闘神の牙(10)
「きゃ!」
勝負あったと思ったが、次の瞬間には二機は分かれて円弧を描きあう。ビームランチャーも
(今の避けたの?)
思考スイッチで望遠映像がスロー再生に切り替わった。
脇腹にランチャーを突きつけられたブレアリウスは
「お互いにほんとぎりぎりの勝負になってる」
動悸が激しい。
「見ごたえのある勝負ですね」
「博士の慧眼には感服いたしますな。GPFザザ方面軍全体でもロレフと五分にやれる者などまず居ません」
「そんな。慧眼だなんて」
サムエルに続き、副司令のウィーブまで褒めそやしてくる。
(寂しそうな瞳に惹かれたなんて言えない)
風貌に似合わないナイーブさと優しさ。私欲を全く感じさせずに彼女を思いやる心がこの人狼の本質だと思っている。ギャップがデードリッテを惹きつけてやまない。
(正々堂々と手に入れて。あの闘神の牙を)
祈りを送りつづける。
◇ ◇ ◇
(ユーティリティプレイヤーだ。剣技への執着はない)
ブレアリウスにとっては余計に厄介。
砲術戦か剣術戦かどちらかに偏りが見られるのなら対処の方針は立てやすい。一時は剣術戦で実力を誇示しようとしているかに思えたが実際には違った。
(両者を融合させて自分のスタイルを確立しつつある。それができる器用さがあるからこそのトップエースということか)
新しいものも遅れず取り入れ、自分のものにしていく。常にアップデートして頂点に君臨している猛者だと分かった。
「あれで決まらないか。厳しいね」
「俺の覚悟も安くはない」
挨拶のような牽制射撃を交えてから間合いを縮めていく。それだけでも互いのビームコートをガスに変えていくような際どい一撃。さらにモーションも見せない刺突が重ねられる。
ブレアリウスは刃を合わせながら本気度を測る。フィードバックの強さと弾ける紫電の量で相手と会話をする。プロフェッショナルの領域。
(だがな、付け焼刃とは言わんがそこまで練れてもいない。深みを見せる)
幼きアゼルナンは薄暗い地下室で仮想敵を相手に剣の
数合の会話の中に僅かな変化を読みとる。少しだけ手応えが強まったのに合わせて瞬時に手首を返した。
速度と強さを増した本命の突きは上へと流され、彼の刃はロレフの剣身分だけ紫電をまき散らしながら迫っていく。ひるがえったブレードが胴体へと吸い込まれる。が、そこで止まった。
「背筋が凍るよ」
躱し切れないと判断したトップエースはリフレクタの縁で受け止めている。ブレアリウスの一閃は横腹に触れるだけに終わっていた。
「まだだ」
ペダルを踏みこんで、ロレフが正面に掲げている光盾ごと肘で押す。その状態では攻撃できない。逆に彼はなんとでもできる。
立て直す前に斜め下へと切っ先を巡らせる。相手がリフレクタを解除して刺突のカウンターを狙ってくる前に斬撃を放った。
「くっ!」
腰辺りから上がってくる斬撃を受けるもままならずロレフはパルスジェットで後退する。それだけでは足りずに上体を逸らして剣閃を躱す。
(やり過ごしたと思っただろう?)
反撃の挙動が視界の隅に見える。しかし彼は振り抜いていなかった一閃を途中で止めていた。一瞬だけグリップから手を放すと逆手に持ち替える。そのまま再び斜めに斬りさげた。
「なぁっ!」
堪らずの悲鳴が聞こえた。
(浅かったか)
コンソールは映像解析からロレフ機の胸部装甲に損傷が発生したのを表示している。無論、仮想的なダメージ。彼のコンソールにも同等のダメージ判定が下っているはず。
「なんてえげつない攻撃をするんだ!」
「勝てるなら詐術もやる。勝てなかったのだから意味はない」
「僕の精神にまでダメージが蓄積するんだが」
知ったことではない。剣技で削りあうのはそういうことだと思っている。
「終わっていないぞ」
「勘弁してくれ。実戦のほうがまだ気楽かもしれない」
間合いが開く。ロレフが及び腰になったのを示している。もう、まともに斬り結んだりはしないかもしれない。
(それも計算のうち)
三連射が来る。彼はまだ間合いを欲しているのだ。応える義理はない。リフレクタを押したてて突き進む。
大きなモーションから袈裟に落とす。振り上げたブレードで何とか受け止めてきた。
(ここが狙い目のはずだ)
すでに砲口はブレアリウス機の胸の中央を指向している。彼も左手のビームランチャーを持ち上げつつ、発射されたビームをリフレクタで斜めに弾く。流れで筒先はロレフ機を捉えていた。
読んでいた相手はもうシュトロンを横へと逃がしている。が、リフレクタを解除すると同時にランチャーからも手を放した彼は、腕の内側からアームで伸びてきたブレードグリップを握り、流れたロレフ機に刺突を送りこむ。
「やめやめ! 中止!」
ユーリンの声で突きをとめた。
「
「勝負はここまでのようだ」
「うーん……、救われたと思うべきなんだけどさ」
ロレフの不満げな声がブレアリウスの耳に流れこんできた。
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