第33話 茜だって夏を満喫したい(茜視点)
◆◆◆◆◆◆
────その頃、笹倉家では。
奏流夏のSUN祭りの開催日が近づいてきましたわ! この日をどれだけ待ち望んでいたことでしょうか。
なんといっても、あの花火は圧巻です。
笹倉グループ主催の花火大会に比べれば粗末なものかもしれませんが、他の花火大会とは違った活力があそこからは感じられるのです。奏流高校はどこか違います。言葉で表現するのは難しいですが、とにかく圧巻ですの。
せっかくですから、光一さんと花火がみたいですわね。去年は椀台の車の中から、最後の花火を数分眺めただけでした。今年はまるまる参加したいのです。
さっそく、光一さんにとりあえず電話をかけてみます。呼出音が三度ループしたところで、光一さんは出ました。
「茜サン。どうしたんだい、ボクのことが恋しくなったのかな」
「もちろんですわ。常に光一さんだけしか眼中にはありません」
「そこまでいってくれるとは、うれしいものだね」
光一さんが笑われました。電話越しで伝わる吐息ですら美しすぎます。。
「……さて、今日の要件は何だね」
「夏祭り、奏流高校で開催されますよね。その際に、ぜひご一緒したいと思っていまして」
なんということでしょう。つい本心をつらつらと語ってしまいました。面倒な女だと思われ
たくないというのに。
「それはいい提案だね。その日は確か、美麗サンの私立は文化祭だったはずだ。本当なら美麗サンと一緒に巡るところだろうけど、事情が事情だ。今回はその誘い、受けよう。せっかく行くんだ。ボクがキミを完璧にエスコートするよ」
僥倖ですわ。日頃の行い、というものでしょうか。よいおこないをする者は、救われるのですね。
「本当によいのですか、光一さん」
「もちろんだよ。奏流の夏祭りには、ぜひ行きたいと思っていたところだからね。それじゃあ、五時に奏流の校門前に集合としよう」
「もちろん! ぜひとも楽しみましょう!!」
「そんな喜んでもらえるとは思っていなかったよ。いっぱい楽しもうね。じゃあ、きるよ」
こんな幸せ、私にはもったいない。ですが、いただいたチャンス。私は逃しませんよ。
◆◆◆◆◆◆
「ふぅ」
ボクはついため息をついてしまった。
美麗は私立の女子校に通っているはず。でも、それが事実でないかもしれないと、ボクは疑
っている。
制服から男子の匂いがついている。奏流の最寄り駅で車からりる美麗サンを、何度か見かけたことがある。それだけじゃない、指定の通学鞄を使用しているであろう形跡が見られない。
明らかに、怪しいのだ。
奏流の夏祭りには、元から絶対に参加するつもりだった。美麗の通う高校について、さまざ
まな仮説を立ててきたが。
奏流が、最も黒に近い。
僕がかならず、美麗サンの高校を突き止める。もし何らかの事情で奏流に通っているとするなら。その事実、ぜひとも弱みとして利用させてもらおうじゃないか。
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