第8話
「お腹空かない?」
「空くと言ったら?」
「わたしの分も買ってきてと言おうかなと」
「Nさんって無意識のうちに人をパシるんですね」
「王者の風格ですよ」
四回目のチャイムが鳴り響き、お昼の時間をお知らせしてくれた。普段の俺ならば、さっさと教室を出て行けという合図である。
「お腹空いた」
「あのー俺に何か買ってこいと?」
「ううん。わたしが奢ってあげるから一緒に行こって」
「Nさん、俺をお金で釣ろうだなんて」
「なら色気で釣ってあげよっか?」
ブラウスのボタンをを上から一個目、二個目と彼女は外してしまった。ゴクリと唾を飲み込んだ俺は彼女の次なる行動に注目してしまう。
「後輩くんは変態くんなのかな?」
「童貞は欲張りなんですよ」
「そうだよね。女性の裸を見たことがないもんね」
「失礼な。見たことぐらいありますよ。ネットで」
「そっか。見たことがあったのか。見せてあげようと思ったのに」
「実は見たことがありません。是非とも見せてください。もしくは写真で撮らせてください。お願いします」
「土下座しても見せてあげないよ。というか土下座って……ガチすぎる」
「知ってますか? 何かを手に入れるということは、何かを失うってことなんですよ」
「セリフだけはかっこいいのが妙にムカつくよね。キミが言わなかったら絶対に惚れてしまいそうなのに……。あと、性欲にプライドを捨てるって」
「人間って生きてるだけで恥をかくのが当たり前なんですよ。赤ちゃんってそうじゃないですか。自分で自分のおしりをふけないぐらいに。だから、別にいいかなって」
「赤ちゃんと高校生を比べるのはどうかと思うけどね」
「比べるまでもありませんよ。俺の圧勝です」
「赤ちゃんに勝ったぐらいで勝ち誇ったらダメでしょ」
というわけで、二人でお昼を買いに行くことになった。
別にお金に目が眩んだわけじゃないんだからね。
ただ奢ってもらえると思っただけなんだから……あれ? どちらにせよ、同じじゃないか。
「今ここで学校が爆破したら面白いと思いませんか?」
「すいませんー。ここに学校爆破を目論む不登校児がいますー」
手を大きくあげたNさんは周りの人に聞こえるぐらいの声で言いやがった。慌てて俺は彼女の口を押さえて誤魔化した。
「やめてくださいよ。恥ずかしいでしょうがぁ! あと、俺は不登校児ではありません。学校には登校するけど何も言わずに早退するだけですから」
「社会人なら即刻アウトになる人だよね。それは」
「何はともあれ、イチャイチャカップルってウザくないですか? ほらぁー見渡す限り、全員が全員……男女カップルですよ。さっさと死ねばいいのに」
「あぁークラスの手伝いしてないくせにお昼の時間帯にはしっかりと昼ごはんを食べにくる奴がいるー。邪魔だぁーさっさと消えればいいのにーと同じだよね、それは」
「……ごめんなさい。俺が間違ってました」
「いやいやいいんんだよ。キミは謝る必要なんてないよ。だって、キミの取り柄って卑屈な部分だけだから!」
グッチョブと親指を立てられてしまった。満面な笑みだし。
「取り柄が……卑屈になることって。か、悲しい」
「キミが卑屈になればなるほどに、周りの人間が幸せになってるってことでしょ? ある意味キミみたいに羨ましがる人間いるからこそ、リア充って存在がいるのかもね」
「非リア充がいるからこそ、リア充が存在する説ですね。世の中はどこまで……非モテな俺を侮辱すれば気が済むんだぁ!」
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