想う人
「やっぱり、もりのよるはくらいですね」
ランタンの明かりを頼りにいつも通ってる獣道をゆっくりと進みます。
森の中は木々が影になって星も月の明かりも入って来ない為、手に持ったランタンのゆらめく炎だけが僕と道を照らす唯一の明かりです。幸いなのは僕がこの道を毎日の様に歩き通る為に、転びそうな石ころなんかはどかしたりして地道に整備しているという所でしょう、おかげで歩きにくい事はありません。その為。
「みえてきました、ここはつきあかりがはいってきてますね」
さほど時間をかける事無く、目的地である大樹の下に辿り着きます。後はこれの後ろに回り込めば、秘密基地の入り口に辿り着くことが出来ます。ステラがいなければそれでいいですが。
「だれか、いますか?」
「アリス?」
「ぼくですよ」
「ティグレ君?」
いました、膝を抱えてソファーの上に座ったステラが、先生は迎えに来なかったのでしょうか。先生が来たかを尋ねたら、まさかの先生は来ていないそうでした。
もしかして迎えに行こうとしたけど門が閉められてこれなかったとかでしょうか?
「おじゃましますよ、といってもぼくのひみつきちですけど」
「なにしにきたの?」
「おなかをすかせてるとおもったので」
「べつにすいてなんか……うっ」
空いていないと言いますがそれと同時にステラのお腹から小さく音が出ます、うんお腹が空いてる立派な証拠ですね、手に持っておいた、パンを包んだものを渡してあげれば小さな口でそれを齧り出します。齧り終えるとステラはまた膝を抱えてそこに頭をうずめてしまいます、お話なんてしませんといった感じです。
「その、アリスさんといってましたが、どなたです?」
「うちのメイドさん」
と思いきや、気になった事を尋ねたら話してくれました。先ほど呼んでいたアリスと言う人は。ステラの家ステラのご飯等の身の回りのお世話をする人だそうです。
母さん以外がそう言った事をする人がいてそれが仕事になると言う事に僕は大層驚きました。今度から母さんが普段やってる何気ない事にもっと感謝して手伝えることはしてあげた方がよいのではとも思いました。それにその人は才能鑑定の日にステラと一緒にいた人だったようです。
「へぇ、そんなひとが、それじゃ、そのひともきっとしんぱいしてますね、すてらのことをたいせつなひとだとおもってるでしょうから」
「してないよ、アリスはおしごとでわたしのおせわをしてるんだもん、それにかぞくじゃないもん」
「たいせつにおもうにはかぞくでないとだめなのですか?」
アリスはその人は仕事だからステラの事を大切にしているだけで、仕事が無ければ他人なのだから心配なんてする訳ないと言います。
家族じゃないと大切に想う事は駄目なのでしょうかと僕は言います。もしそうだとしたらそれはとても悲しい事だとも僕は言いました、僕は家族では無くても先生の事を大切な先生だと思っていますし、それに。
「ぼくはステラのこともたいせつだとおもってますよ」
「ほんと?」
ステラが僕の言葉を聞くとその顔を上げてくれます、僕はもう一度、ステラの事を大切な人だと繰り返し言ってあげます、一緒に森を遊びまわった初めて出来た友達。
それを大切と想わないなんて事はきっと正しい事では無いと思うから。
「そっか、そうなのかな」
「きっとそうですよ」
「……うん、かえったとき、アリスおこらないかな」
「それは……おこるでしょうね、でも、そしたらいっしょにおこられてあげます!」
「ティグレくんがいっしょに?」
「はい、ぼくもいっしょについていきます、ステラはぼくがまもりますよ」
「……ありがと」
「いえ、ぼくがやりたいからやるだけです、さてと、もりのなかはこわいのでぼくのおうちにいきましょう」
「ティグレくんのおうち?」
僕の言った事でステラは帰る気になったのでしょう、帰った時怒られないかの心配を始めました、その時は僕も一緒に行きましょう、行くには母さんの説得が入りますが、友達の為とあれば、きっと折れてくれる筈です、そして帰ると言えば僕もお家に帰りたいと思います、このまま、ここで寝たりしたら、明日の朝大騒ぎでしょう。
「てをしっかりにぎって、ついてきてくださいね」
「う、うん」
こうして、ランタンを持つ手と別にステラの手を掴んできた道を僕は帰る事にするのでした。
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