第29話 僕らはいつも惹かれあいたい

 夏休み初日。


 クラス内での話し合いの結果、僕たちのクラス、食販をすることが決まった。


 奏流高校の敷地は広大だ。そのため、ほとんどのクラスが外での食飯をする。しかも、複数の食販を掛け持ちすることさえ許されている。それだけの広さなのだ。僕のクラスでは、三種類の屋台をやることになった。


 クラスでやることは、これで終わりじゃない。


 文化祭の最初と最後におこなわれる、ダンスパフォーマンスが残っている。ビデオで例年の様子を見たが、クオリティーは高校生の域を超えているといた。夏休みにみっちり準備しないと間に合わないのは明白だった。


 さまざまな役割分担があるが、僕の担当は。


「ダンス振り付けって、マジすか」


 同じ班のメンバー、僕・明日翔・小丸。さらには美麗。他の担当があれよあれよと埋まってしまい、その中でベターなものを選んだ結果が、これだ。


「おお、中学校の同級生で集まったな」


「正直、こんな、みんな、集まるなんて」


「小丸とは図書委員で会うくらいだけど、今回は一緒になれてよかったね」


「美麗、ありがと。陸夜も、あと、明日翔くんも」


「おー、よろしくなー。小丸」


 同じ中学とはいえ、明日翔と小丸に接点はほとんどなかったように思う。高校に入ってからはなすようになったのだろう。


「つうか、明日翔に振り付けのセンスなんてあるのか? 不安でしかないんだが」

「それって陸夜にもブーメランだぞ」


 とりあえずスルーしておく。


「じゃあ、他にダンスに詳しい人は?」


 前年度のダンスを参考にするのも全然ありだが、クラス内では「オリジナリティのあるダンス」にしようと盛り上がっている。もし借用でもしたら、バレたら立場が悪くなるだろう。だから、ダンスに詳しい人がいればいいのだが。


「私も、ごめん。本当にダンスとか詳しくなくて。歌うぶんにはいいんだけどね」


「さあ、どうしようか」


「……私、できる」


 口を開いたのは、小丸だった。


「小丸ちゃん、ダンスとかってできるの? ちょっと意外」


「私、プリキラのダンス、大好きでライブとかでも踊るから」


「なあ、プリキラのダンスっていったいどんなものなんだ。全く想像つかないんだが」


 女児向け変身バトルアニメのダンスについては詳しくないんだ。簡単そうなイメージがあるが。


「うーん。一言でいうなら、オタ芸」


「オタ芸か……って、え?」


 オタ芸だろうがなんだろうが、俺たちの希望は小丸だけだ。信じるしかない。



「一応、どんなヲタ芸を踊るのか見せてもらえるか?」


 僕がそういうと、小丸はポケットからスマートフォンを取り出す。美麗と同じ、十万円く

 らいする高級機種だ。


 サクッと検索して、目的の動画を再生した。変なヲタ芸でないことを祈るばかり。


「どれどれ」


 ライブ映像らしく、ファンの姿と歌い手の姿が入り混じる。音を小さくし、耳を澄ませて

 音楽をきく。クールな雰囲気があって、思ったよりお洒落だった。


 曲は良さげだ。しかし、問題はヲタ芸の方だ。


 サビが終わり、間奏の間にアングルが観客の方へと向く。おのおのペンライトを握りしめている。


 間奏が終わると、アイドルの動きに合わせて、観客たちが踊り出した。


 ……紛うまがうことなき、ザ・オタ芸だった。


「小丸、これって普通のヲタ芸じゃないか」


「違うの、本番はここからだから」


 曲がもう終わりそうな雰囲気だと思ったら、また間奏に入る。次のサビでラストなのだろう。


 ここで、驚くべきことが起こった。


 最前列にいたファン十数人が、ステージに上がってきたのである。こんなことして平気なのかよ。


 そして。


 十数人同時で、バク転を決めた。寸分の狂いもない動きだった。


 それから、ファン達のソロパフォーマンスが繰り広げられていった。圧巻のパフォーマンスに、つい見惚れてしまった。


「確かにこのダンスはすごい。ただ、これは僕らにもできることなのか? バク転ってそう簡単にできるものじゃないと思うんだけどな」


「クラスのみんなに、バク転して欲しかったのになぁ」


「小丸ちゃん、バク転は無理にせよ、ソロパートで演出があってもいいかもしれないね」


 ナイスフォロー。


「でも、やっぱりバク転してほしいな」


「ぜひできたらいいね、小丸ちゃん」


 社交辞令だろうけど。ヲタ芸やパフォーマンスが映っていてのは、サビの前後と間奏くらいだったので、僕らは他の部分の振り付けを考えないといけなかった。


 僕たちはその流れで、プリキラ関連の曲のMVを何本か見せられた。他の曲は、僕の予想

 通りだった。小さい子も踊れるように、多くの曲はシンプルなものが多い。


 使えそうな動きは、ノートに書き留めておく。実際に自分で踊ってみたものを、動画に収めたりもした。


 ともかく今は、ダンスについての情報量を増やすしかない。十二時まで時間はあっという間に過ぎていった。いい動きだけが十分抽出できた。これをうまく繋ぎ合わせればいい。


「みんなお疲れ!!」


「美麗おつ!陸夜おつ!小丸もおつ!」


「お疲れ、さま」


「みんなまた今度!」


 ダンスはよくわからないけど。この四人ならいける気がする。

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