ナナと田中先生、動物園に行く(2)

 本日、ナナの紹介をするために、従業員全員スタッフルームに集まっている。

 昨日、鈴は従業員全員に一斉メールをし。その内容は、新しい仲間が増えるため、必ず出勤するように、とだけ書かれ。今までにこんなメールを受け取ったことがない従業員たちは、その話で持ちきり状態。

 するとそこへ、早川副院長が入り、その後に鈴が入り、右手にはキャリーバッグを持っている。


 ここスタッフルームは、真っ白な壁に、丸テーブルに長テーブルが混在して置かれ、給湯室もあり、休憩室にもなっている。みんな各自の定位置があるようで、椅子に座っている。


 鈴と早川副院長の2人は、出入口の近くに立ち、鈴はキャリーバッグを床に置き、突然こんなことを喋り始めた。


 みなさん、お疲れ様です。台風の被害もなくなによりです。本日、新しい仲間を紹介するにあたって、みんなにお聞きしたいことがあります。これは真面目な話ですのでお願いします。


 もしこの世の中に、人間と同じようなに言葉を喋り、人間と同じ知能を持っている動物を発見したら、どうしますか。もしその動物がいろんな動物たちと会話できるとしたら、どうしますか。この場合、いろんなケースが考えられます。


 例えば、SNSで広め、一躍人気者になり、世界中の注目の的になり。そして、テレビの取材が殺到し、有名人になり、莫大な富を得る、と言うシナリオ。

 例えば、その動物を狙う連中も出てくるでしょう。どういう構造になっているのか、研究材料にする者も出てくるはず。或いは、その遺伝子を増やそうとする者も現れるはず。よって、その動物の人権は無視される。


「そこで、みんなにお聞きします。もしそんな動物がいたら、みんなならどうしますか?」

  

 その問いに、真っ先に手を挙げたのは、獣医師の田中真奈美。この動物病院に勤めて2年目の27歳。椅子から立ち上がり、鈴の問いに答えた。


 その動物には人格があると言うことですね、私なら隠します。動物は見世物のじゃありません、人間の好き勝手にはさせません、私ならその動物を守ります。

 矛盾していますが、私は動物園が大好きです、その意義もわかります。しかし、これは人間の身勝手かもしれません。

 話がそれましたが、1番に考えなくてはならないことは、その動物を1人の人間として尊重しなければなりません。即ち、その動物の意思を尊重すること。その動物がどう生きて行きたいのか、それを決めるのは私たちではない。

 果たして、動物が人間のように喋った方がいいのか。そういう考えは、人間の身勝手というもの。しかし、矛盾していますが、動物たちが何を考え、何を思っているのか知りたい、動物たちと話してみたい、動物たちとわかり合いたい。正直、私はそう思います。全ては人間の身が手な思いです。ただ、もし院長の言う動物がいたら、動物たちの通訳をして欲しいですね。田中先生はそう言い、椅子に座った。


 鈴はその回答に、田中先生の方を見ながら。

「さすが田中さん、私と同じ考えですね。みんなは、田中さんの考えをどう思いますか?」

 すると、みんな田中先生に賛同し。鈴はここにいる従業員を信じ。

「みんな、その動物を守ってくれますか?」

 みんな口を揃え、守ると言った。鈴はその言葉に目頭を熱くさせ。

「わかりました。確かに聞きました、あなたたちの想い……。もし私を裏偽ったら、その時は覚悟してください。このことは他言無用でお願いします」

 その時、突然田中先生が立ち上がり。

「院長! それって、まさか……本当なんですか? そんなことがあり得るんですか?」


 その発言に、みんなどよめき始め。鈴はテーブルの上にキャリーバッグを置き、中からナナが出て来ると、更にどよめきが増し、みんなナナに釘づけ状態になっている。

「みんな、今日から私たちの仲間、私たちの新た家族を紹介します。ナナさんです」

 ナナは、従業員たちの視線を浴びながら、緊張はあまりせず、目頭を熱くさせ。

「初めまして、ナナと申します。私、感動しています。私のことを大切に思っていただきありがとうございます……。ここで働くことになり、どういった形で働くのか、まだ決まっていませんが、これから動物たちのために働きたいと思っています。どうぞよろしくお願いします」

 ナナは、深々と頭を下げ、従業員たちは困惑している。しかし、田中先生が拍手をし、それにつられて他の従業員たちも拍手をした。

 突然喋る猫が現れ、働くとはどういうことなのか、そもそもこの猫はいったい何者なのか、まるでアニメを見ているような感覚の従業員たち。

 すると、田中先生が手を挙げ。

「院長、説明してもらえますか!? これはいったいどういうことですか?」


 鈴はその問いに、ナナとの出会いの経緯と、従業員たちにナナを紹介した訳を話し。ナナに極力過去のことを聞かないようにお願いし、診断画像のことは後日みんなに見せると言った。果たして、みんなはあの診断画像を見てどう思うのか、鈴はみんなのことを信じている。

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