第2話
「席が後ろの方でよかったな?」
「あぁ!」
入学式も終わり、伸と了が教室に入るとプロジェクターによって席順がスクリーンに映し出されていた。
授業について行かないといけないので席順なんか関係ないのだが、やはり後ろの方だと教師の目に入るのが嫌な気がするからだろうか。
後ろの席になれた2人は、若干嬉しそうだ。
男女の比率は5:5の30人。
教室内を見渡してみると、男子は男子、女子は女子同士で話している。
速くこの環境に慣れるために、友人作りを開始している状況なのかもしれない。
伸は早々に了と仲良くなれたので、他とはそのうち仲良くなればいいと特に焦った様子はない。
「お~し、席につけ」
それぞれ雑談をしているところに、式で紹介されていた担任が入ってきた。
それに反応するように、生徒たちは自分の席へと着く。
スクリーン横に設置された机の所に立ち、生徒たちの出席を確認した。
「式でも紹介されたが、俺が君たちの担任の三門良成だ」
「もしかして三門家の人間ですか?」
担任の三門が自己紹介すると、1人の男子生徒が手をあげつつ質問をする。
教室内の者たちみんなが、同じ質問をしたいと思っていたところだ。
「あぁ、その通りだ。気ままな次男坊だ」
男子の質問の通り、彼は三門家の人間のようだ。
柊家程ではないが、三門家も八郷地区ではそこそこ有名な一族だ。
魔物と戦う際、攻撃・防御・支援等でバランスよく使いこなせるため、仲間にいて欲しいと重宝される。
器用貧乏と揶揄する者もいるが、そのバランスの良さから教師を多く輩出している。
「授業は明日からだ。配布されたタブレットは無くしたり壊したりするなよ!」
この学園での座学は、基本タブレットを使ったものになる。
魔術学園専用のタブレットで、そこに全教科の教科書が内蔵されている。
課題などの提出もこれでおこなわれる。
無くしたりした場合GPSで分かるし、起動には生体認証が必要なので不正使用されることもないだろうが、捜索に事務職員の手間を増やすことになる。
頻繁にそんなことがあれば、注意を受けるのは担任の三門のため、そうならないための忠告だろう。
不意の落下で壊れたりすることもある。
その場合、新しいのを用意しなければならなくなり、費用や手間を考えると三門にとっても壊した本人にとっても面倒なため、丁寧に扱えという意味だろう。
「後は……とりあえず端から自己紹介でもしてもらおうか?」
『うっ! 面倒くさ!』
カリキュラムなどの説明も一通りされたが、タブレットにも入っていることなので流し読みといったところだ。
今日はこのまま解散になるのだが、時間も余っていることなので、三門は恒例として自己紹介をさせることにした。
どうせ1回で全員を覚えられるわけでもない。
自分も他人も少し緊張するだけの無駄な時間のような気がし、伸は内心文句を言っていた。
「伸は両親来てないのか?」
嫌な時間も経過し、今日は解散という形になった。
みんな入学式に来た親と共に帰っていく。
しかし、人を探すような素振りをせずに校門へと向かっていた伸に、ふと気になった了が問いかけてきた。
「あぁ、俺身寄りがいないんだ」
「……すまん」
「気にすんな」
了の質問に、伸は平然と返す。
伸の両親は小さい頃に病で亡くなり、それからは祖父母に育てられてきた。
しかし、祖父母も中学1年の時に祖母が、中学卒業間近に祖父が亡くなったため、現在の伸は天涯孤独という状況だ。
まさかそんなこととは知らず、了は普通に問いかけてしまったことを謝るが、伸は気にした素振りなく話を終えた。
「寮住まいだろ? ちょっと待っててくれ!」
「あぁ、分かった」
浅都出身の以外の生徒は、毎日通うのが難しいので寮住まいだ。
伸はここ浅都州の西に面している花紡州、了は北西に面している右菅州の出身。
なので、伸はこのまま寮へと向かうのだが、了は伸を待たせて走って行った。
少し離れていたところにいた50代前後の男性と話している。
その男性の顔を見てみると、何となく似ているため恐らく了の父親なのだろう。
「待たせた!」
「いや、もういいのか?」
「あぁ、挨拶程度の会話だから」
「ふ~ん……」
一言二言話したくらいで、了は戻ってきた。
たいした時間ではないので、伸としては特に待ったという気にはならなかった。
それよりも速すぎることの方が気になったが、挨拶をして来ただけのようだ。
『まぁ、思春期の父親と息子なんてそんなもんか……』
中学の卒業くらいの時になると、両親と話す話題がないという友人が多かった。
父親がいなかった伸には分からないが、了も同じようなものなのだろう。
「じゃあ、行くか?」
「あぁ」
話し終わったというならもうここにいる意味がないため、伸は了と共に男子寮へと向かった。
◆◆◆◆◆
「伸は部活入んないのか?」
翌日、在校生から部活紹介が体育館でおこなわれた。
魔術学園の場合、同じ球技でも魔術を使う・使わないと2つあったりしているため、結構な数の部活が存在しているようだ。
全ての紹介が終わって教室に帰ると、早速了が問いかけてきた。
「バイトも考えているから入る気はないな……」
学園では特にバイトなどの制限はない。
当然夜間の仕事は駄目だが、放課後や休日のバイトは止められることはない。
伸は雑費を稼ごうと思っているので、バイトをする予定だ。
なので、部活に入るつもりはない。
「了は?」
「……剣道部に入ろうか悩んでる」
「へぇ~……」
どうやら了は近接戦闘が得意なタイプなのだろう。
魔物と戦うには武器での修練が必須なので、戦闘の授業も存在している。
しかし、それは魔術を使った魔物との戦闘用のもので、剣の技術を競うようなものではない。
そのため、純粋に剣の技術を上げたいと思うなら、剣道部に入るという選択はあり得る。
「何に悩んでいるんだ?」
「座学のことを考えると、ガッツリ練習なのは嫌だな……」
「なるほど……」
話によると、了は入学試験の筆記がギリギリだったらしい。
魔術学園となると、普通科目に加えて魔術関連の授業も行わなくてはならない。
部活に入って練習漬けになると、授業について行けるか分からない。
そのことが了には気がかりなのだろう。
「でも、剣を鍛えるなら入った方が良いじゃないか? 勉強きつかったら休むか辞めればいいんだし……」
「そうだな!」
了がどんな戦闘スタイルなのかは分からないが、剣を使った戦闘がメインなのだろう。
魔術によって身体能力を上げて敵を倒すにしても、剣技を磨いた者とそうでない者では差が出る。
世の中には魔術を使って犯罪を犯す者も存在するため、魔物相手と違い対人戦ではそういった技術が勝敗を決めるようなことがある。
相手が魔物だろうと人だろうと、どちらにしても無駄にはならないことなので、伸としては入ってもいいのではないかと思える。
ここの卒業資格の重要性を考えれば、勉強がきついといえば休みくらいくれるだろう。
何も、入ったら3年間続けなけらばいけないという校則はない。
伸の軽い考えに背中を押されたのか、了は試しに入ってみることにしたようだ。
「……伸のバイトってなんだ?」
「回復薬作りだ」
「へぇ~……」
魔物と戦うためには、回復薬が重要になってくる。
それでなくても、怪我を治すには使えるため、回復薬の需要はかなりある。
薬草に魔力を籠めて作るため、魔術が使える人間は小遣い稼ぎに回復薬作りをする者が多い。
学生だろうとちゃんとした質なら魔闘組合に購入してもらえるので、放課後の時間を使ってその製作をおこなうつもりだ。
「まぁ、授業なんかに慣れてからだが……」
「そうか」
高校の授業程度のことはもう独学で勉強しているため、伸にとっては復習程度の役割でしかない。
しかし、あまり余裕ぶっていると、不審に思われるかもしれない。
なので、もう少し学校内の人間の様子を見てから回復薬作りを始めるつもりだ。
「何で入学早々こうなるんだ?」
平凡な高校生活を送るために、出来る限り慎重にしていた伸だったが、すぐに問題が起きた。
翌日の授業開始初日、伸は何故か2人の生徒と対決することになったのだった。
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