第22話 買い物1

サカイ食堂の料理はボリューム満点で美味しかった。

食べきれなかった唐揚げを包んでもらえたので、夜のつまみに決定。

俺の食べた唐揚げ定食ラーメンセットで800円、ショップにある普通の醤油ラーメン一杯が1200円なので、これからご飯は外食か、自炊したほうが良さそうだ。

良い店紹介してもらったわ。

シンさん、ゴチでした!


その後、安い服を売っている店に連れて行ってもらい下着や靴下、ジャージを購入。

それなりの数を買い揃えたので、あわせて10000円ほどかかった。

ショップだとシャツ一枚に5000円かかるし、買い物する時は外の店と比べてから買わないと駄目だな。

懐に余裕ができるまではなるべく節約しないといけないし。

まぁ、タバコは俺的に生活用品に含まれるので、ストレス解消程度には節約を気にせずショップで買いますけどね。


シンさんいわく、神界にも酒やタバコを作って売っている店があるらしい。

酒は地球と変わらないくらいに充実してるらしいが、タバコは黙ってショップで買った方が旨いそうだ。

神界にいる喫煙者の数は多くはないらしく、売っているタバコも、趣味で作ったような癖の強いタバコくらいしかないのだとか。


そんな話をしてお互いが喫煙者だと分かり、只今缶コーヒー片手に公園のベンチで一服中。

地球と違って、タバコを吸うのに厳しく規制があるわけではないらしい。

神と使徒は病気になる事はないからだとか。

ただ、匂いを嫌ったり、神のイメージ的に悪いとかであまり良くは見られないそうだ。

仕方ないね、俺だって吸い始める前はタバコ嫌いだったし。


「黒石君、この後はどうする?買い物がもう大丈夫なら、連れて行きたい場所があるんだが」


「とりあえず必要な物は買えたんでもう大丈夫です。付き合わせちゃってすみません。後はシンさんにお任せしますよ。どこに行くんです?」


本当はエロ関係の物を売っている店について聞いてみたかったが、今は止めておこう。

もうちょっと仲良くなってからでも遅くはない。

仮にもエリートと呼ばれる黒制服を着た二人が、昼間からエロトークをしてエロい物を買っていたら、噂になりそうだし。


「武器屋に行こうと思っている。黒石君はおそらくまだ武器を持っていないだろう?スキルだけで戦うのもいいが、色々試してみた方が戦略も広がるぞ。試し切りもできるし店で自分に合う武器を探してみるといい。俺の武器も整備で預けたままだし、取りに行きたいしな」


ファンタジーっぽくなってきましたよ。

武器とか男なら皆が憧れるだろ。

俺と同じ世代の男ならほぼ確実に子供の頃、傘でアバンストラッシュとかやってたはず。

本物の武器を使ってみる事ができるとかテンション上がりますわ!


「武器ですか!いやー、実はさっきそれっぽい店の前を通った時から気になってたんですよね!是非行きましょう!」


「では行くか。武器屋の店主は変人だが気にするなよ」


神界に来てから変人との遭遇率高いんで気にしませんよ?

ちなみにシンさんも変人カテゴリーだからね?






「シンー?あたし、ずーーっとあなたが来るの待ってたのよぉ?すぐに整備できるって言ったのにぃ、3日もご無沙汰なんて酷いじゃない!寂しくてシンの大事な相棒をずっとイジってたんだからぁ…先っぽもシコシコ擦って綺麗にしたしぃ、黒くて太くて硬い部分も両手で優しくシゴいてあげたのよぉ…シンも我慢してたんでしょう?早く奥にいきましょうよ…」


ジーザス。

扉を開けてすぐ、店の中からビキニアーマーを纏ったゴリマッチョな金髪のデカい女が、シンさんに抱きついてきた。

超アマゾネス、それか超姉貴って感じ。

それがなにやら卑猥な言葉をシンさんの耳元で囁いている。


「あのぅ…お邪魔なようなんで、ちょっと散歩してきます…。事が済んだら連絡してくださいね…」


童貞なんて思っててすんませんでした。

シンさん、あんた漢だよ。

俺には胸が筋肉と一体化している女性を相手に一戦交える事は不可能だよ…。


「待て!黒石君!その必要は無い!アリス、ふざけるのを止めろ!!」


「なによ、ちょっとした挨拶でしょう?私達の仲じゃない。連れの人もせっかく気を回してくれたのにごめんねぇ、この人ったら恥ずかしがり屋だから」


「あっ、はい…」


どうしよう、こういったパターンの変人だとは思っていなかった。

テンプレのドワーフみたいな、髭モジャのいかつい職人みたいなの想像してたよ。

いい目をしておる…とか、そんな感じのわけわかんない事言いそうな偏屈なの。


「あら、黒制服ってことはシンの同僚?初めて見る顔だけど純粋な日本人よね?使徒で攻略課って事は…お金持ちな神の秘蔵っ子とか?」


ジロジロ見ないでください、顔は綺麗だけど怖いんだよ。


「…まぁ、そんなとこだ。彼に合う武器を探しに来た。色々試したいんだが大丈夫か?」


「ふーん、まぁいいわ。じゃあ行くわよ」


剣や斧が並ぶ店内の奥にあるカウンターに作業中の札を立て、端末を操作し始める超姉貴ことアリスさん。

すると鉄製の武骨な扉が現れる。

扉が現れるのは何度か見たが、この扉、かなりデカい。

武骨さも相まって、若干ビビる。


「黒石君、この先はアリスの作った異世界だ。心配はいらないから入るといい」


「シンー、後でちゃんとこの子の事教えてもらうからね。じゃ、怪しげな同僚君、入って」


「あっ、はい…」


筋肉二人が仁王像のように扉の両脇に立ち、入れ入れと言ってくる。

入る以外の選択肢が無いですね。


「じゃあ、お邪魔します…」


かなり重そうに見えた扉だが、開けようとするとすんなり開いた。

そのまま白い光の中に入って行く。

視界が晴れると広い部屋の中に立っていた。

THE鍛治場って感じ、熱そうな炉もあるし。

辺りを見回してるとすぐ後ろに筋肉カップルが立ってこちらを見下ろしていた。

声かけろや、おっさんビビらせて楽しいの?


「鍛治場は初めて?かなり暑いんだけどそれ着てれば大丈夫よね。適当に座っててね。まずシンの相棒を持ってくるから」


え、どういうこと?

確かに炉があるし糞暑そうな部屋だけど適温だよ?


「この黒制服は防寒防熱のスキルが付いている。どこでも適温で過ごせるんだ。物理耐性や魔法耐性も付いているから、そこらに売っている防具より高性能だぞ。一応、自浄のスキルも付いているが汚れたり、破れたりしたら協会に申請しろ。新しいのと交換できる」


ポカーンとしてるとシンさんが説明してくれた。

なるほど、エリートな防具なわけね。

それとアリスさんがビキニアーマーな理由もなんとなく分かった。

糞暑い部屋で仕事するなら、汗もかくだろうし薄着の方がいいのだろう。

露出が多い分、火傷しそうな気もするが。

ただの趣味だとしてもいいじゃない、ファンタジーだもの。


「なるほど、大事に使いますね」


「攻略中は大事に使わなくていいぞ。所詮、物だ。壊れる時は壊れる。黒制服に気を取られて危険な目にあっては意味がないからな。攻略中に壊したのであれば、特に咎められる事もない」


ごもっともだね。

貧乏性だからすぐには慣れないと思うけど。


「シン、あなたその喋り方変よ。後輩の前で格好つけたいのは分かるけどね。…はい、あなたの相棒。あなたがすぐ来ないから、暇潰しに貰った金額以上の整備をしてあげたんだから。感謝しなさい」


まさか俺にまで格好つけてたんかこの筋肉マン。

それはいいとして、アリスさんが4mはある太くて長い槍を、ティッシュでも投げるかのようにシンさんに放り投げた。

それを、片手で軽々と受け取るシンさん。


「…うるせぇ、黙ってろ。槍はありがとよ…」


「はい、どういたしまして」


お、素のシンさんっぽいぞ。

ニアという情緒不安定地雷系女神を見てるから驚かないけど。

このカップル、お似合いなんじゃない?

シンさんがロリコンを治療すれば、孫にすぐ会えるんじゃないかな支部長。

…なんだかニアに会いたくなってきた。

今なら病みニアも痛ニアにも、優しくキャラを合わせて接する事ができる気がする。

後が怖いけど。

特に病みニアは下手すると包丁で刺されるどころか実写バイオの隊長よろしく、スキルで細切れにされかねない。


「…俺の武器は問題なさそうだ。次は黒石君に合う武器を探してみよう」


槍を少し離して眺めたり、まじまじと近くで見つめて観察した後、シンさんの手から槍がどこかへと消えた。

空間魔法かな?

シンさんも使えるのか、さすがはエリートって感じ。


「同僚君、外に試作品とかゴミが色々置いてあるから、適当に試してみるといいわ。良さそうな種類の武器があれば、それと同じ種類の店にある商品を買えばいいと思うし」


「はい、了解です」


部屋の扉を開け、外に出る。

出てきた建物は煙突の付いた工房のような平屋だった。

工房の近くにはそこら中に武器が散乱している。

工房の周囲は茶色い土が見えた地面が広がっていて、巻き藁がぽつぽつと立っていた。

すぐ近くに小川が流れているくらいで、茶色い地面の先には森が生い茂っているのが見えたが、それだけだ。

延々と森が続いている。


「それじゃ、私は武器体験に使えそうなのを選んで持ってくるわね。とりあえずこの剣でも試して待ってて」


落ちてた両刃の剣を渡した後、アリスさんは落ちている武器をガサゴソと物色し始めた。


「とりあえず巻き藁に攻撃してみてくれ。黒石君に合う武器かどうか、俺もアドバイスくらいはできるからな」


渡された剣はズッシリとして、本物の武器だという事を認識させてくれる。

やる気がどんどん上がっていく。

よっしゃ、いっちょやってみっか!

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