第58話 魔王になんて絶対にならないんだからね!
小惑星リビエラの中心地といえるコロシアム――。対象がコクピット・インファントリやキャバリーなだけあって、めちゃくちゃデカい。東京ドームが何個分なのか――そういえば、このたとえって全く規模がわからんのだが、東京在住の皆さまはわかるのだろうか? 対してビタミンCが入っていないレモン何個分みたいなものだろうか?
撃墜判定を喰らった奴らの機体制御も元に戻ったらしく、ぞろぞろとインファントリが生まれたてのカマキリのようにひしめいている様は、ちょっと気持ち悪い。流石に人間の移動速度とは比較にならないインファントリもそれもあってか、巨大なコロシアムへの収容は思いの外早かった。三〇分もすると指定された待機場所に総てのインファントリが駐機された。
うわっ! さっきの銀色ドクロと白仮面が隣にいる……。ギャーーーーーーーーッ、仮面に隠れているのに凄い視線を感じるぞォ‼ 視線が何らかのエネルギーを持っているのなら、
もはや歯ぎしりさえ聞こえてきそうな銀色ドクロと、冷徹な殺気を放つ白仮面。対照的ながら、両方とも俺が悪くて仕方ないのだけは共通している。いやいや、勝負ってそんなもんでしょ?! あんたらみたいな怪物と凡人を一緒にしないでください。
少し離れたところには、小面――セシリア・サノールの姿があった。ひぃ! こっち見てるやんけ! セシリアは美人だけどなんか怖いのだ。俺には日常的なヒロインが相応しいのだ。もっというとヒロインよりも、穏やかな平穏こそを求めている。
そう、本来ならこんな乱痴気騒ぎに参加するなんて、俺の目指すところの真逆も真逆、正反対なのだ。
あの、イヴァルとかいう頭おかしいのがわけわからんことをのたまわなければ、俺はポテーィトォとコーラを飲み食いしながら、学園祭を楽しんでいたのだ。こんな戦闘狂の狂宴に駆り出されることにはならなかったのだ。やっぱり、皇族はクソだ。
『さて、お集まりの皆さま、そしてご観覧の皆さま。仮面武闘会インファントリの部、集計が終了しました。強敵相手に巧く立ち回り、仕留められるところではきっちりと仕留める。打算的かつ効率的な立ち回りは、その仮面故か? その中身は本物か? 映えある優勝者は――M0H番!』
M0H番――。…………俺か! うわぁ……視線の針でむしろにされている気分。
『それでは、優勝者以外は敗者の証として仮面を脱いでください』
一斉に仮面を脱ぎだす一同。魔王仮面の正体が俺とバレなくてよかったのだが……同時に、皇族であるイヴァルを負かせたのが魔王のコスプレ野郎って色々と問題がないか?
隣から突き刺さる一際強い視線の圧に無意識に振り向けば――げっ。銀色ドクロの中身、イヴァルだったんかワレェ⁉ お前、変に律儀なところあるんか! ぶっちゃけ、皇族のわがままで仮面を脱がない選択肢もあったろうに、ご丁寧にイヴァルは俺そっくりの顔を晒している。
ウワウワウワウワウワッ! 親の仇でも見てるような睨みようだ。恐ろしい……。俺の正体がバレたら、平穏な日常は絶対に戻ってこない。このまま隠し続けるしかない。
逆隣にいた白仮面はエイジだ。こいつはこいつで訝しげな眼で俺を見ている。魔王のコスプレ野郎が本物かどうかを見定めようとしているのだろうか。こいつに正体がバレる=完全なる死亡フラグなだけに非常に危険だ。仮面は外せない。
セシリアは……なんか熱っぽい視線を送ってきている。お前の好きな魔王様はいないの! ここにいるのは、何故かリベルに転生した元社畜! お前達と関わって死ぬ思いをするのは、まっぴらごめんの一般ピーポーである。
『では、顔なき勝者よ、前へ!』
うわぁ。全員睨んできてるよぉ……。こんなふざけた野郎が優勝をかっさらってごめんなぁ。でも、エレアを将来のDV夫に渡すわけにゃいかなかったので、そこは勝負ごとってことで許してくれ。許してくれって‼ 虫眼鏡で太陽光線集中させて紙燃やせるほどの視線を、俺に向けてくれるなよ!
* * *
「リベルリベル! どこ行ってたのよ? 心配したんだから」
貴族学校に戻った俺を出迎えてくれたのはエレアだった。この笑顔、守りたい。
「ちょっと、ね。エイジは……よし、いないな」
急いで戻っただけあって、エイジはいなかった。もし、あいつに仮面武闘会の間の不在を悟られたら……想像するだに恐ろしい。
「リベル様、お疲れ様でした。私は優勝すると信じていましたよ」
しれっと耳打ちする
「あれ? ここにいたのか、みんな」
エイジ! 危なかった。ちょっとでも遅れていたら――俺の破滅が約束されてしまうところだった。
「エイジくん。仮面武闘会はどうだった?」
「後でわかったんだけど、イヴァル殿下がめちゃくちゃ強かったな。あの方、連邦に名を轟かせているだけあるよ」
あんなトンチキな戦いをしていたのだ。そりゃ強いだろう。だいたい、運命に祝福された主人公サマと互角の勝負ができる段階で、色々とおかしい。
「お前もなかなかだったぞ、褒めてつかわす」
「フワァァァァ!!」
イヴァル! お前、何しやがる! なんと突然現れたイヴァルは、後ろからエレアの耳に息を吹きかけた。変態ダーーーーーーーーーッ‼
「イ、イヴァル殿下……」
「エレア、今日のところは一歩及ばず……だが、明日こそ余が頂点に立つ日だ。余の雄姿、眼を離すなよ?」
エレアの首すじを軽く舐めて、イヴァルは立ち去って行った。顔は悪くないが、あいつ変態的だな……。
「エキセントリックな奴やなぁ」
「おい、リベル。不敬だぞ」
皇族という銀河帝国の最大の権力を持つイヴァルだ。前世ならセクシャル・ハラスメントで捕まるところだが、あいつの場合はむしろ喜ばれる傾向にある。うん、金と権力は恐ろしいな。
「ところで、明日も出るって言ってなかった?」
「言ってたな」
マジか。明日も出なきゃいかんのか……。気が遠くなってきた。
「大丈夫だ、リベル。俺がさっき申し込んできたから」
姿が見えなかったランドが、小声でささやく。こいつ、唯桜に言われたんだな。タイミング的にイヴァルが来る前から……。唯桜の奴、魔王の宣伝でもしようって考えているのか? だから、俺は魔王になんてなる気はないんだよッ!
どうやら、俺の日常はまだまだ平穏さからは程遠いらしい。
「どうせならリベルがやってくれたらよかったのに……」
なんか、エレアがごちていたが、小声すぎて聞き取れなかった。
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