第47話
「康義様!!」
洞窟内に進入し、魔人の捜索を続けていた鷹藤家の面々。
そこに後方から1人の部下が駆け寄ってきた。
「んっ?」
「何だ? 何があった?」
突然のことに、当主の康義や分家の者たちは足を止めて駆け寄る部下へと視線を向けた。
その部下の慌てように、康義の息子である康則が問いかける。
「魔闘組合から速報が入りました!」
「……速報?」
魔闘組合からとなると、魔人、もしくは魔物に関するものだろう。
報告に来るくらいなのだから、自分たちに無関係のことではないはず。
面々は周囲に警戒しつつも、部下の報告を待った。
「この洞窟内の魔人が討伐されました!」
「「「「「なっ!?」」」」」
部下からの報告に、この場にいた者たちは等しく驚きの声をあげる。
魔人を倒すためにこの洞窟内を進んでいるというのに、その魔人が討伐されてしまったというのだから驚くのも無理はない。
唯一、康義だけが冷静なままだ。
「どういうことだ!?」
「出入り口とは違う所から出たということか!?」
「討伐って、誰がおこなったんだ!?」
部下から受けた驚きの報告に、分家の者たちが矢継ぎ早に問いかける。
それだけ冷静さを失っているということだろう。
かけられた質問の雨が治まると、部下の男は1つ1つ返答することにした。
「我々の突入後、この洞窟内に潜んでいた魔人は八郷方面へ逃亡しました!」
「この洞窟は八郷に続いているのか!?」
「調査はどうなっていたんだ!?」
部下の返答途中でありながら、またも分家の者たちから質問が飛び込む。
冷静でないが故の反応だろう。
魔人という人間にとって脅威となる存在を逃がさないために、調査も急がなければならない状況だった。
潜伏地の探索を急がせたのは、この場にいるトップの人間たちといってもいい。
逃亡した魔人を一刻も早く討伐しなければならないのは、市民のために重要なこと。
洞窟の全貌を調査している暇などなかったのだから、八郷側に続いているということが分からなかったのは仕方がないことだ。
「続けろ!」
「……ハッ!」
報告が済んでいないのに、当事者でない彼に聞いても意味がない。
そのことを分からせるように、康義が部下へと話しかける。
それにより、騒いでいた分家の者たちも少し冷静を取り戻し、質問するのをやめて黙った。
「鷹藤家の洞窟発見と突入を魔闘組合の報告を受けた柊家が、洞窟が八郷地区へ続いている可能性を感じ、それを確認に来たところ魔人と遭遇、その場にいた数人と共に当主の俊夫殿が魔人を討伐されたとのことです」
「なっ!?」
「またも柊家がっ!?」
「馬鹿なっ!?」
鷹藤家が魔闘組合に洞窟突入を報告したのは、突入前。
その後に柊家に報告が行き、場所が場所だけに洞窟が八郷側へ続いている可能性を調査。
結果、数人の部下たちと共に調査に来た俊夫たちが魔人に遭遇し、討伐した。
それが、俊夫が伸と用意していた流れだ。
それを魔闘組合を通して鷹藤へと伝わったということだ。
魔人が逃亡することにならなくて済んだが、その報告にはまたも驚かされる。
多くの精鋭を集めて魔人討伐に向かった自分たちと違い、柊家はたいした準備もせずに魔人の討伐を果たしたということになる。
率いている巨大モグラの魔物を見ても分かるように、魔人が弱いわけではない。
倒した柊家が強いということだ。
そう考えると、もしかしたら鷹藤家の者たちよりも上なのではないかと思えてきた。
「魔人は2体いたはずだ!!」
「2体とも討伐完了したとの報告が入っています!」
「そんな……」
一度は魔人を捕まえた柊家だから、今度は倒したというのも分からなくはない。
それだけ柊家当主の俊夫が強いということだろうが、魔人は2体いた。
俊夫がいても2体とも討伐するなんて、信じられない話だ。
しかし、魔闘組合が間違った報告をしても何の得もないため、納得できなくても間違いないはずだ。
なので、彼らは何も言えなくなり黙るかしかなかった。
「……では、魔人は倒されたのだな?」
「は、はい……」
部下の報告を受け、これまで1人黙って聞いていた康義は、部下に魔人の討伐完了の確認を取る。
滅多に話すことができない康義に問いかけられ、報告に来た男は一瞬言葉を詰まらせながら返答した。
「そうか……」
「父上?」
確認が取れたことで、康義は安堵したように息を吐く。
その様子を見た康則は、鷹藤家の当主で大和皇国最強といわれる父でも、魔人の相手には力が入っていたのだと意外に思う。
魔人との戦闘経験があるがゆえに、その強さや怖さも分かっている。
だからこその緊張だということを、康則は分からなかった。
「柊殿から鷹藤家への協力依頼が届いております」
「……何の協力だ?」
八郷地区内に逃げた魔人を討伐したのだから、柊家に文句を言うことはできない。
鷹藤側にも、魔人が官林地区にいたことを喜んでいた者もいる。
しかし、魔人討伐によって鷹藤家の名声が高めることができたかもしれないというのに、これではまた柊家の株が上がるだけだ。
なんとなく獲物を横取りされたように感じているのだろう。
柊家の協力といわれて不機嫌そうな表情で、康義に代わって康則が部下に問いかけた。
「魔人が両手の治療のために人質とした医者たちの遺体が、地下に放置されているそうです。その回収をお願いしたいとのことです」
「……分かった。これより我々は、被害者の遺体回収を目的に変更する」
魔人の潜伏地を突き止める要因になった行方不明の医者たち。
彼らの捜索も目的としていたが、死亡しているという報告に康義の表情が暗くなった。
しかし、それもすぐに切り替え、康義は柊家の協力をする事に決めた。
「行くぞ!」
「……はい」
巨大モグラの魔物もまだ残っている。
その討伐もしておく必要がある。
何よりこのまま何もせずに帰る方が、後々恥をかくことになる。
康義の指示を受け、鷹藤の面々はこのまま洞窟内を進むことにした。
◆◆◆◆◆
「えっ? この洞窟八郷に続いてたの?」
「そのようです」
洞窟内の魔物を討伐するように言われていた文康にも、祖父である康義たちが受けたのと同じ内容の報告がなされた。
その報告に、文康は軽い口調で報告に来た者へ問いかける。
祖父や父によって付けられた護衛の協力が大きく、高校生の文康でも魔物と戦えていた。
魔物を倒せているからか、天狗になっていた鼻が伸びたままのような態度だ。
「何だよ。その辺ちゃんと調べといてよ! じゃあ、せっかく参加したのに魔人が見れないって事か?」
「え、えぇ……」
この戦いに参加したのは、魔人の強さを生で見れることを期待してのものだった。
それができなかった上に、柊家に獲物の横取りをされたということになる。
報告を受けた文康は、つまらなそうな態度へ変わった。
「それで? 俺はどうすればいいの?」
魔人が見れないのなら、こんなとこにいつまでもいたくない。
そんな態度を隠すことなく文康は問いかける。
「文康様はこのまま魔物の捜索と討伐をするように、康義様より言付かっております」
「そうか……」
父の康則から言われたなら、もしかしたら魔物のことなんかもう気にせず帰っていたかもしれないが、祖父の康義に言われたら無視するわけにもいかない。
高校生になったことにより、文康は段々父のことを敬わなくなりつつあった。
あくまで彼の最終目標は、祖父である康義以上の魔術師だからだ。
祖父に言われたのでは従うしかない文康は、仕方ないと言うかのように、魔物の討伐を継続したのだった。
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