クラスメイト①

「……さて、行くか」


 クラス分けの確認の後、玄関口に進む、道が空いている、と言うより僕を避けてるのであろう、まぁ楽でいいが。

 玄関口には靴箱がある、ここで外靴から内靴に履き替える、学園内は清潔さを保つ為に玄関口にて内靴に履き替える必要がある、ご丁寧にクラスごとに分けられており僕の名前が入った靴箱も用意されている。ちなみに内靴は学校指定の物を靴屋で購入こればっかりはサイズが合うものを持っていて譲るという人はいなかった。


「階段を上がったすぐか……」


 玄関前の廊下では教員であろう人が新入生への案内を呼び掛けている。その言葉を信じるのであれば1年生の教室は二階にあるそうなので階段を上っていく。

 階段を上った廊下で、ふと首を横に向ければ教室が見えた、廊下側の壁の上半分はガラス窓になっており、教室の様子が廊下からも伺えた。

 そこはこの前の会議室よりもこじんまりとした教室であった。1クラス10名だこの大きさで十分と言えるか、机の並びも縦に二列横に5列となっている。

 そして既に女の子が4人程机の一角に座っており楽しそうに談笑していた。その中にはステラと思しき子はいなそうだった。更に扉を見ればそこには1年1組と書かれた看板が貼られていた、どうやらここが僕のクラスと言う事か。


「…………」


 意を決して引き戸を開け入る事にする、突然の闖入者、それも黒髪の男だ、全員の目がこちらを向いた、さだめし誰も彼も僕の様な者がとでも思っている事だろう。

 事を荒立てる事も無い、そちらが不干渉を貫いてくれれば、僕としても構わない。

そう思いながら、適当に座ろうかと歩き始める、外窓側の端の席が空いてるな、そこにするとしようか。


「お待ち頂けますか?」

「はい?」


 突如、席に向かおうとした僕は声をかけられた、気の抜けた返事を返しながら振りかえると、一人の少女が立ち上がっていた。

 腰を超えて伸びた癖のない橙の長髪、さだめし外で遊んだ事はございませんと思わせる白磁の如き白い肌、目鼻立ちは彫りの深い、理想的なメリエル美人という奴だ。

 ちなみに母は顔の彫りが薄い、父はそれが良いと言うし、先生もメリエルではそうでも無いが別の国だと尊ばれる良き美人顔だと言っている。女性の美醜はよく分からないな。さて、気の抜けた返事をした僕に対して、その美人顔の少女と言えば。


「初めまして、私、キャサリン・メリエルと申します、宜しければ、貴方様のお名前もお聞かせ頂けますか?」


 唖然とした、僕の耳が聞き間違いをしていないと言うのならば、目の前のこの少女はかの大公様の娘、あのキャサリン・メリエル姫であると言う事だ。

 さだめし姫様という物は、僕の様な黒髪と言う忌避される存在を無視するだろうと思っていた。

 それがまさか僕を引き止め、あろうことか会釈をし名前を尋ねている、それも優し気な笑みを浮かべて。僕がその姿に唖然としているのに姫様はどうされましたと、不思議そうに見つめて来る、その言葉に気を取り直した。


「失礼、まずは姫様に先に名前を名乗らせた事に謝罪を、それと、僕……じゃない、私の名前はティグレと申します、名を持たぬ身で、姫様のご尊顔を拝見し、更には名を拝聴して頂ける事、光栄に存じ上げます」


 僕の人生で先生に手習っていた礼儀作法を使う事になるとは思わなかった。

そんな事を想いながら、言葉を発した後に最敬礼、深く頭を下げる、頭を下げる前に姫様以外の座っていた女子に目を向ければ、意外だという顔の子、感心する子、本に目を落としたままの子がいた、さだめし名を持たぬ平民にしてはお粗末とは言え礼儀作法が出来る事に驚いているか、関心を示していると言う所か。

 

「ティグレ様ですね、どうぞ顔を上げて下さいまし、それとあまり礼儀に拘らず楽にしてくださいませ、敬語もいりません」

「姫様のご配慮痛み入ります、出来うる限りでその様に務めさせて頂きます、では」


 姫様に顔を上げる様に言われ顔を上げると、姫様は敬語はいらないと言う、それを周りの人が許すわけもないだろうと内心思いながら、姫様のご意向に背くのも駄目であろうと、とりあえず灰色に聞こえるだろう返答をして、その場を退散する。

 

 1日目からとんだ邂逅というもんだ。

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