第2話

「ねぇーお姉さん隣に座っていいかな?」

「と言う前に、もう俺の隣に座ってますよね?」


 何よりも近い。寝そべっている俺にくっつく感じで座ってきやがる。なんだよ、この展開は。


「あははー。最近は足腰が弱くてねー」

「何をおばあちゃんみたいなことを言っているんですか」

「そんなことを言っているキミだって若いくせに、こんな朝っぱらから寝そべっているじゃないか」

「寝そべっているんじゃないですよ。これは日向ぼっこです。俺、スロースターターなんですよ。アスリートだって事前に身体を慣らすために準備体操をするでしょ? それと同じです」

「その割には、全く動かないよね」

「夜行性なんですよ……そう、俺は夜の魔王なんです」

「本気で言ってるなら、女の子は本気でガチ引きするよ」

「その割にはグイグイとお姉さんは俺の方へ来てますけど」

「イタイ高校生をイタブルっての楽しいじゃん。特にそんな人たちの弱みを自分が握ってると思ったら……うん控えめに言って最高」


 クスクスとお姉さんは笑みを漏らした。

 その笑い方はまさしく悪魔のようだ。


「夜の魔王くん」

「俺は夜の魔王ではありません」

「なら、自称夜の魔王くん」

「何も変わってねぇー」

「それなら名前を教えてよ。ほらぁネームプリーズ」

「知らない人に名前を教えるなと家訓にありまして」

「なるほど。キミ、英語が分からないんだな。ふっ」

「ネームプリーズぐらいは流石の俺でも分かりますよ。というか、それぐらい雰囲気でなんとか分かりますって」

「なら、お姉さんも名前を教える。キミも教える。OK? あ、OKって伝わらないかな。あの、それで大丈夫だよね?」

「俺の英語できない設定やめてください。一応勉学はそこそこできますから」

「出た。絶対キミあれでしょ? テスト前に全然勉強してないわーとか言っちゃう系の人間でしょ。実は家でめちゃくちゃ勉強してるくせに」

「あの……俺そもそも友達いないし。誰にも言わないし」

「……なんかごめん。うん、ごめんなさい。余計なこと言っちゃったね」


 頭を下げられて本気で謝られた。これ一番辛い奴だ。


「あのこちらが惨めに思えるだけなのでやめてください」

「そうだよねー。キミが惨めに思えるだけだもんねー。お姉さん的には笑い話にできるもんねー。心配して損した」

「やっぱり、もう一度謝ってください。無神経すぎます」

「大人の華麗なるスルー。というわけで、名前交換は成立? それとも不成立?」

「先にお姉さんが言ってくれるなら、名前教えてもいいですよ」

「ふむふむ。キミは奥手のようだね。個人的にがっつかない男の子は好きだよ。連絡先とか強引に聞き出す人とか大嫌い。大体ブロックしてるけどね」

「今の聞いて……俺、お姉さんに親近感が湧きました。ガッツク男って気持ち悪いですよね。アイツラ、マジで死ねと思います。俺の大好きな、アヤノちゃんの連絡先をもらいやがって」

「そのアヤノちゃんってキミの好きな女の子なのかな?」

「…………っっっっっっ!! そんなわけな——」

「女の子の勘を侮ってもらったら困るなぁー」

「そうです。正確には、好きだったというのが正しいですけど」

「なるほど……振られたんだね。可哀想に」

「振られたわけじゃありません。アヤノちゃんはイケイケな彼氏と付き合って、腐れビッチ野郎に成り下がったんです。あの、入学直後の彼女の清楚さが俺は大好きだったのに。心の中で、俺の将来の嫁にしてやってもいいと思っていたのに」


「キミってさ……うん。絶対に変人だよね。うん」


 お姉さんの声がやけに心に響いた。

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