第34話 騎士団長の息子は婚約者をデートに誘う
「突然だけど、デートって知ってる?」
「でーと?」
キョトンとするアリスだったが、しばらく考えてから思い出したように手を叩いて言った。
「聞いたことがあります。なんでも平民の方の逢い引きのことをそう呼ぶと」
「うん、それをしたいんだけどどうかな?」
乙女ゲーム『ラブリー☆プリンセス』の攻略対象も残るは一人。そのタイミングで俺がアリスに提案したのはデートだった。この世界にもデートという言葉があるのが驚きだけど、まあ似たような言葉が生まれててもおかしくはないだろう。
と、そんなことはさておき、俺がそう提案するとアリスは少しだけ顔を赤くしてから聞いてきた。
「そ、それは……私とエクスが二人で逢い引きをするということですか?」
「まあそうだね」
「私は嬉しいですが……どちらへ行かれるのですか?」
「北側の町に行くつもりだけど、どこか行きたいところはある?」
そう聞くとアリスは少しだけ考えてから答えた。
「実はあまり地理には明るくなくて……その、どこに行きたいのかもわからないです」
「そっか、アリスはあまり外出できないからね」
公爵令嬢で、王子の元婚約者ともなればその重責から息抜きに出掛けることもままならないのだろう。そうでなくても貴族というのは本来馬車で移動するので実地での地理に明るいものは少ないだろう。
「なら、是非一緒に出掛けよう。町を歩いて色んなものを俺と一緒に見て聞いて感じて、楽しもうよ」
「エクス……あの、そもそもそんなに簡単に外出できるんですか?警備の問題とか……」
「ああ、その辺は大丈夫。なにしろ最強のボディーガードがいるからね」
本来なら警備に人手をさく必要があるから、諸々の手続きがあって面倒だけど、とりあえず俺がいればこの国の騎士でも100~1000人くらいまでなら捌ける自信がある。何故そんなことを言えるかって?実際に試したからね。精鋭騎士団を相手に見学と称して実力を計ってみた結果の統計だ。流石に騎士団長である父親クラスは一人が限界だが、そもそもトップがいかれてるだけで、この世界の基本的な戦闘能力はそこまで高くない。
いや、高いのだろうけど……エクスが強すぎるのか?本気でチートと言えるほどのスペックを持っているのでヤバいのだが……騎士団メンバーに聞いてみたところ、賊でも騎士団メンバーの半分くらいの実力がせいぜいだと聞かされた。つまりそれを信じるなら俺が側にいれば大がかりな警備は必要ないことになる。まあ、念のため影として何人かには待機してもらうだろうが基本的に俺だけで問題ないだろう。
と、ここまで聞けばいかに俺がこの世界を舐めてると思われるかもしれないが、そんな油断は全くしてない。常に相手が自分より格上の場合を想定して動く。そのためには地形を理解して、戦略を考えて行動することが大切だ。だから予め下見をしてからおおよそ考えられる最悪のパターンを想定してアリスを逃がすための手筈を整える。そのために何度か通って顔馴染みを作った。あとはアリス次第だが……
「一応ミスティ公爵には許しを得てるからあとはアリスが決めていいよ」
「私は……エクスとなら行きたいです。でも、本当に私でいいのですか?」
「ああ、俺はアリスとデートしたいんだ」
というか、アリスとのデートのためだけにここまで必死になったんだ!いや、もちろん別の目的もあるけど真の目的はアリスとのデートだ。結婚するまでに出来れば何度か婚約者としてデートをしたいのだ!お店を巡って、買い食いして、一緒に笑って楽しみたいのだ。貴族らしからぬことはわかってるが、そういうご褒美くらいは欲しいのだ。アリスはしばらく黙ってから、くすりと笑って言った。
「エクスはいつもそうやって、私を簡単に拐ってくれますね」
「そうかな?」
「はい、あの時も今もエクスは私を拐ってくれます……本当は、エクスと二人で町を歩いてみたかったのです。でも、私は公爵家の娘ですからそんなことを言うわけにはいきません。私のワガママで皆さんに迷惑をかけられませんから」
どこまでも優しいこの子に胸を撃ち抜かれて続けて蜂の巣にされても俺は笑顔で言った。
「なら、俺にはたくさんワガママ言ってよ。どんなワガママでも迷惑にはならないから」
「エクス……はい」
微笑むアリス。そんな表情すら愛しくって俺はアリスをこちらに引き寄せるとそのまま優しく抱き締めて言った。
「すまない、可愛いアリスを見てたら俺がワガママを言いたくなった」
「はぅ……だ、大丈夫です。エクスが大丈夫って言ってくれたので、私も大丈夫です。私にもエクスのワガママ言ってください」
「ああ、ならしばらく抱き締めても構わないな?」
「はい……」
そうして俺とアリスのデートが決定したわけだが、デートといってもやることいつもと変わらないじゃんというツッコミはなしでお願いします。いつもイチャイチャしててもデートと日常ではイチャイチャの質が違うから。うん。
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