ねえ、男子って「学校が謎の武装集団に占拠された!」って話しを、必ず一度は妄想してたりするんでしょ?

よりこ☆

第1話 目出し帽の男達


 学校生活での一大イベントでもある文化祭が二日目に突入した。あらかた目ぼしい催し物を制覇したところで、麗奈とそろそろ甘い物が食べたいねって話しになり、仲の良い男子生徒がいるクラスの模擬店に行くことにした。


 教室の入り口でメイド服のコスプレをした生徒が接客をしていた。


「おかえりなさいませ。ご主人さま~」

「千春。あんた、すっごい似合ってるわよ」


 麗奈が頷きながら


「うんうん。とってもカワイイよ」

「えっへへ、ありがとねん。沙織ちゃんも麗奈ちゃんもコスプレしてみたら良いのに、けっこう楽しいよ。もしかしたら二人ともハマるかもよ~」


 千春がその場でクルリと回ってスカートの裾を掴む。そして、微笑みながらお辞儀をした。世のオス共が鼻の下を伸ばしそうな仕草と微笑みだった。不覚にも一瞬見惚れてしまったが、我に返って


「私も麗奈も何気に身長があるからさ、カワイイ服ってサイズが無いんだよね」

「うんうん。私も着てみたいなって思ったカワイイ服があったとしても、身長と胸がジャマするから、いつも着る服は妥協して購入してるの。だから、コスプレの衣装も多分サイズが無いと思うよ」


 千春が私と麗奈を見上げながら、口元に手を当てると


「プププ。メンズサイズがあるじゃん」


 私が目を見開くと、千春は教室内に向かって


「ご新規二名様、ご案内で~す」


 と言って、急いで教室に入って行った。麗奈に肩をポンポンと叩かれると私の怒りは急速に収まっていった。


 教室の前の方で生徒たちがタコ焼きとクレープを焼いていて、仲の良い男子生徒の克也と直樹も一緒に調理をしていた。


 タコ焼きを作っている克也に「私にはタコを多めに入れるのよ」と脅し、クレープの生地をハンドミキサーではなく、泡だて器を使って混ぜている直樹には「しっかりダマにならない様に混ぜ合わせるのよ」と伝えると、麗奈が横から「頑張ってくださいね」って声を掛けていた。


 克也と直樹を軽く冷かし満足したところで、千春に窓側のテーブルに案内された。


「んじゃ、接客してくるね~」

「いってらっしゃい」

「頑張ってね」


 麗奈とタコ焼きとクレープを食べながら、次はどこの催し物に行こうかなどと話していると、教室の出入口の方で悲鳴が聞こえた。


 振り返ると教室内には映画やドラマで強盗が使っている、目元だけが見える目出し帽を被った男が立っていた。


 女生徒は悲鳴をあげながら、男子生徒は何かを叫びながら、必死の形相で教室から逃げ出して行く。目出し帽を被った男は教室から逃げる生徒には目もくれず、教室の真ん中あたりに設置されたテーブルを指さし


「全員スマホをそこに置いて、窓側の壁に移動しろ」


 指定されたテーブルの近くにいた男子生徒の表情が固まり、キョロキョロと周りの生徒たちの様子を伺っている。新たに教室に入って来た目出し帽の男が、周りを伺い固まっている男子生徒に


「早くスマホを出しやがれ」


 と言い、男子生徒の胸ぐらを掴み制服のポケット付近を触り始めた。男子生徒は消え入りそうな震える声で


「こっ、これって学校の持ち物検査とかなんッスか」

「んなわけ、ねえだろっ」


 目出し帽の男が拳を大きく振りかぶって男子生徒の顔面をぶん殴った。男子生徒は両手で顔を押さえながら床にうずくまる。口の中を激しく切ったのか、あるいは鼻から出血しているのか、顔を押さる両手の指の間から、血がぽたぽたとしたたり始めていた。

 

 目出し帽の男はさらに男子生徒に向かって


「早くスマホを出しやがれ」


 と言いながら、床にうずくまった男子生徒の背中を激しく蹴りまくった。


 突然始まった暴力行為に、メイド服を着た生徒たちはその場に膝から崩れて床に座り込んでしまった。テーブルで軽食を楽しんでいた生徒たちも異常な事態を察して、急いで教室から逃げ出して行った。


「スマホは持ち込み禁止だから、俺は持ってません」


 背中を蹴られていた男子生徒が叫ぶと、目出し帽の男が蹴るのを止めて他の生徒を睨みつけた。睨まれた生徒は激しく頭を上下に振って何度も頷く。すると、始めに教室に侵入して来た目出し帽の男が教室内に残っている生徒たちをゆっくり見回し、窓側の壁を指さすと


「ちっ、スマホはどうでもいいから、お前ら全員あっちにいけ」


 と言いい、新たに教室に入って来た二人の目出し帽の男に


「お前らはこいつを外に摘まみ出せ」


 男達が頷くと、顔が血まみれになっている男子生徒を引きずり廊下に放り出した。


 すると、男子生徒を蹴っていた目出し帽の男が、タコ焼きとクレープを作っている生徒に向かって


「おい、お前らも早くあっちにいけ」

「いや、まだ焼きあがってないから動けない」

「んだとっ、タコ焼きなんかどうでもいいから、早くあっちにいけや」


 目出し帽の男が肩で風を切りながら克也に向かって迫って行く。すると克也は真剣な表情で


「まだ材料が残ってるんだ。無駄には出来ないだろ。だから、俺は全部焼き終わるまでここを動けないんだ」


 目出し帽の男と克也のやり取りを聞きながら、麗奈に小声で


「克也は何を考えてるのかしら。近づいて来たらやっつけようって思ってたりするのかな」

「う~ん、多分違うと思うよ。克也君のあの表情を見る限り、本気でタコ焼きを作りたいんじゃないのかなあ。さっきタコ焼くのが楽しくて仕方ないって言ってたし」


 目出し帽の男がタコ焼きをつまんで一口食べると、目を見開き


「うめえな」


 克也はニコニコしながら


「あざ~っす」


 と言って、黙々とタコ焼きを作り始める。目出し帽の男が克也の行動を鼻で笑うと、今度はクレープの生地を混ぜている直樹に


「お前も早くあっちに行け」

「いや、今は大事な工程の途中だ。止めるとダマが残ってしまう。だから俺はここを動けない」


 目出し帽の男と直樹のやり取りを聞きながら


「ちょっと、直樹も何を考えてるのよ。克也と違って直樹だったらすぐにでもやっつけようって考えそうなのに」

「う~ん、多分筋トレがしたいんじゃないかなあ。直樹君さっき生地作りは腕の力を使うから、良いトレーニングになるって言って喜んでたよ」


 目出し帽の男が直樹の行動を鼻で笑いながら


「おい、メイド。お前も早く窓側にいけ」

「みんな移動しちゃうとこの場に人がいなくなっちゃうから、メイドはここで二人の奉仕と言う名のサポートを行います」

「ふんっ、まあ変な事をしてもすぐわかるだろうから、お前もそこにいろ」


 目出し帽の男と千春のやり取りを聞きながら


「千春は二人のサポートとか言ってるけど、本当は何がしたいのかしら」

「う~ん、多分窓側にいるよりも、克也君と直樹君の近くにいた方が安全って思ってるんじゃないのかなあ」





 麗奈が小声で


「ねえ、沙織ちゃん。あの人達の目的って何なんだろうね」

「そうね、犯行声明みたいなことを言ってこないから、目的が分からないわね」


 ナイフで武装し目出し帽を被った四人の男達。


 始めに男が教室に侵入して来た時に思ったのは、違うクラスの生徒が何処かで隠れて撮影しながらドッキリを仕掛けているのかと思った。でも、男子生徒を本気で殴ったり蹴ったりしていたので、どうやら本当に危ないヤツ等が学校内に侵入して来てしまったんだなって理解出来た。


 男達が侵入して来た時に、逃げ遅れた生徒は窓側の壁に集められ座らされていた。私と麗奈も窓側の壁に背をもたれながら、男達を刺激しないように大人しくしている。改めてゆっくりと教室内を見回す。


 教室の前の扉と後ろの扉には、それぞれ男達が一人ずつ立っていて、廊下の様子を伺っている。教室の中央で目をつむって椅子に座っている男は、何かを考えている様子だ。そして、窓側の壁に集められた生徒を睨みつけている男は、ただ単に生徒を威嚇して大人しくさせる役割みたいだった。


 男達が侵入して来てからしばらくずっとこの状態が続いている。私はてっきり男子生徒の誰かが、速攻で現状を打破してくれるんだろうと思っていたんだけど、男子生徒に動く気配が全くない。


 う~ん、おかしいわね。男子だったらこの非日常的な状況を前にして「始まったか」って思ったり「やれやれ、遂に俺が本気を出す時が来たようだな」って思ったりして、絶対に武装集団に立ち向かって行くって思っていたんだけどなあ。


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