30年後のための歌

naka-motoo

0年次

 わたしの名前は桃花とうか


 わたしがいじめ地獄に突入したのは小学校4年生だから2年経過した。当事者であるわたしが強く言いたいのは負けるが勝ちってことだ。


 負けるが勝ち。


 今は勝利の時代だ。

 そもそも学校の学習は勝敗を前提に運営理念までに落とし込まれている。


 スポーツも。


 そうでなければ箱根があそこまでもてはやされる訳ない。ただ走ってるだけで全人格まで他者に勝ったみたいな大騒ぎだ。


 それに引き換えわたしは4年生の頃から負け続けている。


 突然女子男子の両方から後頭部をはたかれたり。


 SNSのアカウントを無理矢理訊き出されてわたし自身が卑猥なつぶやきをして拡散するよう強要されてしかもアカウントを削除することも許されなくて。


 そのつぶやきを親に知られて親から折檻ほどにも叱られて。


 ほんとのことを言わないわたしが悪いんだろうか。


 それからわたしが数あるいたぶりの中で一番生理的にも心理的にもダメージを被る行為。


 唾液だえきを垂らされる。

 頭頂部に。


「くすくす。もっとくちゅくちゅしなよ」

「えー。かわいそうだよー」

「バカ。どうせかけるんだからかわいそうもなにもないだろー?」


 口腔こうこうの中で何度も何度もこねるようにして醸成するみたいに混ぜられて量を確保しようとする唾液だえき


 わたしはクラスがある二階の窓の下に立って、一歩も動くことを許されない。


 ぷちょ。


「命中!」

「あんた上手いね」


 臭い。


 わたしに二階の窓から唾液だえきを垂らす女子ふたりは可愛くて男子から告白もされてる子たちだけど。


 臭いよ。


 あなたたちのつば



 吐きそうなぐらい臭いよ!


「臭い臭い臭い臭い!」

「てめえ!」

「バカ野郎!」


 唾液とゴミ箱のゴミと誰も掃除しなくてヘドロが溜まってた金魚の水槽の水が降ってきた。


 わたしは一歩も動けない。


 違う。


 動かないんだ。


 ざまあみろ。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る