第52回(改) BB小説家コミュニティとの出会い

 この頃、Twitter上で面白い動きが湧き起こっていた。


 スペースの登場である。


 音声だけの配信機能であるが、様々な人達がこの新しい機能を面白がって使い、連日のように誰かが何かを配信していた。


 その中で、一際目を引くスペースがあった。


 アカウント名は「オタクペンギン」。


 以前より相互フォローはしていたものの、特にあまり深く関わることのなかった人である。

 会社の社長であるということはわかっていた。

 ただ、その会社が、私から見れば怪しい存在だったので、距離を取っておいたほうがいい、と考えていたのである。


 会社の名前は、株式会社BookBase。2019年に設立された、かなり若い会社である。

 その会社概要を見れば、


「誰でも自作の小説や漫画を掲載し、販売することのできる出版プラットフォームです。小説家、漫画家、イラストレーター、翻訳家が稼げる環境をつくることで最高の物語が生み出され続ける世界を実現します」


 と書かれている。


 大手の出版社でも散々に苦労してきた自分からすれば、何を夢のようなことを語っているんだか、と白けるような思いであった。


 私にはわかっていた。誰でも自作の小説を掲載できる、ということは、読者からすれば、そのクオリティは保証されない、ということである。同人活動をしたことがあるから、どれだけ出版社を通さない本が売れないか、よく理解していた。

 この会社は泥船だろう。関わってはいけない。

 そんな風に考えていた。


 だけど、2021年7月。

 オタクペンギン社長が開いていたスペースは、非常に興味深いタイトルのものだった。うろ覚えであるが、たしか、出版業界に関わる内容だったと思う。

 まあ、この内容であれば、ちょっと試しに聞いてみるか、と思って飛び込んでみた。


 そこには、ものすごい早口で熱く語る、ただのオタクがいた。


(意外と若いな……!)


 勢いに圧倒されながら、その話に耳を傾けてみた。

 コンテンツ産業に対する熱い想いが溢れている。現状の態勢を憂えながら、夢と希望を語っている。


(何を語ってくれちゃっているんだか)


 出版業界に対して冷めた思いしかない私は、レ・ミゼラブルのプロジェクトに力を入れていたこともあり、業界は信じない、在野でゲリラ的に戦ってやる、と思っていたので、オタクペンギン社長の話にウンウンと頷きつつも、騙されてたまるか、という気持ちが強かった。


 しかし、そのオタクペンギン社長が、スペースをやりながら同時に展開していたツイートで、興味深いものがあった。


 BB小説家コミュニティ。


 BookBase自体が得体の知れない会社であるのに、そこが運営している、さらに怪しさ全開のコミュニティ。

 しかし、私は、どうしようもなく惹かれるものを感じていた。


 出版社の後ろ盾が無くなり、感染拡大の世で友人の作家達ともなかなか会えない中、私の活動はひとりぼっちの寂しいものとなっていた。

 たった一人で無我夢中に活動するのも、その内に限界を迎えそうな気がしていた。

 レ・ミゼラブルの酒井社長は、信用できるいい人ではあるが、クライアントであるから仲間と呼べるような関係性ではない。

 それが、このBB小説家コミュニティに入れば、仲間と巡り会えるかもしれない。


 でも、どうしよう……。


 実のところ、小説系のコミュニティには、一度だけ所属していたことがある。

 けれども、そこの空気感がたまらなく嫌で、私は逃げ出すようにそのコミュニティを脱退したのだった。

 どこかガツガツとしていて、受賞作家やプロ作家でなければ認められないような、そんな雰囲気……。

 しかも、私は当初プロ作家枠で迎え入れられたのに、ある時突然、プロ作家としてのラベルを剥がされて、専用のスレッドにアクセス出来なくなってしまったのだ。

 ああ、そういうことなら知らねーよ、と怒りを覚えたのもまた、そのコミュニティから抜け出すきっかけとなっていた。


 そういう経験があるので、このBB小説家コミュニティでも、また嫌な思いをしたらどうしよう、と迷っていた。


 けれども、7月25日のスペースを聞いて、参加することを決意した。

 実際は申込締切日を迎えた後だったのだが、オタクペンギン社長が「まだ若干名余裕はあります!」と宣伝していたので、ええい、騙されたら騙されたでエッセイのネタにしてやれ、という精神で、飛び込んでみたのである。


 こうして、BB小説家コミュニティの第三期に、私は加わることとなった。

 開始は、8月1日からとのことで、それまでの数日間、私はソワソワしながら時が来るのを待っていた。

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