第54回(改) BB小説家コミュニティでの活動

 BB小説家コミュニティのDiscordには、毎日誰かしらが何か書き込みをしている。

 執筆部屋、という音声チャンネルがあり、執筆をする時にはそこに入ることとなっている。もちろん、チャンネルにアクセスしないで、好きなように書いていたっていい。

 執筆部屋は三部屋に分かれていて、「集中部屋」「執筆部屋(おしゃべりok)」「集中部屋(ペットok)」となっている。


 「集中部屋」は、文字通り執筆に集中するだけの部屋。音声チャンネルではあるが、全員音声はミュートにして作業をする。チャンネルにアクセスしていると、誰がいま現在その部屋に入っているかが可視化されるので、「あ、いま、あの人が頑張って書いてるんだな」と思いながら、「よーし自分も!」と入りやすくなる仕組みだ。


 「執筆部屋(おしゃべりok)」は、音声をオンにしてもいいチャンネルだ。参加者同士で音声による交流を楽しむことが出来る。別に喋るだけでもいいし、喋りながら執筆したっていい。


 そして、「集中部屋(ペットok)」。

 ここが一番カオスで、元々は「執筆中にペットの鳴き声が入っても構わない部屋」としていたのだが、時間とともに、「ペットの写真を上げて自慢する部屋」「そんなペットの写真を見てほっこりする部屋」と化していったそうだ。

 さっそく、編集者の一人である天岸さんが、飼い猫の写真をアップしていた。

 それを見て私も、うちの飼い猫達の写真をアップしてみたりした。


 そんなこんなで、たまに執筆部屋に入ったりしながら、「レ・ミゼラブル」の原稿を進めつつ、『水滸ストレンジア』の執筆も進めていた。


「せっかく小説家コミュニティに入っているんだから、目標は、三ヶ月後に電子書籍を一冊販売することくらいはしたいな」


 そう考えていた私は、まずは電子書籍のプロットをまとめてみた。


 内容としては『水滸ストレンジア』のスピンオフとなる物語である。

 あらすじは以下のような感じだ。


「少数民族の少女扈三娘こさんじょうは、故郷を目指しての旅の途中、魔境へと迷い込んでしまう。そこは獣面人身の者達が住む祝家荘と呼ばれる土地。祝家三兄弟の戦いに巻き込まれた彼女は、三男祝彪より争いを止めるよう頼まれる。彼女は仲裁に乗り出し、見事に解決するが、事態はそれだけでは終わらなかった――双剣の美少女が戦場を駆け巡る中華バトルファンタジー、ここに開幕!」


 BB小説家コミュニティでは、一万文字まで小説の感想をもらうことが出来るが、何も見てもらうのは本文だけでなくても良かった。


 プロットについても、見てくれるのである。

 ただし、プロットに関しては千文字までにまとめること、という決まりがあった。


 そこで私は、先述のあらすじに沿って、さらに内容を膨らませて、千文字のプロットを作ってみた。

 次のような感じである。


 ※ ※ ※


 少数民族スーミン族の少女扈三娘は、双剣を巧みに扱う無双の少女である。

 ある日彼女は中華の皇帝に拉致され、世界中の美姫が集められた崑崙宮に幽閉されてしまう。その後、崑崙宮内で起こった混乱に乗じて、外へと脱出する。そしてスーミン族の村を目指して、一人旅を続ける。

 道中、扈三娘は奇妙な地へと迷い込んでしまう。そこは獣面人身の人外うろつく魔境。祝家荘と呼ばれるその地では、荘主祝朝奉の息子達が後継者争いを起こしており、勢力が三つに分かれていた。

 その内の一人、三男の祝彪と、扈三娘は出会う。祝家荘の中でも唯一人面人身の彼は、儚げな雰囲気を持つ美少年だった。そんな祝彪は争いを好まず、この地に平和をもたらすことを扈三娘に頼んでくる。

 美少年の頼みを断り切れない扈三娘は、祝家荘の武術師範である欒廷玉と力を合わせて、戦闘中の長男祝龍と次男祝虎の仲裁へと入る。彼女らは圧倒的な武勇を発揮し、祝龍と祝虎を見事に制圧する。

 扈三娘達は三兄弟を連れて、祝朝奉を訪ねた。目的は、父親である彼から、三兄弟の争いを止めるよう言葉をかけてほしい、というものだった。祝朝奉は承諾し、三兄弟に仲直りを約束させ、これで事態は収束したかに思えた。

 ところが、翌朝、祝彪が亡骸となって発見される。何者かに殺されたのだ。

 祝龍と祝虎は、お互いが犯人ではないかと疑い、再び決別してしまう。やがて祝家荘内で戦争が勃発してしまう。

 祝彪を殺されたことに怒りを覚え、欒廷玉とともに犯人を捜していた扈三娘は、祝朝奉が怪しいことに気が付く。彼女らは祝朝奉の屋敷に乗り込むと、彼を詰問し、ついにその真意を暴く。祝朝奉は、息子達を相争わせ、生き残った者を後継者としようと考えていたのだ。その後祝朝奉は襲いかかってくるが、返り討ちに遭う。

 真相を明かして戦争を止めよう、と祝龍、祝虎が一騎打ちをしている現場に乗り込んだ扈三娘達。ちょうど祝虎がとどめを刺されそうになっているところを、止めに入る。

 だが、欒廷玉が突然、祝虎を殺害した。そして「あなたが荘主です」と祝龍に告げる。

 実は祝彪殺害の犯人は欒廷玉だった。彼女は祝朝奉の命令で、三兄弟を裏から操り、争わせていたのである。そのことを知った扈三娘と祝龍は、欒廷玉と対決し、死闘の末、彼女を倒す。

 戦いが終わり、一人残った祝龍は、祝家荘の再建へと乗り出す。

 扈三娘は祝家荘を後にし、またスーミン族の村に向かって旅を続けるのであった。


 ※ ※ ※


 我ながら、実に漢字の多いプロットである。

 それに中国人名も多数出てくるので、読みにくいのではないか、と危惧していた。


 ところが、編集者はちゃんと内容を見てくれていた。


 このプロットもまた、前回『水滸ストレンジア』の冒頭一万文字を読んでくれたサマンサ編集長が見てくれた。


「拝見しました〜。全体としては良いと思います。細かいところで、黒幕であったお父さんの祝朝奉の処分をどうするかを決めておきたいですね。処刑なり追放なり。あとは主人公と祝龍2人が最後に残るので、祝龍の人間性が主人公に見えるシーンがあると良いと思います。主人公と仲良くなった祝彪は死亡してしまうので」


 端的に、必要な修正要素を書き出してくれている。


 商業出版の世界から離れて以来、こんな風に誰かに、的確にアドバイスをしてもらえる機会は無かったので、とても嬉しくなった。

 これだ、この感覚だ。

 自分一人では難しいクオリティの作品を作るために必要な、洗練された第三者のコメント。それが欲しかった。


 私は、BB小説家コミュニティの編集者達に、次にどの小説を見てもらおうか、楽しい気分で作品選びを始めるのであった。

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