戦場の徒花(6)
オンデマンドのニュースショーは続いている。
『現場のエレンシア・テミトリーです』
プラチナブロンドを揺らして自慢げな笑みを湛えた女性記者の姿。
『はい、エレンシア。現場の様子はどう?』
『はい、アイリーン。戦況としては膠着状態。ここ数日は小規模な衝突もないみたい』
『そんな中であの映像を捉えたの?』
女性キャスター、アイリーン・ネガとエレンシアの知り合いらしい気安い会話が繰り広げられる。それだけに生々しさが助長されていた。演出手法だろう。
『ええ、びっくりしたわ。何でもいいからホールデン博士にコメントをいただこうと探していたら、偶然こんな場面に出くわしてしまったの』
もっともらしい理由がくわえられる。
『で、何事かと待っていたら密会の現場だったわけね』
『取材の本旨とはズレてしまうのだけれど、こんな素敵な出会いが戦場で行われているのなら視聴者の皆様には伝えないといけないと思って』
『それは当然よ。あなたは正しいわ』
(妙な正当性を主張するあたりはニュースショーらしいね)
エンリコは眉をひそめる。が、彼とて他人事なら興味津々で観ていたことだろう。
ここで女性キャスターから改めてデードリッテについて簡単な説明がくわえられる。生物考古学、薬学、機械工学の三つの全く異なる分野において博士号を有していること。著名な発明品など、その功績がおざなりに讃えられた。
『次にお相手の男性についてですが、本日は元星間軍将校で軍事にお詳しいスティーブ・レルゲンさんと、モデルでエッセイストでもあるイーネ・サーゼンさんにお越しいただいています。よろしくお願いします』
画角が広がり、壮年の男と髪をピンクに染めた若い女性が会釈している。
『レルゲンさん、この男性の軍団長補という階級はどういったものなのでしょう?』
『当然ではありますが、星間軍と星間平和維持軍は共通の階級制度です。各国も習う姿勢がありますので、知っている方は知っていると前置いておきます』
『なるほど』
ひけらかすほどの知識ではないと言いたいようだ。
『オフィサー過程を済ませた将校はまず「旅団長補」という階級を与えられます。これが現場指揮官見習いといった感じですね』
『旅団の指揮官補という立場ですか。意外と解りやすいですね』
『ええ。で、見習い期間を終えて指揮官として活動できると認められると旅団長になるわけです』
メインの投影パネルで「旅団長補」の文字が下にスライドし「旅団長」に変わる。
『実際の役職としてはこの階級で一隻の艦長がほとんどです。旅団長補で副艦長として学びますから』
地上軍では異なるが星間軍がほとんど地上兵力を持たないからと補足する。
『次は「師団長補」です。だいたい五隻から六隻ほどの小規模艦隊の司令官の補佐という階級。副長に当たります。自然、「師団長」は艦隊司令官となりますね』
『かなり上がってきましたがまだ上なんですね』
『はい、このあたりになると人数も限られてきます』
アイリーンは驚きの表情。
『お待たせしました。今度が彼の「軍団長補」という階級。もう見習い過程などありません。百隻以下の艦隊司令官という立場です。GPFが通常百隻以下で活動することを考えると現場に出る最高階級といって差し支えないでしょう』
『そうなんですか?』
『はい、百隻以上での活動となると
アイリーンがメインパネルを用いてGFとGPFの活動内容の違いを説明する。
『つまり、この方はGPFの現場指揮官としては高位に当たる方なのですね、レルゲンさん?』
再び話題を振る。
『はい、GPFでは百隻以下でももう一段上の「軍団長」が司令官になるケースも散見されるので最高位とはいきません。が、その上の「軍帥補」や「軍帥」が管区司令部長官などを務めることを考えれば現場での権限は大きなほうだと思われますね』
『実はこの将校Sさんはまだ二十六歳だという情報です』
『その若さで軍団長補は極めて稀でしょう。相当優秀だと思って構いません。いずれはGFへ転属となり、行く末は星間軍司令本部の幹部候補というところですね。エリート中のエリートと言えます』
(そういうあんたは
そうでなければ退官を選びたくなるような階級ではない。
解説に礼を言ったアイリーンは視線を巡らせる。そこには美貌のモデルがいた。
『では、イーネさん。この青年将校は女性として魅力的な方でしょうか?』
思わせぶりな質問を投げかける。
『もちろんですよー。番組始まる前に修正入ってない映像見せてもらったんですけどぉ、ちょー美形。なのにエリートコース乗ってて将来有望なんて言ったら、これ以上の優良物件いないんじゃないかなぁ?』
『うらやましそうですね?』
『だって、そうじゃないですかぁ? わたしだったら絶対に狙っちゃう』
蠱惑的な表情を見せる。
『欠点らしい欠点も見当たらないんですよ?』
『
『でしょぉ?』
ひと通り女性同士らしい意見交換が行われる。女性視聴者の意識を誘導するかのごとく。
(やれやれ、まるでディディーちゃんが司令官殿に誘惑されて落とされたとでも言いたいような口振りじゃん)
論調に偏向的な部分を感じる。
『じゃあ、エレンシア。これからも二人を
『ええ、そのつもり』
『続報、よろしくね』
女性記者は『少し気掛かりだけど』と言葉を続けた。
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