第4話 強敵が現れました

気配遮断結界を覚えた俺は、やっと安心して眠りにつけることになった。

結構危機察知能力も便利で、竹やぶの中で寝転ぶ時にも下のデコボコをうまく回避させてくれたのだ。


ただ寝返りの時も危機察知が働くので、夜中に何度か起こされたのは残念だったが。


異世界3日目、鳥のさえずりで目覚めた俺は、朝食を探しに出かける。


川に行けば魚は獲れる。


があの腹痛を思うと二の足を踏んでしまう。


能力を手に入れられるのは良いのだが、それ以上にリスクが大きかった。


竹やぶを抜けたところで山菜が生えている草原に出た。


日本でもどの草が山菜か判別がつかない俺にとって、この世界の山菜を探そうとしたことが間違いだった。


草なんて何を食べても大丈夫だろうと少しでも思った自分を叱りたい。



「ピロリン、運ポイント1上昇しました。」「ピロリン、運ポイント1上昇しました。」「ピロリン、運ポイント1上昇しました。」「ピロリン、運ポイント1上昇しました。」「ピロリン、運ポイント1上昇しました。」「ピロリン、運ポイント1上昇しました。」「ピロリン、運ポイント1上昇しました。」「ピロリン、運ポイント1上昇しました。」.........


「ピロリン、運ポイント1上昇しました。鑑定で食べられるものが分かるようになりました。」




やっぱり、運ポイントを大量ゲットできた。


次の日1日動けなかったが、今回は鑑定能力を得ることができた。


「鑑定!」


一部の草が白く明るく光っている。


昨日苦くて食べなかったものがほとんどだ。逆に紫色に光っているものもある。


あっ、昨日食べた草はほとんどが紫色だった。


俺の頭にある言葉がよぎる。「良薬は口に苦し」




草原には草以外にも白く光っているものがあった。


虫だ。日本でもおなじみのバッタやカエルも白い。カエルの中には紫のものもいるが、大体は白みたいだ。


カエルは鶏肉みたいな味だっておじいちゃんが言ってたような。


とりあえず、高速思考を使ってサクッと捕獲。


でも火が無い。刃物も無い。


さすがに火を通さずにカエルやバッタを食べるのは無理。


近くに生えていた大きな蓮の葉っぱみたいなものに捕まえた獲物を包んで持っておく。



「ピロリン、鑑定スキルが更新されました。食べ物以外も鑑定できるようになりました。」


おっと、何でもかんでも手あたり次第鑑定していたら、鑑定能力がバージョンアップしたみたい。


少し歩くと河原に出る。石がゴロゴロしているところで鑑定してみる。


石の裏にいる小さな虫が光るが、それ以外にもいくつかの石が赤く光っている。


赤?もしかして何か役に立つ?


石と言えば火打石か。


とりあえず石同士を叩き擦ってみた。


「カチッ」何も起こらない。


別の組み合わせを探る。


「カチッ、カチッ、駄目。カチッ、カチッ、カチッ、駄目。カチッ、カチッ、駄目。カチッ、カチッ、カチッ、駄目。カチッ、カチッ、カチッ、駄目。カチッ、カチッ、カチッ、駄目。カチッ、カチッ、駄目。カチッ、カチッ、駄目。駄目。駄目。駄目。駄目。駄目。...」


「ピロリン、火魔法初級が使えるようになりました。」


必死に火を起こそうとしたのが良かったのか?


とりあえず火が起こせるようになったので、枯れ枝を集めてさっき捕まえたカエルやバッタを焼いてみた。



ん?そういや魔法は無いって言ってなかったっけ?


「ピロリン、その通りです。本当は神通力なんですが、あなたの頭に合わせて魔法と自動変換しています。

本来の呼び方、火遁初心的如来...「いえ、火魔法初級で。」...。承知いたしました。今後魔法という表現で統一させていただきます。」


なんだかわからないけど、この脳内アシスタントさん優秀みたい。


あんな長い難しい呼び方じゃ、覚えられないや。





美味かった。


久しぶりに腹を壊さない食事となった。


腹一杯になると、眠くなるのが正常な人間の習性。


不安や腹痛で眠れなかった数日が嘘のように深い眠りについた。



目を覚ますと、そこは白い霧の中。


あれっ、俺って草原で寝なかったっけ。


「やっと起きたかい。君はほんとに危機感が無いねー。


こんなバイオレンスな世界なんだから、あんなところで不用心に寝ていたら、簡単に死んじゃうよー。


今回の君の死亡原因は、吸血蚊だよー。


あの辺りは夜になると吸血蚊が大量発生するんだよー。」



やっぱり死んじゃったんだ。


「すみませんでした。 またご迷惑をお掛けして。」


「まあ、まだこの世界に来て数日なんで大丈夫だよー。でも100年の期限はリセットされるからねー。

慎重に生きるようにした方がいいと思うんだよー。」


「....はい。(ショボーン)」



「じゃあ、元の場所に戻すよ。気を付けてねー。」




「ふー。戻ってきたんだな。」


日は既に昇っていて吸血蚊も既に姿を消していた。



「さて今晩はどうしようか?」


その日の夕刻、俺はまだ草原にいた。


昨日はここで寝ていて吸血蚊に襲われて死んでしまった。


今日もここで寝てしまったら、同じ目にあうだろう。夜までここにいるのは、あまつさえ、ここで寝てしまうなんてなんとしても避けなければ。


しかし、俺には金がない。当然他に行く当てもない。


結局ここにいるしかないわけで。


「蚊程度に殺されるようじゃ、この世界で100年も生きるのは不可能か!


ここは気合を入れて、吸血蚊を討伐してやる。」


俺は吸血蚊に勝つための方法を考える。


まず、蚊に勝つ方法だが、蚊と言えばやはり除虫菊の成分を燃やすアレだな。


除虫菊なんてこの世界にあるのか? んんっ、あるじゃないか!


草むらを何気に鑑定したところ、除虫菊が大量にあることが分かった。


「まずは除虫菊を刈り取って集めるっと。


次に辺りの草むらを焼き払い広い空間を確保してっと。


それから今刈り取った草に火をつけてその上に除虫菊を置く。」


刈り取ったばかりの草は水分が多い。だから火をつけてもなかなか燃えない。


しばらくすると乾き出した下の方から火が付き、大量の煙がでる。


その上に除虫菊を乗せることで除虫菊を適度に乾燥させ火を着き易くするのだ。


「よし、とりあえずこれで準備は完了だ。」




夜になると俺は、焼き払って草の無くなったサークルの中心に立っている。

もちろん目の前には積み上げられた除虫菊。丁度いい塩梅に乾いている。


やがてどこからともなく ぶーん という音が聞こえてきた。


1匹、2匹 いや数えきれない大軍だ。


やがて草むらから吸血蚊の姿が見えた。


「でけー!」


体長が20センチ近くある。


あんなの数匹に襲われただけで失血死してしまうぞ。


俺は吸血蚊が俺の周りに集まってくるのを恐怖と戦いながらひたすら待つ。


やがて、ほぼ全ての吸血蚊が草の無いサークル内に入った瞬間、俺は自身の気配を消した。


目的を見失った吸血蚊達はその場で俺を探している。


俺はサークルの周りの草むらに火魔法で火を着けた。


サークルの周りには、除虫菊をいぶすために使用した大量の乾いた草を撒いておいたのだ。


乾いた草はその場の強風と相まって瞬く間にサークルを取り巻く。


火と煙にパニックになった吸血蚊はお互いにぶつかり合い、火に焼かれるものも多くいた。


徐々に中心部、そう除虫菊の上に集まった吸血蚊達。


「よし、いまだ。」


俺は除虫菊に火魔法を放つ。


除虫菊は勢いよく燃え出し、瞬く間にサークル中をその煙で埋め尽くし吸血蚊に襲い掛かったのだった。

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