ロボットアニメの悪逆ライバルに転生したのだが、俺はそこまで頭がよくない
活動休止
1st SEASON 魔王の日
第0話 あるロボットアニメの最終回寸前
「また、お前か! エイジ!」
「魔王、ここで止めるッ」
宇宙の虚空。近場に
地獄のような戦場の只中で、両者が激突する。銀色のキャバリーと黒いキャバリー。相当な腕前なのだろう。事実、渾沌極まる地獄において、彼らの機体はほぼ損傷を被っていない。しかし、それでも優劣の差は存在していた。
「グッゥ! 機体性能では上回っているはずだというに!」
黒いキャバリーの操縦士の苛立ちの声もむべなるかな、銀色が確実に押していた。致命的な一手こそ受けていないものの、この流れではいずれは王手に手がかかる。黒いキャバリーを駆る仮面の男は、予想される帰結から必死に逃れようとしていた。だが、追うものと追われるもの。その差は歴然としており、事実、黒いキャバリーは次第に追い詰められる。左腕を近距離戦闘デバイスで切断され、装甲にも内側には達していないものの、細かい傷が幾重にも重ねられていた。
「魔王! ここは私が!」
冷徹な戦場の法則が仮面の男を絡め取ろうとした時、両者に割って入る白い影。兵器に似合わぬ流麗さを持つキャバリーだった。女性的な描線と背なと腰部に備わったスラスターユニットが、宇宙に咲く花を思わせる。
「セシリア、君か! 邪魔をするな!」
「エイジ、あなたこそ!」
銀色の流星と化したキャバリーと蒼い流星が巴を描いて、絡まり撃ち結ぶ。瞬間瞬間が花火の如くに弾けて爆ぜる。悲惨だったのは両者の火線上にいた、名もなき兵士が乗る人型戦闘機だ。世界をお互いのみとして鎬を削る両雄には、残念ながらその他を斟酌する余裕なぞない。結果、高速戦闘の巻き添えが流星の尾を飾り立てるように咲き乱れる。
「エイジ・ムラマサ。お前が我が前に現れた瞬間はゾッとしたぞ。だが、勝ったのは私だ」
黒い重装甲キャバリーに乗る魔王が、ほうき星の削り合いを眺めながら、コンソールを叩く。既にプログラムは完了している。万一の際を考慮して仕掛けられたパスワードを速やかに打ち込み、残り一打を叩く寸前で何故か魔王は一呼吸置いた。今まで苦汁を舐めさせられた残影が去来していたのかもしれぬ。時間にしてたかが一秒、されど一秒。万感の思いを乗せたであろう言霊と共に、彼はコンソールの実行キーを打ち込んだ。
「消えろ、忌まわしい過去の残骸どもよ!」
黒い重キャバリーから発せられた不可視の情報の波は、定められていた通りに小惑星帯に潜ませていた艦を動かす。星屑に潜んでいた数隻の艦は、魔王が仕掛けた必勝の策でもあった。
「な、何? 馬鹿な、あんな艦何処から?」
エイジ・ムラマサが叫んでいるであろう声を夢想しながら、魔王は
誰が知ろう。三世紀も前、小惑星帯で事故を起こし、そのまま廃棄された宇宙艦が存在していたことを。それも、ただの艦ではない。腹に大量の燃料、弾薬を貯えこんだ補給艦だ。数十世代をまたぐ旧式の、いわばエネルギー変換効率の悪い時代の艦。加えて、現在よりも安定性が確保されていない引火性燃料を大量に孕んでいるのだ。つまり、即席のミサイルといえる。
大量の星屑の揺蕩う小惑星帯での外付ブースターの接続は困難を極めたが、見合う効果はあった。なまじ、事前に艦隊数を正確に把握していた帝国軍は、思わぬ増援に驚きを隠せなかっただろう。戦場での位置取りを精妙に行っていただけあって、帝国軍が止めるには遠い。革命軍は、際にいるとはいえ爆裂の範囲の外にいる。
「フハハハハハハハハハハハハハッ!」
高笑いが操縦席で谺する。いくら銀色のキャバリーが戦術的なアドバンテージを持っていたとしても、王手を取ったのは魔王だ。はじめから魔王は、エイジ・ムラマサと尋常な勝負に応じるつもりはなかったのだ。勝敗が明らかな戦いにあえて挑むなど愚者のすること。戦略的に極めの一手を準備していた魔王は、王手に手がかかるまでを耐え忍ぶだけでよかったのだ。
巨大ミサイル化した補給艦の横腹が膨れる。狙い通りだ。まず、一隻を爆破させ、有象無象を十把一絡げに処理し、更に連鎖的に爆裂を引き起こす。高温の渦が巻き起こり、更にまともな視界を確保できぬ状況を作り出したなら――あとは主星へと降下し、帝国城を占領するだけだ。
「各員、事前の取り決め通り、即座に艦へと戻り降下を開始せよ! 銀河を我が手にッ!」
傲岸不遜でありながらも堂に入った宣言は、宙域にいる革命軍の心を大いに鼓舞する。
「エレア……あと少しだ。あと、少し」
操縦席に座る魔王は、呪詛の如くにつぶやいていた。
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