第31話 騎士団長の息子はヒロインにお願いされる

「……さて、何か用でもあるのか?」


アリスとイチャイチャを楽しんでから帰る途中、俺は後ろにそう問いかけた。すると隠れていた人物が姿を表して言った。


「いつから気づいてたのかしら?」

「最初から」

「そう……相変わらず化け物みたいな人ね」


そう笑うのはヒロインだった。


「それで?用件はなんだ?」

「あなたに会いたかったと言えばいいのかしら?」

「冗談でもやめてくれ。吐き気がする」

「他人の好意をそこまで無下に出来るのはあなたくらいよ」

「いらない好意というものが世の中にはある。俺はその基準が人より狭いだけだ」


向けられて嬉しい好意と嫌な好意というものがあるが、俺は基本的にアリス以外からの好意を好意として受けとるつもりはない。変に誤解させるくらいなら最初から脈がないと思わせることも大切だ。まあ、俺みたいな面倒な男に少なからず好意を抱いてくれるのなんてアリスくらいだろうけど。


「それでなんだ?こんなところで俺と二人でいるのがバレたらお前も面倒な勘繰りを受けるぞ」


屋敷の中とはいえ、こいつと二人きりというのはかなり都合が悪い。周りには人影はないが、誰に見られてもおかしくないからだ。それで他人に誤解されるのは別にいいが、アリスに伝わって勘違いされるのだけは嫌なのだ。こいつも隠しキャラにバレたら面倒なことになるだろうにこうして接触してきたのは何かしら理由があるのだろうと聞くとクスリと笑って言った。


「そうね、お嬢様がこのことを知ったら嫉妬で私を刺しそうだものね」

「誤解されるのは否定はせんが、アリスをなんだと思ってるんだ」

「ヤンデレの素質を持つ天才かしら?」


否定できないのがなんとも言えない。俺としてはその才能を是非開花して欲しいものだ……アリスのヤンデレとかたまらん!多少暴走してるくらいが女の子は可愛いしね。


「で?本題は?」

「そうね……あなた今面白いことをしてるそうね」

「面白いこと?」

「攻略対象を洗脳してるのでしょう?」

「人聞きの悪いことを言うな」


洗脳なんて楽な方法があればもっと手早く終わらせてアリスと共にいる時間を作るはずだ。身体強化じゃなくて、洗脳系統の魔法が使えたら良かったのに……まあ、どちらにしても自分の力を理解して使いこなすのが一番いいだろうしそこは諦めているが。


「今日はお嬢様に会いにきただけじゃないわね。さっきリンス殿下がここにいたのはお嬢様の義弟くんに会いにきたのね」

「なるほど、それを聞きにきたのか」

「ええ、今何人にあたったの?」

「お前のせいで王位継承権を失った王子と義弟だけだ」

「そう、なら残るのは二人ね」


そう言うとヒロインはしばらく考えてから言葉を発した。


「優先するならペターが先ね」

「ペター?ペター・シャルルのことか?」


攻略対象の一人、シャルル公爵家のペター・シャルル。チャラ男みたいな外見の公爵家の息子だったはず。


「理由は?」

「ペターの家にはもう一人攻略対象がいるから」

「攻略対象?」

「とはいえ、『ラブリー☆プリンセス』の攻略対象ではなくて別作品だけどね」


そういえば、こいつは前に言っていたな。乙女ゲーム『ラブリー☆プリンセス』には続編と番外編とアナザーストーリー、その他もろもろあると。


「どの作品でどういう時系列か詳細わかるか?」

「タイトルまでは流石に覚えてないわ。でも、確実なのは私がヒロインであり、悪役令嬢がお嬢様ってこと」

「アリスが悪役令嬢か……それはお前が他の攻略対象とくっつかないで、ペターのルートを中途半端に進んだ結果のルートか?」

「そうなるわね」


追加されたルートなどであるが、特定のキャラのルートで進めるとサブキャラのルートに移行するゲームがある。多分そのパターンだろう。


「しかし、アリスを悪役令嬢にした乙女ゲームというのは本当に不快だ」

「そう?ストーリーは結構面白かったわよ」

「どれだけ神ゲーでもアリスが辛い役目を背負わされるならクソゲーだ」


乙女ゲーム『ラブリー☆プリンセス』ではどのルートでも悪役令嬢はアリスだった。ヒロインを妬ましく思ったアリスが嫉妬に狂って色々やらかすというのが大きな流れなのだが、それを面白いと評価する気持ちが俺には理解できそうにない。あんなに可愛い子をいじめるだけのゲームなんてクソゲーだ。ただ、舐めてかかるつもりはない。


「そのゲームの残りの攻略対象と大まかなストーリーを教えろ」

「タダで教えるとでも?」

「教えてくれたらベリスとのデートを取り付けてやる」

「なら仕方ないわね」


そう言うとヒロインは素直に教えてくれた。俺はそれを記憶してからこれからの算段を考える。おそらく時系列的にはそろそろストーリーの第二波がきてもおかしくはないだろうから、それを十分注意してアリスを巻き込まないようにしないといけない。不穏な要素は全部刈ってから安心してアリスとイチャイチャすることに専念する。それが俺の役目だ。どんな理不尽からもアリスを絶対に守りきる。どんな困難でも打ち勝ってアリスを笑顔にしてみせる。そう改めて誓うのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る