第23話 【申請書.txt】

名称=「テキスタイル研究会」

顧問=      教諭

人員= 野沢秀(申請者本人)

設立理由=日常生活で繊維を目にしない日はない。にもかかわらず我々は繊維のことにあまりにも無関心だ。我々にとって最も身近な衣類である学生服でもその傾向は顕著であるといえるだろう。たとえば男子のほとんどは学生服を「乱雑に扱える丈夫な衣類」という認識であり、女子もそのデザイン性ばかりに注目する。筆者の実生活を見渡しても残念ながら学生服に対する理解はこの程度に留まっている。しかしながら、筆者は異を唱えたい。実は学生服は様々な特性を持つ素材を絶妙な割合で組み合わせた一種の芸術作品なのである。

 テキスタイル研究会(以下、テ研)は学生服を通して、普段主役になれない繊維という影のスターにスポットライトを当てることをミッションとする。

 なお、テ研は既知の部及び同好会と比して、極めて少ない人数で活動するため活動費も低額に抑制でき学校の財政を圧迫させることはないこと、同一の理由で顧問の負担も最小限である点をあらかじめ述べておく。そして、倫理面において公序良俗に悖るものではないことを保証し、学校の評判にネガティブに影響することもなく、先行する部活及び同好会がないため重複のないことも調査済みである。

 最後に、部及び同好会の新規設立については2019年度より新規の承認が滞っておりこれは当校が謳う個性の伸長を阻害するものにほかならない。新しい風を吹かせるためにもぜひ柔軟な判断のもと、テ研の設立をご一考いただきたい。


活動目的=

・繊維を啓蒙する……毎日の洗濯や季節ごとの服装選び等、繊維の違いを知ることは暮らしを豊かにする。現時点で想像が及ばない高校生であっても大多数はいずれ一人暮らしをするようになり、その際に家政学的知識を有することは自立した生活やその質の向上に繋がると考えている。ゆえに家庭科教育は性別に関係なくなされるべきものであるといえる。テ研では繊維、素材、衣類に関する基礎的かつ実用的知識を様々な媒体を用いて伝播する。具体的な方法は後述の活動内容の項を参照されたい。

・環境問題を理解する……合成繊維は生活に欠かせない。しかし、その繊維が環境に負荷を与えていることはあまり知られていない。マイクロプラスチック問題である。筆者の立場は、合成繊維がもたらす利益はそのままに、環境負荷を減らすというところにある。衣類を長持ちさせたり、リユースの可能性など学生が取り組めることを議論する。さらに議論だけで満足することなく行動に移すことを目的とする。

・未来を見据えて……私事ではあるが、かつて筆者は家業が繊維を扱っていることにあまりいい感情を持っていなかった。目を引くのはいつもアパレル業界で、その主体にもかかわらず繊維業界は地味という印象をぬぐえなかった。個人的な印象としていうならば、華やかな芸能界や成長するIT業界に比べ社会の表面に出にくい分野だったと思う。しかしそれは自分の視野が狭いだけだった。理解を深めるにつれ、繊維というものは様々な業界で必要不可欠な存在であることに気づく。繊維の可能性はファッションだけにとどまらず、医療や建設、スポーツまであらゆる分野で社会に編み込まれていたのだ。私は繊維に未来を見た。繊維は地味な存在ではなく、衣食住の柱の一つを担う繊維こそクリエイティブでイノベーションをもたらすと確信した。

 父はいつもいっていた。「常識にとらわれるな。常識は揺るがないものじゃない、誰かが作った脆い創造物だ。お前の常識が、世界で、海底で、宇宙で、量子で、なぜ通用すると思う?」。家族経営でめったに家に帰ってこなかった父が私にいっていた印象的な言葉だ。その父はもういない。

 私は繊維の舞台を広げたい。家具や文房具が着る服があってもいいし、全く新しい素材も魅力的だ。繊維の中にストーリーを織り込む。縁の下の力持ちを縁の下から引き出す。繊維に注目させることで、多くの人々の興味関心を巻き込み、優秀な人材が業界に送り込まれ、変化し、それがまた興味関心を引きつける。そのサイクルを回し持続的な発展を支えることが筆者の理想である。それこそ親孝行のできなかった筆者にできる唯一の親孝行だと思う。


活動内容=以下、普段身につける学生服から徐々に繊維や素材に関する興味を向けさせる。学生服を選定したのは生活環境によらず一律なためである。諸般の事情でソックスウェアに関しての知識の蓄積があるので活動初期はそれに焦点を絞っていく。

・繊維の扱い方を広告する。内容は保管や洗濯、素材ごとの特性などを想定。方法は掲示物、ビラ、学内メールを想定している。

・個人レベルでも衣類で困っていることを学内メールで聴取し、それに対してアドバイスを与える。必要であれば、どうすれば適切な繊維に出会えるか等、一種のマッチングを行う。衣類の状況を知るために場合によっては撮影を行う。

・既存の繊維の新しい使い方にかかるアイディアを募集し、企業の公募に挑戦する。

・繊維業界に就職した当校卒業生、地元企業へのインタビュー。

・他の同好会とのコラボ企画。例:お掃除好きクラブ×テキスタイル研究会=?

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