第25話 騎士団長の息子は婚約者を愛でる
アリスと共に取る食事というのはいつもよりも格段に美味しくなるのだが、先程のリンスとの会話が頭の片隅にあり若干楽しさを阻害している。いかんいかんと頭を切り替えようとする前にアリスが聞いてきた。
「エクス。考え事ですか?」
「……そう見えた?」
「はい。なんだかいつもよりお顔に陰りが見えたような気がしたので。私に出来ることがあればなんでも言ってください。エクスのためならなんでもします」
そう微笑んでくれるアリスに心から涙と感謝と愛しさを感じるが、こうして気をつかわせてしまった時点で俺のミスだ。プライベートに仕事を持ち込むなんてしたくないのにな。まあ、今回は内容が内容だけに憂鬱な気持ちになりやすいのだが……それにしてもなんでもするという献身的な台詞はなかなかいいものだな。アリスからなんでもすると言われるとよからぬ想像が加速するが、そういう邪念は一度終まってからアリスに微笑んで言った。
「ありがとうアリス。でも、私以外には決してなんでもするとは言ってはいけないからね」
「何故ですか?」
うーん、なんと言うべきか。この天使によからぬことを吹き込むべきかかなり迷ったが、アリスの安全のために教えておくことにした。
「アリスのような美少女から、なんでもすると言われれば男が邪な感情を抱いてしまうからね」
「そ、そうなのですか?」
「ああ。アリスは可愛いからね」
「可愛い……そうですか」
ニヤニヤしそうな表情を隠すので精一杯なアリスにかなり萌えてくるがしばらくして治まったのかアリスは上目遣いで聞いてきた。
「エクスもそうなのですか?」
「そうとは?」
「あの……私で邪なことを思ったりするのですか?いえ、私以外の女の子にも似たようなことを思ったりするのですか?」
「アリス以外にそのような思考を向けることはありません」
思わず断言してしまった。想像するだけでも吐き気がする。アリス以外を女として見るとか、蝿に欲情しますか?と言わんばかりのあり得なさ。俺にとってアリス以外の女には虫以上の感情はわかない。どれだけ可愛くても、どれだけ色気があろうともそんな感情は一切わかない。そもそも俺にとってアリス以外はほとんど意味がない。だから俺がアリス以外に大きな関心を向けることは少ないだろう。まあ、後々アリスのためになったり体面的に必要なら友好関係は築くし、なんならどれだけ嫌悪感があっても良くはするが、そうじゃなければ関心はわかない。
俺の即座の言葉にアリスはしばらくこちらを見ていたが、視線があって二人でみつめあうと次第に赤くなっていく頬。なんとも可愛い反応なのでしばらく放置して楽しむとアリスは少しだけ声を細くして言った。
「わ、わかりました。信じます」
「いいか?なんならこのままずっと俺を見ていてくれても構わないけど」
「え、エクスはずるいです……」
「アリスが可愛いからついそういう態度になってしまうんだよ」
「もう……エクスったら」
そう言ってクスリと笑うアリスに俺は純粋に見惚れてしまってから内心でため息をついてしまう。やっぱりアリスに触れていると落ち着く。さっきまでの不快感が浄化されるような……本当に早く色々終わらせてからアリスとのこういう時間を大切にしたいものだ。
「それで、エクスは先程何を考えていたのですか?」
しばらくしてからアリスに再度聞かれると俺はしばらく考えてから軽く質問してみた。
「アリスはさ。前の婚約者のことどう思ってる?」
「メイス様ですか?特にこれといったことはないです」
「本当に?」
「はい。確かに最初はショックでした。信頼関係をあっさり壊されたような気がして。でも、エクスとこうして結ばれることになった今は逆に感謝してるくらいです」
「そっか……マリアのことも?」
「はい。恨んではいません。どんな過程があろうが、私の初恋が叶ったのですから」
その言葉に俺は一瞬フリーズしそうになる。初恋?まさかアリスも最初から俺のことを……確かにエクスとは幼い頃から親交があったし、仲良くしていた場面もたくさんあるが……え?まじで?
「だから、マリアとも今は仲良くできています」
「そ、そっか……アリスはやっぱり優しいな」
「そうですか?」
「あんなことまでした王子やマリアに悪感情を抱いてないのは本当に凄いと思うけど……自分を責めるのはダメだからね」
「大丈夫です。エクスが側にいるならそんなことはありませんから」
なんだか最近のアリスは前よりもメンタルが強くなったように見えるが、これは俺への依存が進んでる証拠でもあるのか?さっきの口ぶりからしてもはや王子には欠片の興味もなさそうに見えるのでそう思ってしまうが、それを嬉しいと思える俺は若干ヤバい自覚はある。まあ、それをどうにかしようとゆうつもりは一切ないが。依存上等!むしろもっとアリスにはヤンデレ特化になって欲しいくらいだ。最終的には俺を監禁することを考えるレベルまで愛情が上がればなお良しだろう。そんな風にアリスを愛でる昼だった。
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