第2話 - 半顔の女
目が覚めると洞窟の中にいた
新鮮な大きな葉の上に寝かされ、逃走中についたであろう傷の手当もされている
上体を起こし、周りを見ると人が生活している跡があった
俺は誰かに助けられたようだ
焚火、見慣れない書物、兎の肉…
「目が覚めたか?」
急に女の声が後ろから聞こえ、振り返った
女はゆっくり近づいてくると腰を下ろし、傷の様子を見た
「取って食おうってわけじゃない、落ち着いてくれ」
女は顔の左半分を革で覆っていた
美しい金髪に青い瞳、整った顔、擦り切れた装備
「私はフルーフ、君は名乗れるかい?」
「あ…はい…エーサー。15歳です…」
不気味な雰囲気の女に気圧され、うつむいた
女は革鎧、帷子、剣を腰に下げた戦士だった
よくよく見ると露出した肌は傷だらけだ
女は焚火に火をつけ、兎の肉を焼き始めた
「エーサー、これからどうするんだ?」
俺は不安になった
村の仲間はほぼ殺された、テントの中で見た肉塊だ
合流する望みはない、簡単な兎狩りくらいならできるが魔物の出る土地を一人で暮らしてく自信はない
さらに流民は人権が無い、人里に降りても嬲り殺されるのがオチだろう
しばらくうつむいているとフルーフが語り掛けてくる
「君は先日焼かれた村の生き残りだろ?」
うつむいたまま頷いた
フルーフは近づいてくると目の前で腰を下ろし更に語り掛けてくる
「私の目を見ろ」
ただならぬ雰囲気を感じ、ゆっくりとフルーフの瞳を見つめた
「復讐、したいか?」
フルーフはおそらく腕の立つ剣士だ、こんなところで一人暮らすなど正気ではない
だが、彼女が手伝ってくれるならきっと復讐はできるだろう
流民村の人たちは荒っぽかったが、人は良かった
ふつふつとオーク達への怒りがこみ上げる
フルーフの目を睨みつけて頷いた
「いい目だ、私もオークに恨みがある」
そう言うとフルーフはエーサーの体をあちこち触り、腕や足の状態を確認した
「んー…今のままではダメだ。足手まといになる、腕も足も細すぎる」
絶望した、手伝ってくれるものとばかり思っていた
「ど、どうしたら…」
「まずは食え、体力がついたら鍛えろ。狩りにも連れて行ってやる」
それからしばらくはフルーフが狩りに行き、とってきたもの食う
水を吸わせた棒を振るなどして鍛える日々が続いた
◆ ◆ ◆
数週間後
ある日ふと気になってフルーフに尋ねた
「フルーフ、貴女はなぜここにいるんだ?」
怪しげな書物を開きながらフルーフは答える
「私の子を殺すためさ」
表情からは何の感情も読み取れない
狂っているのか?やっぱりついていくとまずい人だったのか?
俺は固まり、言葉を失った
「君を殺すつもりはないから安心したまえ」
俺の様子を見たフルーフは一言言うとまた書物を読み始める
よくよく仕草を観察しているとどうみても下々の者ではない
どこか気品のようなものが感じられる上品な佇まいだ
よけい気になって仕方がなかった
だが先ほどと同じようにはぐらかされるのだろう
俺は黙って木剣を振ることにした
◆ ◆ ◆
一年後
目を覚ますと両腕と両足が縛られ、それぞれが別の木に括り付けられていた
何事かと思い体を見ると何も身に着けていなかった
周りを見ると森の中だ、体の下には丁寧に新鮮な大きな葉を敷かれている
俺はこれからどうなる?喰われるのか?フルーフはどうしたんだろう
すぐにフルーフが現れ、鎧を脱いだ
「少し付き合え」
そう言うとフルーフは俺の上に乗り、楽しんでいた
フルーフは一息ついたあと、俺に近寄り体を撫でまわす
「ふふふ、いい体になってきたな…」
なんて趣味だ…男を縛り付けて楽しむなんて今までどういう生き方をしてきたのか
「おい、さすがにそれは縛り付けなくてもできるだろう」
フルーフは笑いながら返答した
「ハハ、楽しんだのはついでさ。これからお前に呪印を刻む」
呪印!?呪いか?俺はフルーフの性癖に辟易した
もしかして彼女も流民か?男をいたぶる趣味を咎められて追放されたのだろうか
「はぁ…君がそんな性癖を持ってたなんて…」
フルーフは俺の反応を楽しみながら、その美しい金の髪をたくし上げた
横を向き、うなじを見せる
「ホラ、これが見えるか?」
彼女の首には焼き印があった
「なんだそれは…」
フルーフは髪を下ろすとナイフを取り出し、用意してあった焚火で刃を炙る
「終わったら教えてやる。痛むぞ、これを噛んでいろ」
丸めた革を口に押し当てられ、抗う事もできず噛んだ
焼けた刃が胸に刺さる
一筋、一筋丁寧に、フルーフは怪しげな本を確認しながらなぞっていく
刃を斜めに立て、肉に切れ目を入れると反対に刃を立て、肉を抉るように切り取っていく
「……!!…!!!………!!!」
想像を絶する苦しみが続いた
全てが終わると傷の手当てをしてくれた、俺は長時間の拷問に耐え頭がボーっとする
「疲れただろう、起きたら話してやる。今は休め」
そういうとフルーフは縄を解き、肩を担いで寝床に連れて行った
なんて勝手な女だろうか、散々な目にあった
俺を鍛えたのは慰み者にした挙句己の趣味を押し付けるためだったのか?
彼女のお眼鏡にかなう体になるまで待っていたのか?
とんでもない変態だ、彼女はきっとその趣味のせいで追い出された流民に違いないと決めつけ、その日は眠りについた
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