ポテトチップスを一欠片つまみ、口に放り込む。行儀が悪いと思いつつも、指についた塩を舐めながら周りの様子を伺った。

 いくつか並べた机の上にそれぞれが買ってきたお菓子が乱雑に置かれ、思い思いに手を伸ばしている。

 文化祭の打ち上げということで特別に容認された教室でのお菓子パーティーは、皆のテンションを上へと振り切れさせているようだ。混ざらないようにと名前を書いておいた紙コップへ炭酸を注いでちびちびと唇を湿らす。

 黒板へは皆が好き勝手に落書きをし、もはや文化祭とは関係の無いことまで書き込まれている。誰だ、クラス1の美人とクラス1の美男の名前で相合傘を書いたやつは。どうせお調子者の癖にいつも後悔するアイツだろう。幼馴染のよしみという事で、こっそり消しておいてやる。

 隅の方で散らかった教室をぼんやり眺めていると、いつの間にか合コンのようなゲームが始まっていた。ここにアルコールの類は一切持ち込まれていないはずなのに、先生が残りの仕事を片付けるからと教室からいなくなったとたん馬鹿みたいに羽目を外している。

 騒がしいのがあまり得意ではない僕は、お菓子を確保して更に隅の方に寄り、できる限り気配を消していた。こういうのは巻き込まれると面倒臭いのだから、隅で無関係を装うのが吉である。

 しかし何処にでもお節介焼きはいるもので、ニコニコとくじを持ってきて引かせてくる。完全に王様ゲームだ。7番と書かれた割り箸を握りながら、これだけ人数がいればそう当たることもないだろうと考えた。

 全員がくじを引き終わったようで王様が名乗り出る。例のお調子者だ。チラリとこちらを見ながら、にたにたと気持ちの悪い笑い方をする。嫌な予感しかしない。そいつは、席が離れているはずなのにピンポイントで僕の番号を当てて炭酸の一気を命令した。なんで僕の番号がわかったんだと困惑していると、周りの奴らが新しい紙コップになみなみと炭酸を注いで目の前に持ってきた。

 僕が炭酸飲料の味は好きだが炭酸自体はあまり得意では無いということを分かっている筈なのに、この命令を出したあいつを恨みがましい目で睨みつける。しかしいくら睨んでいたってこの一気コールは飲み干すまで止まらないだろう。

 覚悟を決めて一つ息を吐いた。

 えぇいままよ、という気持ちで勢いよくコールに合わせて炭酸を飲んでいく。あと二口か三口程という所で、油断してしまったのか思い切り噎せてしまった。ゲホゲホと咳き込みながら飲みきれなかった炭酸をこぼす僕を見て、皆が手を叩きながら笑っている。しかし、直ぐに興味をなくしたようで、また次のくじを引き始めていた。

 ようやく咳き込みが止まって、こぼした跡を拭こうと服を見ると、カッターシャツに薄紫の染みがついてしまっていた。ティッシュで拭うが落ちそうにない。

 最悪だ、もう帰ろう。

 これ以上ここにいても無駄だと判断し、隣に座っていた大人しそうな女子に、何か聞かれたら帰ったとだけ伝えてくれと頼みそっと教室を抜け出した。

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