第12話 騎士団長の息子はヒロインに会う
「やぁ、どうだった」
謁見の間から出ると爽やかにそう聞いてくるリンス。俺はため息をつきながら言った。
「散々からかわれた」
「そこまで父上がフレンドリーだったなら問題はなさそうだね」
「あと、お前のお守りを頼むとさ」
そう言うとリンスは苦笑しながら言った。
「ああ見えて過保護だからね」
「過保護ねぇ……」
まあ、親としてリンスが普通に可愛く感じるのもあるのだろうが、王太子として大切な存在だからなのだろうと思う。そうしてリンスと話ながら俺達はヒロイン様がいる牢へと向かう。普通の牢とは明らかに違う作りのそこは女騎士を中心に警備をされておりリンスの姿を見かけると見張りの騎士は慌てて臣下の礼を取る。
「殿下。このような場所でお目にかかれて恐悦至極です」
「楽にしてくれ。君たちの仕事の邪魔をするつもりはないからな」
「は!」
凄いな。このイケメン度合い。どこか騎士達が嬉しそうにしているのでやはりリンスの人気は凄いと思っていると、リンスは俺を見て言った。
「さて……これから何がおこるかわからない。準備はいい?」
「今さら聞くか?それより自分の心配をした方がいいだろ?」
「うん。だから聞いたんだよ。僕がダメになったら君と彼女達に頼むことになるからね」
「ま、出来ることはするさ」
俺としても知り合いを手にかけるのは嫌なので出来ることはしよう。まあ、アリスのためならわりとためらいなく出来る気はするけど、アリスを理由にして殺すのはあまり気持ちよくないという気持ちもあるからな。矛盾はしてるけど、その二つの気持ちが混じってるので仕方ない。まあ、いざとならったらアリスを守ることを優先するけどね。
そんなことを考えながらヒロインがいる牢の前に立つと女騎士が呼びかけた。
「おい。貴様に客だ」
「なによ……まったく」
そう言ってからこちらを見て俺の姿を確認するとヒロインはすぐさまか弱い表情を浮かべて猫なで声を出して言った。
「エクスさん!助けにきてくれたのね!」
信じていたわ!みたいな表情を浮かべているのでどうしようかと思っているとリンスが横から声をかけた。
「残念ながら彼は君を助けにきたわけではないよ」
「なによあんた」
「僕はランドリー王国の第二王子。リンス・ランドリーだ。君がミスティ嬢から奪おうとしたのは僕の兄なんだが」
「リンス……そう、あなたが」
ニヤリと笑ってからヒロインは妖しげな雰囲気を醸し出す。これはヤバイか。そう思って止める前にヒロインは言った。
『リンス様。私を助けて』
「……!」
その言葉にリンスが反応する。何かを抑えるようにしてから牢へとゆっくりと近づき――その前に俺が横からタックルをかけることでそれは阻止された。
「ぐっ……!な、何をするエクス」
「意識はハッキリしてるか?」
「なんだかえらく心地よい気持ちが君のタックルで消えたのがわかったよ……もしかしなくても僕は魅了されかけていたのか?」
「多分な」
確証はないが、リンスの反応からして魅了魔法の可能性は高くなった。しかも厄介なことに意識して出来るようなので下手に近づけないことがハッキリとした。とはいえ、俺には何の効果もなかったように感じたから魅了魔法はそこまで効果が大きくないのか?もしくは名称を呼ばれるとヤバイのか?わからないことは多いがとにかく……
「とりあえずお前はもう止めたほうがいい。あそこまであっさりと魅了されると使い物にならない」
「辛辣だね。だけど正論だ。任せてもいいかな?僕は君のタックルのダメージを回復させるから」
「何気に根に持ってるだろ?ま、とにかくやれるだけのことはやるさ」
そうしてリンスを女騎士に預けてから俺は再びヒロインと対面する。
「さて……こんにちはマリアさん。いや、マリアに転生した別の人かな?」
その言葉にヒロインは目を細めて言った。
「あなた本当にエクスさんなの?」
「さて、君がマリアじゃないように俺も違うかもしれないね」
「そう……あなたも転生者なのね。私の魔法が効かなかったのは何か仕掛けがあるのかしら?」
やはり自覚して使えるようだ。つまりヒロインはこの魔法で意図的にアリスを追い落とそうとしたということだ。明確な敵だが、事情は聞くべきだろうか?
「その前に質問だ。お前は乙女ゲーム『ラブリー☆プリンセス』を知ってるんだな」
「ええ。もちろん」
「……アリスに冤罪をふっかけたのは王子を奪うためなんだな」
そう聞くとヒロインはポカーンとしてから笑って言った。
「まさか!そんなわけないでしょ。あんな面倒な男に興味はないわよ。私が本当に攻略したかったのは隠しキャラよ」
「隠しキャラだと?逆ハーレムまで作ることが条件なのか?」
「その様子だと知らないみたいね。もしかしてあなたがやったの移植前のゲームかしら」
移植前……つまりこのゲームは何らかの形で移植してルートが増えたのだろうか?だとしたら俺が知らない隠しキャラというワードも説明がつく。
「悪役令嬢の執事が隠しキャラなのよ。だから一度婚約破棄のイベントは起こさなきゃダメだったの。もちろん、悪役令嬢には穏便に退場してもらうつもりだったんだけど……見事に失敗したのよね」
「なるほど、自覚して演じていたわけか」
「当たり前でしょ?まあ、魔法なんてとんでもない力があったからこそこうやって有効活用したわけなんだけど……まさかエクスだけ解けるとは思わなかったわ」
なるほど、決して馬鹿なわけではないみたいだ。おそらくアリスの断罪の時にでも涙目で助命を訴えてさらに攻略対象の好感度を得ようとしたのだろうが、それでもアリスを嵌めようとしたのには変わらない。しかし転生者でしかも俺の知らない乙女ゲームの知識もあり、魅了魔法という厄介な力まで持ってる。となると最善の方法は……
「ヒロインさんや。俺と組む気はあるか?」
「組む?あなたに協力しろというの?」
「ああ。具体的にはだな……アリスのメイドにならないか?」
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