第25話

「ふん!」


「す、すごい!」


 空いた穴から出てくる巨大モグラの魔物。

 その魔物たちに対し、伸は刀を振り回して倒していく。

 その戦う姿を見て、綾愛は驚きで固まっていた。

 学園に出た時は、睡眠魔術によって意識がしっかりしていなかったため、伸の戦闘をはっきり見れていなかった。

 あの時でもすごいと感じていたのだが、しっかりと目の前でおこなわれる戦闘に感心しきりだ。


「ん~……、前回よりかは強いかな……」


 学園に出たのと同じ種類の魔物でありながら、伸は前回との違いを感じていた。

 数が多いと言うだけではなく、何となく魔物同士で連携しているような動きをしているように感じる。

 同じ種類の魔物ならそうしたこともあり得るが、前回以上の連携度合いに感じる。

 それが伸にとって戦いにくさとなって出ているのかもしれない。


「まぁ、俺からすればたいした差はないがな……」


 連携力が違うのは気になる所だが、それでも伸にとっては微々たる差でしかない。

 魔物たちはバッサバッサと斬り伏せられ、死骸の山を増やしていた。


「っ!!」


「っと!」


 出現した魔物の中には、仲間が殺されているというのに、綾愛を狙って行動する個体がいた。

 その魔物を、伸は小さい魔力弾を飛ばすだけで仕留める。


「速い……」


 綾愛を狙って倒された魔物の頭部には、小さい穴が空いている。

 その鮮やかな仕留め方に、綾愛はまたも感心していた。

 自分が使っている魔力弾よりも小さいにもかかわらずこの威力というのもすごいが、発射速度に加え、これほどの威力を出せるほどの魔力を練るのも一瞬だった。

 伸が言っていた魔力のコントロールの差が、自分とは雲泥の差だというのが理解できた。


「手は出さなくて良いから、魔物の死体を収納してくれるか?」


「う、うん」


 魔物と戦っているのは伸だけで、言いたくないが綾愛は足手まといでしかないため、戦うよりも側で見ているだけでいてくれる方がありがたい。

 穴から出てくる魔物を倒していたことで、死骸で段々と坑道が狭くなってきた。

 このままでは戦いにくくなるので、伸は手の空いている綾愛に手伝ってもらうことにした。

 やることは簡単、魔物の死骸の収納だ。


「まだまだ出てくるか……。一気に吹っ飛ばしたいが難しいな……」


「なんで?」


 倒しても出てくる魔物の量に、伸はうんざりしたように呟く。

 戦う伸の邪魔をしないように収納をしながら、綾愛はその呟きに反応する。

 戦闘開始してから、伸はほとんど身体強化して刀での攻撃しかおこなっていない。

 魔術を使った攻撃をした方がもっと楽なのではないかと思っていたため、そうしてそうしないのか綾愛には理由がわからなかった。


「これだけの数を一斉にってなると、ミスったら洞窟が壊れる」


「あぁ……」


 魔物を全滅させるだけなら難しいことではない。

 自分1人で戦っているのなら、この洞窟ごと魔物を潰してしまうという力技も出来なくないが、今は側に綾愛もいることだし、他の柊家の人間たちが逃げきれているか分からない。

 綾愛としても生き埋めは嫌なので、魔術による一掃は勘弁願いたいため、今は地道に減らしていくしかないようだ。


「転移はできないの?」


 魔物の数が尋常じゃない。

 しかし、悔しいが自分は足手まといでしかないため、戦う訳にはいかない。

 せめて自分だけでもいなくなれば、伸がもう少し戦いやすいはずだ。

 そう考えた綾愛は、先日見せてもらった転移の魔術を思いだして問いかけた。


「この数相手じゃいくら俺でも時間が足らない」


 この世界で転移魔術を使いこなせる者はかなり少なく、しかも伸のように無理なく使いこなすような人間はいない。

 それだけ難しく、多くの魔力を消費する魔術だ。

 転移魔術はなら、行ったことある場所へ一瞬で移動できる魔術だが、その移動する場所のイメージをしっかりして魔力を練らないとないといけない。

 それを魔物を相手にしながらでは、いくら伸でも難しいため、無理だということを綾愛に伝えた。


「ったく! 数が多いな……」


 一通り倒し終えた通ったら、また穴から魔物が出てくる。

 少しの間を利用して、ちょっとばかり探知してもまだ地下には魔物が潜んでいるように見える。

 早く綾愛を柊家の人間に渡してしまいたいところだが、まだ時間がかかりそうだ。


「これだけの魔物がいるってことは、本当に魔族がいるのかな?」


「いくら俺でも、魔族だけは勘弁してほしいな……」


 魔物ならこれまで何度も倒してきたため、恐ろしいと思うことはないが、魔族の強さは伸でも未知数だ。

 しかも、今は綾愛もいる状況なので、絶対に遭遇したくない。


「……もしも出たら?」


「変な事聞くなよ」


 この状況でそんな事を言われると、何だかフラグになりそうで嫌な気分になる。

 そのため、伸は綾愛の質問にツッコミを入れる。


「もしも……の話よ」


「まぁ、出たら、君を抱えて何とか逃げ切ってみるよ」


「……、そう……」


 綾愛の言うように、もしも魔族が出たら逃げ1択だ。

 置いて逃げるという選択を取ると思っていたため、綾愛としては意外な答えだ。

 しかも、抱えてという言葉で、さっきの御姫様抱っこのことを思いだしてしまったため、ほんのり顔が赤くなってしまった。


「あっ! あっちは……」


「無理無理。流石に外へ向かうのまで止めてられないよ」


 穴から出てくる魔物の中には、綾愛を狙うのは無理だと判断したのか、外へと向かう方角へと向かう魔物も出始めた。

 しかし、それまで伸が倒すとなると、綾愛を危険に晒すことになる。

 そのため、外へ出てしまった数体は、外で控える柊家の人たちに任せることにした。






「田中! 綾愛はどうした!?」


「魔物が出現し、出て来られなくなってしまいました!」


「なっ!!」


 異変を聞いて、柊家当主の俊夫も出張ってきた。

 柊家の屋敷からそれほど離れていない山だったのが幸いしたという所だろうか。

 戦闘面においてはそれ程でも、移動速度に自信のある田中に綾愛の避難誘導を任せたのだが、戻ってきたのは田中だけだった。

 顔を青くしながら問いかけた俊夫に、田中は洞窟内で何が起きたのかを簡単に説明した。

 その説明で、俊夫は更に血の気が引いた。


「せめての救いは、当主様が目をかけていた新田殿にかけるしか……」


「新田……、あの少年か……」


 恐らく自分以上の実力を持った少年。

 彼が綾愛の側にいるということを聞いて、俊夫は少しだけ安堵した。

 魔物に襲われている状況だとしても、彼なら綾愛を守り切れるかもしれないからだ。


「あっ!?」


「魔物だ!!」


「連携をとって戦え!!」


 綾愛たち以外にも、柊家に仕えている数組の班が戻って来ていない。

 彼らも魔物に襲われているのかもしれない。

 外にいた者だちは、大人数の隊を組んで全員の救護に中へと入ろうと思っていたのだが、それより先に魔物が洞窟の入り口から出てきた。

 それを見て、集まった柊家の面々は、武器を持って戦闘を開始した。


「全員! 仲間の救助優先だ! 魔物を倒して中へと進め!」


「「「「「了解!!」」」」」


 魔物の殲滅は後回し、まずは仲間の救出が最優先だ。

 そのためには、まず出てくる魔物を倒しつつ中へと進んで行くしかない。


「くそっ!! 綾愛や中に入った者を救いに行きたいというのに……」


 出てくるのは結構な数の巨大モグラの魔物たち。

 伸が逃したのだけでなく、他の坑道からも外へと向かっている魔物がいたようだ。

 その魔物を倒さないと、中へと入ることもできそうにない。

 洞窟が崩れるといけないため、伸と同様に魔術でドッカンとやる訳にはいかない。

 娘や部下を救いに、一刻も早く中へ入りたい俊夫だったが、魔物に邪魔されてイラ立っていた。


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