カウンセリング初日(4)

 午前9時30分、カウンセリング1件目の飼い主と依頼者が来院した。

 カウンセリングを依頼した飼い主は、受け付けでネット予約した内容に間違いないか、変更箇所がないか、確認し。内容に変更がなければ、サインをする。


 今回の依頼者は、ゴールデン・レトリバーのモモ。性別雌、年齢4歳。飼い主は、年齢35歳の女性で既婚者。

 依頼書には、こういう欄がある。依頼者との出会いを記入してください。この欄には、こう書かれていた。


 私たちは主人の実家に住んでいました。子供はいません。モモを我が子のように可愛がっていました。

 今から4年と3ヶ月くらい前のことです。突然、友人が連絡もせずに訪ねて来て。事情があり、この子を引き取って欲しいと泣き疲れ。猫は飼ったことがあったが犬は飼ったことがなく、どうしょうか迷っていると。モモの寝顔に引かれてしまい、飼うことにしました。以上のことが出会いの欄に書かれていた。


 来院する際は、動物たちは基本的にキャリーバッグに入れられ来院する。モモは大型犬、なのでキャリーバッグの来院には少し無理がある。この場合は事前に依頼書のチェック項目の大型犬にレ点をし、キャリーバッグなしにレ点をする。

 依頼書(問診票に似ている)には、依頼者の顔写真と横向きの全体写真の添付が必須となっていて、項目には、具体的にとか、詳しくとか、記入欄がある。

 田中先生とナナは、このモモの写真を見て唖然とした。これがあのゴールデン・レトリバーなのか、あまりにも痩せ細っていた。


 依頼内容には。10月29日に、夫の転勤で大阪から東京に引っ越ししました。私たちはモモのことも考えずに、夫の夢であった本店異動に浮かれていました。それは事実です。

 引っ越しが原因なんでしょうか。引っ越ししてから急にご飯を食べなくなり、悲しい表情をしたままリビングから動こうとしません。3日間経ち何も食べません。

 私たちはモモを知人の紹介で、ある病院に連れて行くと。先生からは、どこも悪くないと言われ。ただ、これはストレス性のもので、おそらく環境の変化だろう。引っ越しが原因かと思われます。しばらくすれば徐々に食欲は戻るはず。そう言っていました。

 それから2週間が過ぎ、いまだご飯を食べません、状況はかわりません。そこで、病院を替えよと思い、ネットで検索しました。藁をも掴む思いです。どうかよろしくお願いします。モモを助けてください。依頼内容は以上。


 モモの飼い主は、心配そうな表情で少し取り乱している様子だが。ご夫婦でここに来院したご主人は、わりと冷静にモモを抱え、田中先生のモモを託した。


 犬の顔を見れば一目でわかるとはどういうことなのか。モモの飼い主は、この病院はかなり有名な病院だと知り、信用するしかない。そう思い、カウンセリング用の待合室でモモを待つことに。


 このカウンセリング用の待合室は、畳6畳の部屋に、両脇に長椅子が置かれている。


 Kルームでは、モモを床にゆっくりと置き、その様子を見ているナナは、田中先生にケージは必要ないことを告げた。

 その時、突然モモが立ち上がり、驚く2人。そんな気力もないはずなのに。

「あなた、人間の言葉が喋れるの!? だったら、私を彼のところに連れって、お願いします!」

 渾身の想い、そんな感じをナナは受け。

「彼!? それって、わかった。連れっていてあげる。しかし、その前に詳しい話を聞かせて?」


「連れて行ってあげる」、この言葉が効いたのか。モモは、心持、少し元気になったような。


 ナナは、田中先生に事情を話し、ソファーに2人座り。モモは、彼氏である、ゴールデン・レトリバーのラッキーのことを話し始めた。

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