第10話 驚きの連続1

その日奴隷商に奴隷を買いに来た青年は、わたし達奴隷を全て自由にしてくれました。


それどころか、怪我や病気をしていた者達も回復してくれたのです。


奴隷商の店の外に出て自由になったわたし達に、その青年は優しく話しかけます。


「これから少し移動して頂きますが、どこか行くところがある方はこちらで自由にして頂いて大丈夫です。


どうしますか?」


わたしは少し悩みました。


真っ先にマクベスさんのことが心配になったのです。


『マクベスさんに会いたい。』その一念が心を占めています。


「ミルクさぁん。」


マクベスさんのことを考えて意識を飛ばしていたわたしは、メアリちゃんの不安そうな声で我に帰りました。


そうだ、今はメアリちゃんのことを最優先に考えなきゃ。


メアリちゃんが一番不安なんだから。


そうです、メアリちゃんは奴隷商の店の中しか知らないのです。


生まれた時から奴隷なんですからね。


奴隷から解放されたからと言っても、頼るところも無ければ一般常識もないのですから。


マクベスさんのことは後ろ髪を引かれる思いですが、今はメアリちゃんを優先しなきゃ。


わたしは、メアリちゃんと共に青年に付いて行くことにしました。


ほとんどの人が付いて行くようです。


「メアリちゃん、大丈夫だよ。

わたしがずっと一緒に居てあげるからね。」


メアリちゃんは、わたしの服の裾をギュッと握り締めて、笑顔を見せてくれました。


「じゃあ行きますよ。皆さん馬車に乗って下さいね。」


人数の加減で、わたしとメアリちゃんは同じ馬車には乗れませんでした。


出来れば同じ馬車に乗りたかったのですが、ここで我儘を言って叱られるわけにもいかず、黙って分かれて乗りました。


メアリちゃんの乗った馬車は後ろを走っています。


違うところへ行かないか、不安でしたが杞憂でした。


わたしが馬車を降りて列に並んでいると後ろの馬車からメアリちゃんも降りたようで、わたしのところに走って来ました。


わたしは、メアリちゃんを庇うように身を屈めました。


順番を抜かしたので、叱られるかもと思ったのです。


「気付かなくてゴメンね。

一緒の馬車の方が良かったね。」


あの青年が、詫びるようにわたしに話しかけてくれました。


「いえ、ありがとうございます。


この子は生まれた時から奴隷で、あの店から出たことがないんです。


出来れば一緒に居てあげたいのですが。」


わたしは、思い切って言ってみました。


「それは良い考えですね。是非そうしてあげて下さい。


他の子供達にも配慮の出来るスタッフを付けることにします。


ありがとうございました。」


そう言うと、青年は近くにいる男性のところに走って行きました。


すぐに、メアリちゃんを除く子供達が集められ、数人の女性に連れて行かれました。


わたしはメアリちゃんと一緒に列に並んでいました。


目の前には立派な宿屋があります。


ハーン帝国でも、1件だけこのくらいの宿屋がありましたが、皇帝陛下くらいしか泊まれないようなところでした。


そんな高級宿屋に列が吸い込まれて行きます。


わたし達の番が来て、メアリちゃんのわたしを掴む手に力が入ります。


「大丈夫よ。」


わたしはそう言うと、メアリちゃんの手を引いて中に入って行きました。


中では服が配られていました。

高級品ではありませんが、普通に街中で着られている物です。


下着も配られました。


メアリちゃんが下着を知らなかったので教えてあげます。


次に着いたのは大きな行水場でした。


そこで頭と身体を洗います。


驚いたことに、1人1個石鹸も配られました。


ハーン帝国では、石鹸はこれより品質の悪い物でも、貴族しか使えませんでした。


メアリちゃんは洗い場にいるメイドさんに頭から身体中しっかり洗ってもらっています。


顔はずっと強張っていましたが。


身体を洗い終え、メアリちゃんと一緒に奥に進んだところで、足が止まってしまいました。


そこには温かいお湯がいっぱい入った、大きな浴槽があったのです。


わたしの実家にも、メグ伯爵家にも浴槽はありました。


ただ、1人が入ったらいっぱいになる大きさで、お湯も少しでした。


実家では、お父様が入る時は温かいお湯もわたしが入る頃には冷めてしまっていて、行水と変わらない温度になっていました。


当然量も減っています。


お湯を沸かしたり、水を追加する労力が大変なので3日に1回くらい入るのが普通でした。


それが目の前の浴槽には絶えずお湯が注ぎ足され、温かいお湯で満杯になっているのです。


それにこれだけの人数が入ってもお湯は綺麗なままです。


驚きに呆然としていると、メアリちゃんに不思議がられました。


お風呂を堪能した後は、頂いた服に着替えてメイク室に案内されました。


メアリちゃんは別の部屋に案内されたようです。


わたしは見たことも無いような化粧品を使わせて頂き、メイドさんに教えてもらいながら、化粧をしました。


化粧している間にメイドさんといろいろお話しさせて頂き、事態が分かってきました。


ここはキンコー王国ナーラ領であること、キンコー王国では最近奴隷解放令が出されたこと、わたし達を助けてくれた青年は国の要人で、新しく始める国家事業のために多くの人材を集めていること等です。

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