第14話 騎士団長の息子はメイドを斡旋する

ヒロインと手を結ぶことにしてから、俺は国王陛下とミスティ公爵、リンス、その他もろもろに手を回してアリスのメイドになる準備をした。リンスは最初俺が魅了されたのではないかと心配していたが、アリスとのエピソードを延々と聞かせると納得した。なお苦笑気味だったのは言うまでもないだろう。


「私に新しい侍女ですか?」

「ああ。アリスが知ってる人物なんだが、嫌なら断っても構わない。本人が罪滅ぼしをしたいと言っていてね」

「私の知る人物、罪滅ぼしですか?」


キョトンとするアリス。そんな表情も可愛いが俺は今回ばかりは自重して目的の人物を手招きする。


「出番だぞ」

「はいはい。まったく……」

「えっ……?」


メイド服を着たヒロインの登場でアリスは思わず固まってしまう。俺はアリスの隣に移動するとその手を握ってから優しく言った。


「大丈夫。一応無害だから。それに何かあれば俺がアリスを守るから」

「エクス……ありがとう」


しばらく深呼吸をしてからアリスは俺の手を握りかえして強くヒロインを見て言った。


「お久しぶりです。マリアさん。夜会以来ですね」

「ええ、あの時はごめんなさいねアリスさん」

「いえ、マリアさんがメイス様を手にいれるために色々していたのはわかっています。それに気付いていながら何もしなかった私にも非はあります」


そんなことを言うアリス。やはりアリスは頭の回転が早い。あの状況になった過程をおぼろげながら察しているようだ。賢くて可愛いとかマジで最強すぎじゃね!こんな嫁さん手に入れるチャンスを逃したあのボンクラざまぁないな。うん、いやマジで。ヒロインもアリスのその台詞に驚いたような表情を浮かべてからクスリと笑って言った。


「流石はアリスさんね。エクスさんがあなたに惚れた理由もわかったわ」

「ほ、惚れ……」

「当然だ。俺のアリスだぞ?」

「はぅ……」


顔を真っ赤にするアリス。この可愛いさを心に残しつつ俺はヒロインを見て言った。


「アリスを可愛がるのは俺の特権だ。取らないでもらおう」

「あら、これから私が仕える主なのよ。私にも分けてよ」

「それはアリスが認めてからだ。それにアリスの侍女になるならもう少し口調を抑えてはどうだ?」

「そうね……どうかしらアリスさん」


そう聞くとアリスはしばらくしてから、こほんと咳をして言った。


「エクスが言うなら私は従います。口調も公の場でなければ黙認しましょう。ただ一つだけ条件があります」

「伺いましょう」

「エクスとあまり親しくしないでください」


その台詞に俺は思わず内心で喜んでしまう。え、もしかしてなくても嫉妬?嫉妬なのかな?だったらめちゃくちゃ嬉しい!独占欲とか超俺好み。今のアリスも大好きだけど、アリスにはヤンデレ方面に特化してほしいくらいだ。むしろヤンデレになったら俺は今以上にアリスを愛してしまってヤバくなるだろうと確信がある。と、そんなことは顔には出さずにイケメンスマイルをしていると、目の前のヒロインはしばらくポカーンとしてから笑って言った。


「本当にエクスさんのこと大好きなのね。同じ女なのに私もあなたのことを大好きになっちゃいそう」

「ははは。友情や主従愛までなら許すがそれ以上になったら斬るからな」

「そんな爽やかな笑顔で言わないでよ。まったく……呆れるくらいにラブラブね」


当たり前のことだ。俺とアリスはいつでもラブラブだからな!それに、爽やかな笑顔って、アリスの前だから醜い姿は見せられないさ。実のところ百合フラグが立ったらまず間違いなく嫉妬で斬るだろう。ヒロインはしばらく笑ってからゆっくりとアリスに近付いてきてから片膝を折って従者の礼を取ってから言った。


「アリス・ミスティ様。あなたのお側に仕えることをどうかお許しください」

「先程の誓いが守れるなら許します」

「誓いましょう。ただ、あなたのことをエクスさんに報告する必要があるからそれだけは納得してください。仕事ですから」

「……お仕事なら仕方ないです。でも、本当にエクスとハレンチなこととかはダメですからね!」

「具体的には?」

「そ、それは……て、手を繋いだり、お互いに確かめあうように名前を呼んだり、き……キス、をしたりとか……」


最後の方は小声になるがバッチリと聞こえたので、心のボイスレコーダーと、ムービーとして保存をする。すごい、俺のアリスラブフォルダーがどんどん埋まっていく。これはそのうち容量増やすしかないな。方法わからんけど。


アリスの言葉にヒロインは苦笑してから頷いて言った。


「もちろんそんな真似はしませんよ。私にはエクスさんは重すぎるので」

「え、エクスは重くなんてないです!」

「ふふ、だといいですね」

「もう、まったく……マリアさんは意地悪ですね」

「マリアで構いませんよ。私はアリス様って呼ぶべきですかね?もしくはお嬢様とか?」

「お好きに。でも、二人きりの時は今まで通りで構いませんよ」


そう言うとヒロインはしばらく考えてから頷いて言った。


「わかりましたよ。お嬢様」

「ええ、よろしくね、マリア」


こうしてまさかの末にヒロインが悪役令嬢のメイドになるという事態が発生したわけだが、まあ、アリスの側に乙女ゲームの知識を持つ人間を増やせばそれだけイレギュラーにも対応しやすい。俺としてはもうないとは思うがこういう時に限ってイレギュラーはおこったりする。例えばそう……俺は知らないけど続編があるとかね。









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