み出すために動いていた大和人の男は、何人かの魔術師を殺している。

 昔に戦った時と比べても、たいした変化を感じられなかった。

 生まれたての魔人とは言っても、魔人は魔人。

 かなりの強さを有していたが、それが短期間でやられてしまったというのであれば、それはその者が他と違って特別に強かったということだろう。


「じゃあ、何で……」


「恐らく、柊家とかいう一族に、たまたま能力の高い者がいたのだろう」


 眼鏡の男の問い終わる前に、大和人の男は自分の考えを述べる。

 最初片方の魔人が捕まったと聞いた時は、頭の悪い兄の方だったため、何かしらのヘマをやらかしたのだと思った。

 兄弟がやられた時は、鷹藤家ばかりに注目していたため柊家のことなんて気にしていなかった。

 2度とも柊家による討伐となり、彼の中で柊家に特別な人間がいるという結論に至ったようだ。


「やはり生まれたての魔人ではたいしたことないということか?」


「確かに生み出した魔人たちはまだまだ未熟な部分があった。しかし、それでもそう簡単に討伐されるほどではなかったはずだ」


「……こんなことになるなら管理しとくべきだったか?」


 伸たちが倒した兄弟のモグラ魔人。

 兄の方は一撃の能力が高いとは言っても頭が悪く、弟の方は冷酷で使えるものは何でも使うという考えの持ち主だったが、単体では兄には届かない強さの持ち主だった。

 彼らがどんな成長をするのかを見るために放置ぎみだったが、ここまで速くやられるくらいなら、自分たちで管理しておいた方がもう少し使えたかもしれない。

 彼らは今更ながらに、魔人たちの放置が失敗だったと思い始めていた。


「……気に入らないな」


「「「「っ!!」」」」


 大和人の男の報告を受け、少年は小さく呟く。

 表情はあまり変わっていないが、少年から洩れる殺気に他の4人は息をのむ。

 放置を決定したのはこの少年によるものだ。

 それが失敗だという空気になったことに腹を立てたのかと、自分たちが失言したと後悔していた。


「計画の最初から邪魔されるなんて気分が悪いな……」


「そ、そうですね……」


 どうやら少年が腹を立てたのは、4人の言葉にではなかったようだ。

 自分の計画を邪魔した者たちに対する腹立たしさだったらしく、4人は密かに安堵した。


「こうなったら、大和を最初の狙いにしたくなった」


 計画としては、新たな魔人の実験をしばらく見た後、他の国へ侵攻を開始する予定だった。

 しかし、計画最初から邪魔をされたことが気に入らない少年は、見た目らしく子供のような発言をする。

 それに対して、他の4人は何も言わず黙って聞いている。


「よしっ! 君!」


「は、はい!」


 少年が何かを決めたように呟くと、たまたま目が合った一人を指差す。

 指差されたのは目のつり上がった細身の男で、何を言われるのか不安に思いながら返事をする。


「君に大和を攻めてもらおうと思うんだけど……」


「……畏まりました!」


 指名を受けたつり目の男は、頭を下げて了承する。

 担当するなら大和人の男がおこなうのかと思うが、転移の魔術を使える者が彼しかいない。

 彼がいなくなると、他の国へ手を出そうとした時、密かに忍び込むということができなくなる。

 貴重な存在ということで、彼はトップに立つ少年から重宝されているのだ。

 そのことが分かっているため、大和人の男も何の反論もしない。


「他のみんなにも、順次他の国への潜入を開始してもらうからそのつもりで」


「「「了解しました!」」」


 所詮大和の国は計画の一歩目でしかない。

 そのことが分かっている他の者たちも、少年の言葉に返事をした。


「人間を家畜とする魔人の世界を作るんだ!」


「「「「ハッ!!」」」」


 ここは魔人島。

 世界の各地で生まれ、人類に追われてたどり着いた魔人の住む島だ。

 この場にいる5人も、実は魔人である。

 これまでこの島で密かに暮らしていたが、他の地へと侵略を開始することにしたのだ。

 当然このようなやり取りがされているとは思わず、大和をはじめとした世界は、今後彼らの計画による被害を負うことになるのだった。


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