太陽神ラーの加護のもとに②ラスト
若い娘たちの生き血を、たっぷり吸って宮殿に帰ってきたカカ王に、側近が進言した。
「カカ王さま、今度オ盆なる儀式を我が国でも、カカ王さま主体で執り行いたいのですが……いかがなモノでしょうか?」
「蚊、蚊、蚊、オ盆とはなんだ? 余に詳しく説明してみよ」
側近の説明を聞いたカカ王は、祖先を敬うオ盆の儀式に深い興味を示した。
「祖先の精霊を迎え追善の供養をするのは良いことだ、国をあげて盛大にやろう、迎え火とやらは点火台を作り、四十九日蜜ロウを燃やし続けよう」
「カカ王さまの寛大なお心遣い、感服いたします……なんでもオ盆には、民が一日中募金をしなければならない風習も含まれているそうです。カカ王さまのお姿を描いた、チャリティー服も作って売りましょう」
腰に細い虫の手を添えて笑う、でっかい蚊。
「蚊、蚊、蚊、蚊、側近の話しだとオ盆には【墓参り】という風習も含まれているそうではないか……余の墓は用意されているのか?」
「カカ王さまの生前墓地ですか? それはまだ」
「エジプトの王たる者は、王の威厳を示すために巨大なピラミッドを造らねばならない……幸い余の幼馴染みに墓職人がいるので、彼に依頼して墓を造ってもらおう」
数日後──カカ王は、庶民の墓職人で幼馴染みのところに、依頼したピラミッドの完成具合を見に現れた。
砂漠を見回しながらカカ王が、石板にエジプト文字を彫っている幼馴染みの墓職人に訊ねる。
「蚊、蚊、蚊、余の墓は砂漠の、どの辺りに造られている?」
エジプトの絵文字石板にメジェド神を彫りながら、墓職人が言った。
「そこに、出来上がっているよ」
カカ王が墓職人が指差した場所には、高さ三十センチくらいの石のピラミッドが無造作に転がっていた。
激怒するカカ王。
「余を愚弄するか! なんだこの小さいピラミッドは!」
「あぁ、いくら幼馴染みでも、あれっぽっちの報酬と短期間で、でっかいピラミッドなんて造れるワケないだろう……元々、このカカ国は貧しい国なんだからな予算がないんだ」
「しかし、こんな小さい墓では後世の笑い者に」
墓標を彫る手を止めて、怒鳴る墓職人。
「文句があるなら、自分で石彫って作れ! カカ!」
墓職人とカカ王の言い争いは続く。
「おまえなんてな、夏のアスファルトの上で干からびたミミズみたいに、灼熱の砂漠に数時間放置すれば、でっかい蚊の乾燥ミイラの出来上がりだ! そのまま、砂の中に埋めてオレが作ったピラミッドを目印にデーンと上に乗せてやるよ」
「おのれぇ、幼馴染みと言えども。そこまで王を愚弄するか! 血ィ吸うたろか!」
せせら笑いながら、墓職人はたくましい腕をカカ王の方に突き出す。
「血ィ吸いたいなら吸ってみろ。ほれほれ、針刺したら筋肉ギュッと締めて、抜けないようにして町の中を引き廻して笑い者にしてやるから」
「ぐっ……蚊、蚊、蚊」
言い返せないカカ王は、両腕を水平に広げると「ぷ~~ん」と言いながら宮殿の方向に去っていった。
なんだかんだで、カカ国初のオ盆の日がやって来た。
蜜ロウのロウソクに火が灯され、エジプトで採れた新鮮な野菜で作った。
ワニやカバやジャッカルの姿に似せた供え物が先祖供養で祭壇に置かれると。カカ王の先祖霊が現れた。
ぷ~~~~んと、耳ざわりな羽音を出して、飛び回っている蚊の霊を見て神官が呟く。
「現れたの、そっちの先祖かよ」
カカ王が見ている前で、先祖の蚊霊は次々と地面に落ちて消え去った。
オ盆で灯された線香は、どこでどう間違ったのか……グルグルの渦巻き形をしていた。
それを見てカカ王は絶叫した。
「日本の夏は、キンチョー! 蚊、蚊、蚊」
同時に、和の打ち上げ花火がドドーンとエジプトの夜空に、大輪の花を咲かせた。
太陽神ラーの加護のもとに~おわり~
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