第170話:リムの実家へ

 そうして2人は日本フェアの、どら焼き店に行った。店の近くに来るとプリシラに道案内をしたり親切にしてくれた職人男性が見えた。プリシラが彼を改めて見ると、金髪と白髪が綺麗に混じった濃いあごひげを生やし、顔の筋肉を緩ませ、優しい目に丸メガネを鼻の上にかけていた。彼はまだ忙しそうに接客していた。プリシラは少し遠目から彼を指さしてリムに話した。

「リムお兄ちゃん、あの職人さんよ。私に親切にしてくれたの。あの人に案内所までの道を教えてもらったからリムお兄ちゃんと会えたのよ。でも、人気なのかな?ケースの中、さっき見た時より減ってる!早く買わなきゃ!」

プリシラはリムの手を引っ張って走って行こうとした。

「ちょ!シーラ待てって!」

「だってえ、早く!」


――どら焼き店――

「おじさん!」

プリシラはリムと手を繋いで店に近づき、職人男性の接客が一段落するまで少し待ってから笑顔で彼に声をかけた。すると、彼はプリシラに気づいて丸メガネの中から、プリシラとリムを上から下まで見た。

「あれ、さっきの女の子じゃないか。彼氏と出会えたのか?いやあ、良かったねえ。彼はとても……優男やさおとこじゃないか」

「そうですか?」

プリシラは照れて頬を赤らめ、

「彼と再会出来たのは、おじさんのおかげです!」と明るく元気にお礼を言った。

「いやいや」

職人男性は手を振って謙遜した。

「アナウンスも無いし、キミが戻ってくるのかも分からないから心配していたよ。それで、わざわざ来てくれたのかい?」

職人はとても嬉しそうな顔をプリシラとリムに見せた。

「ええ、親切にして下さったし、彼とも再会出来たし、それに、ここのお菓子美味しくて本当に買って行こうと思いまして。心配までして下さってありがとうございます」

プリシラは嬉しそうな顔の職人にお礼を言った。リムも職人に

「彼女がお世話になり、ありがとうございます。僕も、このお店のお菓子を試食させて頂いて、お土産を買いたいと思いました」と、軽く頭を下げて職人に笑顔を向けた。

「2人とも気を使わなくていいけど、そう言ってもらえると嬉しいねえ。あと1箱しかないものもあるから見て行って下さい」

「はい!」

プリシラは元気に返事をして、店の中へリムと一緒に入った。さっきは試食したから、多分、リムと離れてしまったが、職人が全種類の小さな試食を持ってきてくれて、2人は離れずに土産を選ぶことが出来た。

 リムの家と、ロック達の家にも、それぞれアソート1箱と、リムの亡くなった父親のお供え用にシンプルな小箱と、ロックの亡くなった姉マイムにも小さな菓子箱を買った。この店を出た後で、ロック達のために、他の店で花の酒を買った。

「お買い上げありがとぅね。おじょうちゃん。可愛いんだから、もう迷子になっちゃダメだよ?格好いい彼氏と離れずにな」

どら焼き店の職人は去ろうとするプリシラに優しく声をかけた。プリシラは照れて頷き、リムと地上に出ようとした。

 しかし、職人は売る物と客が少なくなったのか、話したいのか、まだプリシラに話しかけた。

「でもねえ、おじさんの妻も実はキミみたいなんだよ。だから、キミのことも彼の気持ちもわかる気がするよ」

「そうなんですか?」

プリシラはどういうことかと気になった。

「ああ。こんな店が入りくんでいる所に来ると必ずと言っていいほど病気のように迷ってはぐれてしまって、私が探すはめになる。でも、私は、そんな妻が愛おしくてね。怒る気になれないんだよ。キミのその彼氏は優しいかい?」

プリシラはリムを一見して笑みを見せ、

「はい、とても……!」と即答した。プリシラが再度リムの顔を見ると、リムは嬉しそうだった。しかし、少し気になることがあって、リムは職人に尋ねた。

「あのう、失礼かもしれませんが、奥さんは、今どこで何をしておられるんですか?ここに見えませんが……」

「あ、ああ、あそこ……ありゃ?またいなくなったよ」

職人は店の中を見渡して苦笑した。

「ここで一緒に働いてるんだけど、たまに用があるのか無いのか、私に声もかけずに、どこかに行ってしまう……。でも、すぐ戻ってくるだろ。多分、手洗いかな?」

職人は安心してニコニコと笑った。

そんな職人にリムはまた

「ご心配じゃないんですか?」と、仕事中に悪いと思いつつも聞いた。

「もう、彼女を心配しても仕方ないからね。それに今まで戻ってこなかったことは一度も無いから、妻を信じてるよ。キミはまだ若いから心配なのかな?心配だろうけど心配すると神経すり減るからね。心配しない方がいいよ。でも、おじょうちゃんも、あまり彼を心配させないようにな」

「はいっ」

プリシラは明るく返事をした。

リムも

「お仕事中に、お話ありがとうございます」と職人に礼を言った。


 プリシラとリムは土産物街から地上に出て、タクシーに乗って、駅から車で約20分のリムの実家へ向かった。プリシラはスマホをしっかり充電し、リムの家へのお土産を太ももの上にしっかりと置いて両手で抱くように持った。リムもロック達への土産物を片手で抱くように持ったまま、もう片方の腕はプリシラの腰に回した。

「ねえ?私、こっちのリムの実家には初めて行くのよ」

「あれ?そうだっけ?1年前、父さんが亡くなった時は?」

「あの時もスケート大会の前か後か、テスト頃で、リムパパ急だったし、お葬式だけ出て直ぐ帰ったから、こっちの家に行くのは初めてなのよ」

「そうだっけな?」

「うん。だって中とか外の様子とか全然分からないもん」

「緊張する?」

「うーん、昔はブレジアでは私達の家は隣同士で、よくお互いの家で遊んだり、お泊りさせてもらったけど、悪いけどあの……」

プリシラが申し訳なさそうに言いかけるとリムは言った。

「今は明るく楽しい父さんがいないし、ケビィも卒業旅行でいないようだし、シーラからしたら、あの強気な母さんとはやりづらい?」

「うん、ちょっと……」

プリシラは体を小さくした。

「自由にすればいいんだよ。小さい時みたいに。それに母さんも前より丸くなったようだよ」

「リムお兄ちゃんは実家だから気楽なのよぉ」

「そんなことないって。心配しなくていいよ。母さんはシーラのこと、昔のように娘のように喜んで迎えてくれるさ。娘も欲しかったからね。昔はお前のことすごく可愛がってたの覚えてない?」

「あんまり……」

「でも大丈夫だよ」














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