第8話

 関係がひび割れる音。


 聞こえた。


 音をたてて。


 いま。彼の中の、なにかが。こわれた。


「あ。待って」


 彼。


 無言で立ち上がる。


「待ってください」


 しまった。


 彼の機嫌をそこねてしまった。何だ。どの言葉が、彼のNGワードだったんだ。


「あの」


 彼。


 喋らず。こちらに背を向けて、歩き出す。


 だめだった。喋らなければ。それが嘘かどうかも。分からない。


 喋ることなく。彼は去っていって。


「ごめんなさい」


 わたしの謝罪だけが。ちいさく。ソファのやわらかさ以下の弾力で消えていった。

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