再びの喧嘩

「なんだー、おまえー」

「おまえ、この前の聖堂の」

「なんだよ、チビ、やるのかよ」


 僕の言葉と同時に三人が振り返ってきます、一人はドラゴ、一人は僕がフードを取った所を多分見たのでしょう、黒髪の事を言います。


「そのこはないてるのです、かわいそうなのです、それはやってはいけないことなのです」

「また、いいこちゃんぶりやがって、こいつの才能がとんでもなく変だからそれを俺達は言ってるだけだぜ、何も悪い事じゃないぜ」

「どんなさいのうでもそんなふうにいうことはあってはいけないことなのです!」

「そうじゃのう、才能とはその多くは褒められるべきものじゃて、よくないのう」

「なんだ、この爺!?」


 ドラゴはとても酷い事を言っております、どんな才能もけっして屑などと呼ばれる物は無い筈なのです。それをそんな風に言うとは、悪いとは思わないのでしょう。 

 そして、後ろからはセンお爺さんも僕と同じ様に意見を述べています。


「ごちゃごちゃとうるせぇな、お前ら、こんな雑魚やっちまうぞ!」

「あわわ!? けんかはだめなのです」

「トラ、刀は預かるぞ、子供の喧嘩じゃて、儂は横入りせぬ」

「センおじいさん、うわっ!?」

「避けるなよっ!」


 とうとうドラゴ君は怒りだして、僕にこの前と同じように拳を振るってきます。

慌てて横に避けると、今度は別の男の子が体当たりをしてきそうになるので、転がって避けました、いつのまにかセンお爺さんは背負っていたカタナを僕から外し離れていました。うう、母さんから喧嘩はいけないと言われてます、手は出せないのです。


「なんだなんだ反撃して来ないのか!」

「けんかはいけないことなのですよ、こぶしをふるうのをやめるのです」

「なら大人しく殴られろよ!」

「いたいのはいやなのです!」

「トラ、後ろからも来とるぞ、右に飛べ」

「はいなのです!」


 こちらからは手は出せません、喧嘩はいけない事なのです、とにかく拳や蹴りから逃げて逃げるのです。三人からの攻撃は幸い、一人一人ずつです、それにセンお爺さんが後ろからくる攻撃なんかは声で教えてくれます、手は出しませんが口は出すと言う事なのでしょう、やがて。


「そこじゃ、トラしゃがめ」

「はいなのです」

「なっ!」「ぶぅ!?」


 お爺さんの言う通りしゃがんでみると、その上でドラゴ君と前にいた子がお互いにお顔に拳を入れていました、アレは痛そうです。ドラゴ君は鼻を前の子は頬を抑えて逃げていきます。唯一、怪我をしてない子もそれを追って行ってしまいました。


「ふぅ、もうだいじょうぶなのですよ」

「く、くろかみのあくま、う、うわあああああ!」


 三人が逃げた後、一人座っていた男の子に近づいて声をかけます、ですが男の子は僕にそれだけ言うと、慌てて逃げ去って行ってしまいます、それに何故か見られております。


「トラ、フードを被りなおせ、外れとるよ、さて、今日は帰ろう」

「あ、うっかりなのです、わかりました」


 センお爺さんの言ってくれた事でフードが外れてるのに気づいたので僕はフードを被りなおします、黒髪は珍しいので目立つのですね。後はセンおじいさんの言う通り街門を出て、お家への道に送って貰えます。


「折角助けたのに、礼も言われんで残念じゃったの」

「いえ、おれいをいわれたくてやったわけではございません」

「それじゃ何か? この世知辛い浮世で義侠心が働いたとでも?」

「どうなのでしょう、しなければとからだがうごいてました」

「かっかっか、それが義侠心じゃて、ではまた会おう、今日はさらばじゃ」

「べつにもういいのですよ」


 最後、僕にセンおじいさんは御礼も言わずに逃げてしまった子供の事を言いました、確かに御礼を言わないのはいけないと思いますが、かといって御礼を言われる為にやった訳でもございません、なぜだか動いたのです、あれはいけない事だ、辞めさせるべきだと、この気持ちこそがセンおじいさん曰く義侠心だそうです。それだけ言ってセンおじいさんとはお別れをしました、僕も今日の夕飯が何かを想いながらお家に帰ります。


 あ、でも、センおじいさんから預かった宝物は秘密基地に隠しておきましょう。

きっと、母さん達がみたら驚いてしまいますから。




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