第92話 騎士団長の息子は卒業パーティーに出る
「エクス、ミスティ嬢卒業おめでとう」
卒業式が終わってから、卒業パーティーにアリスと一緒に出席するとそんなことを言いながらリンスが近づいてきた。
「お疲れ様、リンス」
「ありがとうございます、リンス殿下」
「まあ、卒業式なんて君たちからしたら些細なことかな。何しろ明日が君たちの本番なんだから」
まあ、ある意味正しいが少しだけ訂正したかったので言った。
「学生として、婚約者としての最後の日だ。些細じゃないさ」
「君らしいね。明日はシンシアと一緒に結婚式行くよ。シンシアも君たちの結婚式を楽しみにしてるからね」
「それは何よりだ」
「ミスティ嬢にも会いたがっていたよ」
「はい、私も是非シンシアさんとお話したいです」
そう微笑むアリス。そこそこあの王女様と仲良くなったようで何よりだ。
「そういえば、明日からはミスティ嬢とは呼べなくなるね。ロスト子爵夫人と呼ぶべきかな?」
「ロスト子爵夫人……」
その響きにアリスは嬉しそうに微笑む。そうか、明日からアリスは俺の妻になるのだ。爵位も下手したらかなり早く継ぐことになりそうだしその名前も間違いではないだろうが……
「やっぱり、お前はよくわかってるな」
「そうかな?君の独占欲からして名前で呼ぶのはまずあり得ないし妥当なところかと思ったんだけど?」
確かにリンスがアリスのことを名前で呼んだら嫉妬で何をするかわからないしな。いや、それくらいは許せと思うかもしれないけど、例え親友でも譲れないものは譲れないのだ。
「そういえば、シンシア様は……」
「用事があってね。僕らも結婚式が近いからね」
「そうですか……少し残念です」
卒業パーティーは基本的には卒業生オンリーだが、パートナーとして異性の同伴者を連れてくることは認められている。残念ながら今日はあの王女様は来れないそうで少しだけ残念そうなアリスを見てリンスは言った。
「明日の結婚式には来れるから大丈夫だと思うよ。シンシアもミスティ嬢に会いたがっていたしね。そういえば、エクスは結婚式の翌日には騎士団の副団長になるんだよね」
「名前だけ先にな。実際に副団長になるのは新婚旅行が終わってからになる」
「そっか、僕も結婚式の後で近いうちに戴冠式あるから緊張するよ」
全然そうは見えないが?むしろいつも通りのイケメンスマイルなんだが?
「ま、それでも君のような心強い存在がいるからいいけどね」
「煽てても何も出ないぞ」
「本心だよ。兄さんも本当なら卒業式とこのパーティー出る予定だったんだけど、本人が嫌がってね」
「メイス様には今後役に立ってもらうから構わないさ」
あの王子様にもまだ使い道はある。有効活用は大切だ。
「君らしいね。父上も君たちの式に出たがってたけど、流石に辞退して貰ったよ。君としてはあまり父上には接触したくないだろうと思ってね」
「正解だな」
あの国王陛下に関してはあまり会いたくないのだ。また余計な厄介事を持ってきそうなイメージが強すぎるからだ。折角のアリスとの結婚式を汚されたくはない。
「まあ、何にしても明日は楽しみにしてるよ。僕は他にも挨拶しなきゃいけないからそろそろ行かないとだけど、その前に一つだけ」
そう言ってからリンスは微笑んで言った。
「君と過ごしたこの1年は楽しかったよ。これからもよろしくね、親友」
「……ああ、もちろんだ」
そうして離れてくるリンスを見てから隣のアリスを見ると微笑ましいと言わんばかりの笑みを浮かべて言った。
「リンス殿下はエクスのこと凄くわかってるんですね」
「そうかもね」
「でも、私の方がエクスのことをよくわかってますから」
珍しくそんなことを言うアリス。少しだけ嫉妬心が芽生えたのかもしれないと喜びながら俺は言った。
「ああ、そうだな。アリスの方が俺のことをわかっているよ。そしてアリスのことは俺が一番よくわかる」
「はい。エクス」
そうして手を繋ぐと微笑みあう。心から通じあえてるのがわかって嬉しくなる。それと同時に少しだけ寂しさも感じる。この距離感も関係も良くも悪くも明日にはおしまいだ。夫婦にランクアップするのは嬉しいけど、やっぱり婚約者という関係も好きだったと思う。この一年だけの関係なのがおしいくらいだ。過去に戻れるなら早くにアリスに求婚に向かいたいものだ。
「アリス、卒業おめでとう」
「エクスこそ、おめでとうございます」
「うん、ありがとう」
「はい、ありがとうございます」
くすりと笑いあう。やっぱり俺はアリスのことが大好きすぎるようだ。人目があってもアリスだけを見てしまう。アリスも完全に俺を見つめているのでお互い様かな?ちなみに他の生徒からはかなり見られているのを俺はわかっている。まあ、公衆の面前でこれだけイチャイチャしてればそうなっても、仕方ないか。アリス本人は気づいてないので言わないでおく。言って赤面せさるのもいいけど、せっかくだから黙っていよう。それにこうしてアリスとみつめあうのはかなり好きだしね。
こうして俺とアリスはこの日、学園を卒業したのだった。
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